講演情報

[1O08]個人の義務から見る中国人権論の連続性ー中華民国と中華人民共和国の比較を通して

*楊 懿之1 (1. 名古屋大学大学院国際開発研究科)

キーワード:

中国、人権、義務、歴史、概念の変遷と連続

中国人権論に関する研究は、大きく歴史的方法と実証的方法に分類され、本研究は前者に依拠している。歴史的方法には、時代を横断的に扱うものと、特定の時代に焦点を当てる二つのアプローチがあり、いずれも中国人権論に連続性が存在し、前時代の理論や内容が継承されていると指摘する。しかし、先行研究は連続性を明らかにする過程で、共和国期の検討が民国や清末に比べて相対的に不足し、共和国の体制理論面におけるソ連との関係や、前時代との断絶を強調する特徴が十分に考慮されていない。さらに、個人の義務については分析が不十分であり、連続性の有無も不明のまま、研究上の空白が残されている。
 本研究は、史料分析を通じて中華民国期と中華人民共和国期という二つの政治レジームにおける人権論の歴史的展開、内容、特徴、位置付けを整理・分析する。その上で、解釈法を用い、両レジームにおいて「個人の義務」がどのような理論的基盤や思想的枠組みに基づき形成され、憲法にどのように現れ、それが下位法にどのように反映されたかを明らかにする。さらに比較法により、両レジームにおける人権論を個人の義務という観点から比較し、連続性の有無を検討する。連続性が認められる場合、それが人権論のどの側面に表れているかを特定し、共和国が前中華人民共和国時期との断絶を標榜する立場とどのように整合するのかを考察する。また、中国における社会主義の発展と人権概念の制度的位置付けを踏まえ、連続性が主体的選択か、あるいは歴史的・構造的条件によるものを明らかにする。 本研究は、中華人民共和国における人権論を社会主義の発展という歴史的文脈に位置付け、その変遷を捉えるとともに、中華民国との比較を行う点で国内外に類例のない独自の試みであり、新たな知見を提示するものである。さらに、「個人の義務」に着目することで、国際人権論を含む権利中心の従来研究に対して、新たな視座を提供する。

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