講演情報
[T1-P-3]南部北上帯 古生代砕屑岩から読み解く原生日本のテクトニクス進化史:岩石学・地球化学的制約★2026年度学生優秀発表賞受賞★
*佐藤 春希1、青木 翔吾1、昆 慶明2、山崎 陽生3 (1. 秋田大学大学院 国際資源学研究科、2. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター、3. 信州大学大学院 総合医理工学研究科)
キーワード:
陸弧、海洋性島弧、背弧海盆拡大
日本列島を含むアジア大陸東縁部は、約5億年前以降の海洋プレートの沈み込みによって形成された活動的大陸縁辺造山帯である。しかし、構造侵食や火成活動による地殻改変の影響により、ペルム紀以前の沈み込み帯に関する地質記録は限定的である。近年の年代学的研究により、従来、日本最古級の前期石炭紀付加体とされてきた東北日本根田茂帯綱取ユニットは、前期オルドビス紀–前期デボン紀に形成された複数の地質体から構成されることが明らかになってきた (Aoki et al., 査読中)。このことは、アジア大陸東縁部において前期石炭紀前後に付加体形成が停滞していた可能性を示唆する。
沈み込み帯における付加体の形成・保存は、海溝への堆積物供給量に強く支配されることが知られており (Clift and Vannucchi, 2004)、陸側後背地の地殻構成は砕屑物供給を介して付加体形成様式と密接に関連する。したがって付加体記録が乏しい時代のテクトニクスを理解するためには、付加体そのものの記録だけでなく、同時代の陸源性砕屑岩に記録された後背地変化を検討することが重要である。
本研究では、古生代原生日本における後背地変化と付加体形成条件を復元するため、東北日本南部北上帯に分布するシルル系︎–ペルム系陸源性砕屑岩を対象に、砂岩モード組成、砂岩全岩化学組成、および砕屑性ジルコンのU–Pb年代・微量元素組成を解析した。
解析の結果、砕屑岩のモード組成、全岩化学組成、および砕屑性ジルコンのU–Pb年代ヒストグラムと微量元素組成には、層序年代に応じた明瞭な変化が認められた。これらの特徴に基づくと、古生代原生日本のテクトニクス進化史は、シルル紀、中期デボン紀–中期ペルム紀、後期ペルム紀の3つのステージに区分できる。シルル紀の砕屑岩は単結晶石英に富み、高La/Yb比と顕著なEu負異常を示す。また、先カンブリア時代を含む古い砕屑性ジルコンを多く含み、シルル紀–オルドビス紀ジルコンは高U/Ybを示すことから成熟した大陸弧が後背地に分布していたことが示唆される。一方、中期デボン紀–中期ペルム紀の砕屑岩は火成岩岩片に富み、低La/Yb比と比較的弱いEu負異常を示す。さらに、砕屑性ジルコン年代分布は堆積年代周辺に集中し、低U/Yb比を示すことから、未成熟な海洋性島弧を主要な後背地としていたことが示唆される。後期ペルム紀の砕屑岩では、再び単結晶石英の割合が増加し、ジルコン年代分布は堆積年代周辺だけでなく、450–500 Maにも集中する。さらに後期ペルム紀ジルコンは高U/Yb比を示すことから、後期ペルム紀は堆積場が再び大陸弧的後背地に近接したと考えられる。
以上の結果は、古生代原生日本の後背地が、約400 Maを境に成熟した大陸弧から未成熟な海洋性島弧へと変化し、さらに約250 Maを境に再び成熟した大陸弧へと変化したことを示唆する。中期デボン紀–中期ペルム紀には、現在の伊豆–小笠原–マリアナ弧に類似した海洋性島弧–背弧海盆系が発達し、堆積場が大陸縁辺部から隔離されたことで、海溝への大陸由来砕屑物供給量が低下した可能性がある。このような堆積物供給に乏しい沈み込み帯では付加体を欠く場合があることから(von Huene and Scholl, 1991; Clift and Vannucchi, 2004)、中期デボン紀–中期ペルム紀の原生日本では付加体成長が抑制されたと考えられる。一方、後期ペルム紀には背弧海盆の閉鎖に伴って堆積場が大陸縁辺部に再び近接し、後期ペルム紀の大陸弧および古生代前期の弧地殻を含む後背地から砕屑物が供給されたことで、付加体成長に適した環境へ移行したと考えられる。
[引用文献]
Clift and Vannucchi (2004) Reviews of Geophysics, 42, RG2001.
von Huene and Scholl (1991) Reviews of Geophysics, 29, 279-316
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