講演情報
[T1-P-20]伊豆半島の梨本石灰岩に発達するスタイロライトを用いた応力逆解析
*是枝 李玖斗1、佐藤 活志1 (1. 京都大学大学院理学研究科)
キーワード:
スタイロライト、応力逆解析、梨本石灰岩、自己アフィン性、ハースト指数
スタイロライトは,石灰岩などに発達する凹凸に富む圧力溶解面であり,その形状や姿勢は形成時の応力を反映すると考えられている.広く行われている小断層や岩脈による応力解析では,安定した推定のために多数のデータが必要である.一方,スタイロライトは単一の試料から応力を推定できるという利点がある.スタイロライト面は最大圧縮主応力(σ1)軸に垂直に形成されると考えられており,さらに凹凸形状を複数の方向で解析することで,面内の主応力方位を推定できる可能性がある(Ebner et al., 2010).
スタイロライトの形状は自己アフィン性を示すが,その特徴を記述するハースト指数は,空間スケールによって異なる2つの値を持つことが知られている(例えば,Pascal, 2022).2つのハースト指数の境界となる空間スケールはクロスオーバー長(Lc)と呼ばれ,Lcは平均応力と差応力の両方に反比例すると考えられている.Ebner et al. (2010) は,観察する断面の方向によってLcが異なることに着目し,これが2次元平面(断面)内の差応力に依存すると考えることで,中間圧縮主応力(σ2)軸と最小圧縮主応力(σ3)軸を求める方法を提案した.この手法の適用例はまだ数例しかなく,有効性の検討が必要である.
そこで本研究は,テクトニックな環境がよく分かっている伊豆半島の梨本石灰岩を対象として,Ebner et al. (2010) の応力解析により伊豆弧と西南日本弧の衝突に適合する応力が得られるかを検証した.調査対象である伊豆半島の中新統梨本石灰岩は,有孔虫などの化石を多く産し,緩傾斜の層理がよく発達している.梨本石灰岩には,層理面にほぼ平行なスタイロライトが多数見られる(Mitsui, 1967).本研究では,採取した石灰岩試料に含まれる3つのスタイロライトを,それぞれ3方向の断面で観察し,その形状を測定した.クロスオーバー長(Lc)の決定には,スタイロライト面に平行な空間スケールと,それに直交する凹凸のスケールを比較するheight-height correlation function(Ebner et al., 2010)を用いた.次に,断面の方位とLcとの関係を正弦曲線で近似し,その極大・極小を与える方位からσ2軸とσ3軸を求めた.解析の結果,1つのスタイロライトにおいてσ2軸とσ3軸を求めることに成功し,σ2軸はNNW-SSE方向であった.
スタイロライトを形成する圧力溶解は,数MPa程度の小さな差応力でも起こるため,σ1軸は続成過程の上載荷重,すなわち鉛直方向に対応すると考えられる.この場合,水平面内の最大圧縮方向がσ2軸に対応するが,これは伊豆弧の衝突テクトニクスの影響と考えて矛盾のない方向であった.しかしながら,解析した残りの2つのスタイロライトでは,2つのハースト指数の違いが十分でなく,Lcを決定できない断面があった.これらのスタイロライトでは,凹凸の特徴が試料内で一様でないことが確かめられた.本研究により,スタイロライトがテクトニックな応力を反映する場合があることが示された.ただし,解析対象を選定する際には,凹凸の特徴が一様であるものを選ぶ必要があることが示唆された.
引用文献
Ebner, M., Toussaint, R., Schmittbuhl, J., Koehn, D., Bons, P., 2010. Anisotropic scaling of tectonic stylolites: A fossilized signature of the stress field? J. Geophys. Res. Solid Earth 115 (B6), B06403.
Mitsui, S., 1967. Stylolites from the Izu Peninsula, Shizuoka Prefecture, Japan. Sci. Rep. Tohoku Univ., Second Ser. Geol. 39 (2), 149–157.
Pascal, C., 2022. Paleostress Inversion Techniques: Methods and Applications for Tectonics. Elsevier.
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