講演情報
[R1-P-12]岐阜県田原産WとNbに富むコルンブ石超族鉱物の化学組成の再検討
*坂野 靖行1、小暮 敏博2、奥村 大河2 (1. 産総研、2. 早大)
キーワード:
鉄重石、コルンブ石、フーリエ変換赤外分光法、水酸基、田原
岐阜県中津川市蛭川田原産花崗岩ペグマタイトよりWとNbに富むコルンブ石超族鉱物が見出され,その組成的特徴は3年前の本学会で報告した(坂野,2022).それは長さ30~900 μm,幅10~100 μmの黒色不透明の柱状結晶であり,BSE像では中心部に非常に輝度が高い部分があり,その周囲や結晶先端では中心部に比べて相対的に輝度の低い部分が観察される.前者をコア,後者をマントルと呼ぶことにする.坂野(2022)はFe3+の存在を仮定し,コアとマントルの実験式をO = 4で計算し,全陽イオン = 2 apfuとしてFe3+/(Fe2+ + Fe3+)の値を見積もった.その後,FIBにより薄膜試料を作製しSTEMによる高分解能観察及びEELS分析を行なったところ,コア・マントルともにFe3+の存在は確認できないこと,コアは均一なferberite–hübneriteの構造であるが,マントルではa軸方向に(ferberite–hübnerite) / columbite単位層の不規則混合層となっている事が判明し,一昨年の本学会で報告した(小暮ら,2023).そこで今回はこれらの実験結果をもとに同鉱物の化学組成の再検討を行ない,Fe3+を含まない実験式を提案する.
まずはFeの価数を2価としてEPMAの分析結果を再計算したところ,コアのWO3とNb2O5 の組成範囲はそれぞれ58.49-70.18 wt%,4.40-12.22 wt%であり,その平均組成(n = 32)はWO3 60.52, Nb2O5 10.74, Ta2O5 1.55, TiO2 0.10, ZrO2 1.02, SnO2 0.40, Sc2O3 1.33, FeO 14.71, MnO 8.45, total 98.82 wt%となり,有意の精度で100%を下回った.一方,マントルのWO3とNb2O5 の組成範囲はそれぞれ21.67-51.12 wt%,19.72-45.98 wt%であり,概ね周辺に向かってNbが増加しWが減少する.マントルの平均組成(n = 185)はWO3 31.68, Nb2O5 38.09, Ta2O5 6.15, TiO2 0.35, ZrO2 0.40, SnO2 0.31, Sc2O3 0.76, FeO 10.89, MnO 10.71, total 99.34 wt%となり,かなり100%に近くなった.
薄片から分離した100 × 40 × 30 μmのマントルの小片を用いてFTIR分析を行なったところ,3400 cm-1付近にO-H伸縮振動に起因するブロードなピークが認められ,EPMAの平均組成が100%を下回ったのは構造中にOHが存在するためと考えられた.
Ferberite–hübnerite [(Fe,Mn)2+W6+O4]構造への(Nb,Ta)5+の固溶を導く置換として,以下のような複合置換が提案されている:(1) (Fe,Mn)2+ + W6+ = Fe3+ + (Nb,Ta)5+, (2) (Fe,Mn)2+ + W6+ = Sc3+ + (Nb,Ta)5+, (3) W6+ + O2- = (Nb,Ta)5+ + OH-.コアにはFe3+が含まれないことから,コアでは(2)及び(3)の置換でW6+の一部が(Nb,Ta)5+により置き換えられたと考えられる.全陽イオン(Hを除く)と陰イオン(O,OH)をそれぞれ2.00及び4.00 apfu,全鉄 = Fe2+及びチャージバランスを基にしてOH量を見積った.コアの平均組成の実験式は(Fe2+0.582Mn0.338Sc0.055Zr0.024Sn0.008Ti0.004Nb0.230Ta0.020W0.741)Σ2.00[O3.838(OH)0.162]となり,計算されたH2O量(0.51 wt%)を加えた平均組成のtotalは99.33 wt%となり,100%に近い値となった.
一方,マントルの平均組成の実験式は(Fe2+0.392Mn0.390Sc0.028Zr0.008Sn0.005Ti0.011Nb0.740Ta0.073W0.353)Σ2.00[O3.927(OH)0.073]となり,見積られたH2O量(0.26 wt%)を加えた平均組成のtotalは99.60 wt%となった.WとNbに富むコルンブ石超族鉱物の実験式の決定にはFeの価数とOHが存在するかどうかの確認が重要である.
まずはFeの価数を2価としてEPMAの分析結果を再計算したところ,コアのWO3とNb2O5 の組成範囲はそれぞれ58.49-70.18 wt%,4.40-12.22 wt%であり,その平均組成(n = 32)はWO3 60.52, Nb2O5 10.74, Ta2O5 1.55, TiO2 0.10, ZrO2 1.02, SnO2 0.40, Sc2O3 1.33, FeO 14.71, MnO 8.45, total 98.82 wt%となり,有意の精度で100%を下回った.一方,マントルのWO3とNb2O5 の組成範囲はそれぞれ21.67-51.12 wt%,19.72-45.98 wt%であり,概ね周辺に向かってNbが増加しWが減少する.マントルの平均組成(n = 185)はWO3 31.68, Nb2O5 38.09, Ta2O5 6.15, TiO2 0.35, ZrO2 0.40, SnO2 0.31, Sc2O3 0.76, FeO 10.89, MnO 10.71, total 99.34 wt%となり,かなり100%に近くなった.
薄片から分離した100 × 40 × 30 μmのマントルの小片を用いてFTIR分析を行なったところ,3400 cm-1付近にO-H伸縮振動に起因するブロードなピークが認められ,EPMAの平均組成が100%を下回ったのは構造中にOHが存在するためと考えられた.
Ferberite–hübnerite [(Fe,Mn)2+W6+O4]構造への(Nb,Ta)5+の固溶を導く置換として,以下のような複合置換が提案されている:(1) (Fe,Mn)2+ + W6+ = Fe3+ + (Nb,Ta)5+, (2) (Fe,Mn)2+ + W6+ = Sc3+ + (Nb,Ta)5+, (3) W6+ + O2- = (Nb,Ta)5+ + OH-.コアにはFe3+が含まれないことから,コアでは(2)及び(3)の置換でW6+の一部が(Nb,Ta)5+により置き換えられたと考えられる.全陽イオン(Hを除く)と陰イオン(O,OH)をそれぞれ2.00及び4.00 apfu,全鉄 = Fe2+及びチャージバランスを基にしてOH量を見積った.コアの平均組成の実験式は(Fe2+0.582Mn0.338Sc0.055Zr0.024Sn0.008Ti0.004Nb0.230Ta0.020W0.741)Σ2.00[O3.838(OH)0.162]となり,計算されたH2O量(0.51 wt%)を加えた平均組成のtotalは99.33 wt%となり,100%に近い値となった.
一方,マントルの平均組成の実験式は(Fe2+0.392Mn0.390Sc0.028Zr0.008Sn0.005Ti0.011Nb0.740Ta0.073W0.353)Σ2.00[O3.927(OH)0.073]となり,見積られたH2O量(0.26 wt%)を加えた平均組成のtotalは99.60 wt%となった.WとNbに富むコルンブ石超族鉱物の実験式の決定にはFeの価数とOHが存在するかどうかの確認が重要である.