実行委員長挨拶

令和6年度 土木学会全国大会を迎えて

「自然とくらしの奥深き風景をつくる土木へ」

西村 拓NISHIMURA Taku
令和6年度土木学会全国大会実行委員会
委員長
(国土交通省 東北地方整備局長)

 

 令和6年度土木学会全国大会は、杜の都・仙台にて、9月2日(月)から6日(金)まで5日間にわたり開催されます。

 東北での開催は平成28年以来8年ぶりとなります。前回大会は平成23年の東日本大震災から5年が経過し、復旧・復興事業が本格化する中、「復興、そして創生へ」をテーマとして、被災地域の「今」と「これから」、地域を元気にする土木の力について議論されました。

 それから8年がたち、東日本大震災からの復旧・復興事業は一部を除き完了しつつあります。現在は、南海トラフ地震をはじめとする大規模地震における犠牲をできるだけ少なくすることを目指し、東日本大震災で得られたさまざまな経験や教訓を全国に広く永く伝えていく「震災伝承」の取り組みが進められるとともに、復興事業によって整備された三陸沿岸道路などの復興インフラを活用した地域の活性化が目に見える形で実を結んできています。

 全国を俯瞰すれば、近年、各地で毎年のように豪雨災害が発生しているほか、震度6強以上を観測する大規模地震も度々発生しています。本年1月には、最大震度7を観測する能登半島地震が発生し、240名を超える方が亡くなられ、多くの方が負傷されたほか、長期間にわたる避難所生活を余儀なくされています。この地震災害で尊い命を落とされた皆さまのご冥福をお祈りするとともに被災された皆さまに対し心よりお見舞い申し上げます。

 今般の能登半島地震では、道路や鉄道、港湾、漁港、水道などのインフラ施設に甚大な被害が生じ、発災直後の救援活動に大きな影響が生じたほか、復旧作業に時間を要したこともあり、地域で暮らし、生業を営む住民の皆さまの生活に大きな影響が生じることとなりました。能登地方をはじめとする被災地のインフラの復旧を急ぎ、一日も早くこの地域における暮らしと生業を取り戻すことが土木に従事する全ての者の責務であり、願いです。

 今回のような大規模な地震は、わが国のどこの地域でも発生する可能性があります。能登半島地震で生じたさまざまな事態を真摯に受け止め、今後、わが国が取るべき針路を関係者で共有し、必要な対策を進めていく必要があるでしょう。特に、今回の地震でインフラの被害が大きく、それによって多大な影響が生じたことを踏まえれば、重要なインフラの強化を計画的に進めることは必須だと考えます。

 さて、今回の東北における全国大会は「自然とくらしの奥深き風景をつくる土木へ」を大会テーマとしました。

 近代以降、人類は競い合うようにさまざまな技術を発展させ、高度で効率的な社会、経済を目指し、これを構築して、その恩恵を享受してきました。その中で土木も発展し、インフラストラクチャー(=下部構造)として社会、経済を支えてきました。一方、近年、自然との共生・調和がより重視され、社会では個性や価値観の多様性の尊重が重視される社会に変化してきています。

 土木は、社会を下支えする存在として、真っすぐに技術の発展だけを目指すのではなく、旧来の自然や社会、生活の多様性にも寄り添った在り方を、改めて見直していくことが必要だと考えています。それが土木の「奥深さ」であると思います。

 土木の奥深さで、自然と人々のくらしが調和し、新しく、それでいて懐かしくもあり、また、温かみのある奥深い日本の風景をつくっていくことを考えるきっかけとなる大会としたいと考えています。

 この大会テーマも踏まえ、佐々木会長による基調講演「土木を風景から考える」では、土木、風景という、身近ではあるが捉えどころのない言葉を掛け合わせる中で見えてくるものについてお話をいただきます。ついで特別講演として、岡崎正信氏(オガール代表取締役)に「営生権を与える土木とは」というタイトルでご講演いただきます。営生権とは、「営み生きる権利」を意味する岡崎氏の造語で、復興の現場においても、平穏な日常生活においても、市民が「営み生きる権利」を得るために、土木が担う役割についてお話をいただきます。さらに、東日本大震災からの地域の復興の経験と教訓を踏まえて、真に豊かなくらしを構築していくことの重要性、地域住民が積極的に参画した住民ファーストなまちづくり、持続可能な社会インフラの在り方などを取り上げ、皆さまと一緒に考えていく場として、全体討論会では「奥深い風景づくりとインフラ(復興からの学び)」について討論していただく予定です。

 東北地方は、東日本大震災からの復旧・復興を経験する一方、多様な自然環境に恵まれ、人々は生活や生業などに多くの恩恵を享受しています。自然と調和・共生し、自然の豊かな恵みを生かした社会の姿を先導し具現化していくことを東北・仙台の地から発信していきたいと考えています。

 また、今回の年次学術講演会においては、過去最大の講演登録がありました。発表を予定されている皆さまに対して、心より感謝申し上げます。

 開催地となる仙台市は、人口100万人を超える東北地方最大の都市であり、「杜の都」として、まち全体が緑に包まれる姿が印象的です。会場となる「仙台国際センター」および「東北大学川内キャンパス」は、初代仙台藩主の伊達政宗公が築造した青葉山・仙台城跡や広瀬川に隣接し、「杜の都・仙台」を象徴する場所です。

 大会では震災伝承施設や土木の歴史的文化遺産や巡る見学ツアーや土木に関する映画上映会やパネル展示など、土木関係者の皆さまのみならず一般の市民の皆さまも参加できる数多くのイベントを用意し開催する予定です。 大会の成功に向けて、東北支部は総力をあげて対応を図って参りますので、会員の皆さまにおかれましては、ご支援・ご協力をお願い申し上げます。

 最後になりますが、会員や土木に携わる多くの皆さまに、仙台で開催される令和6年度土木学会全国大会にご参加いただき、活発な議論や交流が行われ、自然とくらしの奥深き風景をつくる土木への第一歩を標す大会となることを祈念し、土木学会全国大会(仙台大会)の開催にあたってのご挨拶とさせていただきます。