特別セッションのご案内

本会では以下の3つの特別セッションを開催いたします。(2025/6/6更新)

 特別セッション1(日本学術振興会「国際先導研究」共催)

開催日時7月5日(土)13:15~14:15
分野基礎免疫学、疫学
演題名

【基礎免疫学】感染に備えるT細胞とその応答

【疫学】新型コロナ これまで、これから

座長

西浦 博 先生(京都大学大学院医学研究科)

鈴木 忠樹 先生(千葉大学大学院医学研究院 感染病態学)

演者

【基礎免疫学】

山﨑 晶 先生(大阪大学微生物病研究所 分子免疫制御分野)

【疫学】

尾身 茂 先生(公益財団法人結核予防会)

抄録

【基礎免疫学】

「感染に備えるT細胞とその応答」

Cellular and humoral responses constitute fundamental elements of adaptive immunity to achieve successful protection against infection. In contrast to antibody-based immunity, T cell-mediated immune responses has not been fully characterized on a clonotype resolution. Using PBMCs from infected patients, we determined dominant clonotypes and epitopes of virus-reactive T cells which were associated with symptoms and immunological memories. These approaches also led us to identify a novel pathogen-specific unconventional T cell subset shared across humans. In this symposium, we would like to share and discuss our insights obtained from chronological × clonological analysis of human T cell responses during infection.

 

【疫学】

「新型コロナ これまで、これから」

新型コロナウイルス感染症について、我が国では様々な感染対策を講じてきた。
クラスター対策や検査体制、緊急事態宣言等の措置を振り返りながら、これまでの評価をしていく。
また、新型コロナウイルスパンデミックにより明確になった課題やこれからの感染症との向き合い方について述べる。

  特別セッション2(JST「さきがけ」共催)

「パンデミックに対してレジリエントな社会・技術基盤の構築」領域の共催シンポジウム

テーマネクストパンデミックに対してレジリエントな社会・技術基盤の構築
開催日時7月5日(土)16:45~17:45
座長

伊東 潤平 先生(東京大学医科学研究所)

演者

<ファシリテーター>

 押谷 仁 先生(東北大学)

<話題提供者>

 上蓑 義典 先生(慶應義塾大学医学部臨床検査医学教室)

 米岡 大輔 先生(国立感染症研究所 感染症疫学センター)

 川崎 純菜 先生(千葉大学 大学院医学研究院)

抄録

「パンデミックと臨床研究:崩壊する医療の中でどのように臨床研究を展開するか」(上蓑 義典 先生)

パンデミック期に当院では、国内で初となる大学病院の院内感染事例を経験した。外来機能は停止し、多くの医療職は、在宅勤務となる中で、感染制御部門の担当者として収束に向けて忙しい時間を過ごした。
そのような状態の中で、基礎・臨床多くの研究のお話をいただき、非常に興味深くあった反面、忙しさと感染への恐れでギリギリの毎日を送る中で、研究自体に関わることが非常に重荷になっていたことは否めない
本講では、パンデミックの混乱期における医療機関の実情を、医療にバックグラウンドをもたないウイルス研究者の方にもわかりやすく共有し、その中で貴重な臨床サンプルや臨床データをどのように研究に活用していくことができるのか、残余検体の活用の重要性も含めて議論ができればと考えている。
また、医療機関において検体やデータの効率的な収集を行なって展開した慶應義塾大学のウイルス、ワクチンに関する研究に関しても一端をご紹介し、次のパンデミックにおける臨床研究、トランスレーショナルリサーチの進むべき姿について、考えるきっかけとなれば幸いである。

 

「COVID-19と統計科学」(米岡 大輔 先生)

 本発表では、統計家の立場として実施してきたCOVID-19 の拡大防止に資する統計解析とシミュレーション研究の成果を報告する。まず、米国 CDC や国立感染症研究所が採用している超過死亡推定手法、Farrington アルゴリズムの概要を示す [1]。同アルゴリズムは、インフルエンザ早期検知を目的としたスライディングウィンドウ型の準ポアソン回帰モデルであり、Noufaily らによる感度強化版が現在広く利用されている [1]。本発表では、観測死亡数と予測死亡数(またはその 95% 上限)の乖離を評価指標として解析を行う。さらに、空間情報を導入した Generalised Space–Time Farrington 法 [2] を紹介し、COVID-19 超過死亡の推定においては、感染症による直接死だけでなく、行動抑制による交通事故死の減少や医療逼迫に伴う他疾患死亡の増加も踏まえる必要があることを示す。また、空間・時間クラスター検出に有効なスキャン統計によるホットスポット検知についても概説する。
 次に、LINE を用いた COVID-19 個人サポートプロジェクト「COOPERA」を取り上げる。COOPERA はチャットボットを介して利用者から健康状態や予防行動の情報を収集し、即時に行動指針を提示するシステムであり、国内で多数のユーザーを抱える LINE の強みを活かして迅速な情報伝達と個別支援を実現した。一方で、運用上の限界も明らかとなったため、その課題と今後の改善点についても言及する。
 時間が許せば、分布の支持点がパラメータに依存する 4 パラメータ対数正規分布および一般化ガンマ分布を基に、γ-divergence を用いたロバスト推定法を紹介し、潜伏期間と感染時点を同時推定する手法についても説明する [3など]。
[1] A. Noufaily, D. G. Enki, P. Farrington, P. Garthwaite, N. Andrews, and A. Charlett. An improved algorithm for outbreak detection in multiple surveillance systems. Statistics in medicine, 32(7):1206–1222, 2013.
[2] D. Yoneoka, T. Kawashima, K. Makiyama, Y. Tanoue, S. Nomura, and A. Eguchi. Geographically weighted generalized farrington algorithm for rapid outbreak detection over short data accumulation periods. Statistics in Medicine, 40(28):6277–6294, 2021.
[3] D. Yoneoka, T. Kawashima, Y. Tanoue, S. Nomura, and A. Eguchi. Estimation of the time of exposure based on interval and censored data using the ε-accelerated em algorithm. Statistics in Medicine, 42(25):4542–4555, 2023.

 

「オープンデータ利活用による動物由来ウイルスのゲノム疫学調査」(川崎 純菜 先生)

動物からヒトへのウイルス伝播によって、多くの感染症が引き起こされてきた。将来のパンデミックに備えるには、ヒトだけでなく動物を対象とした感染症対策、すなわちOne health 理念に基づいたアプローチが必要である一方で、ヒトと動物を対象とした大規模なウイルス感染調査は、金銭的・人的コストの観点から実施困難な現状がある。そこで私たちは、世界各地の研究者が取得してきた次世代シークエンスデータをウイルス学的に再解析することで、動物に潜む多様なウイルスを大規模かつ低コストに調査可能なシステムの構築を試みている。さらに、同定されたウイルスの性状解析の効率化を目指し、ウイルスのヒト感染リスクを評価する機械学習モデルの構築にも取り組んでいる。本セッションでは、これらの研究成果を紹介し、ネクストパンデミックのリスクとなりうる動物由来ウイルスの監視・制御に向けた異分野融合研究について議論したい。

 特別セッション3(日本学術振興会「国際先導研究」共催)

開催日時7月6日(日)13:15~14:15
分野臨床医学、基礎ウイルス学
演題名

【臨床医学】パンデミック禍の地域医療 培われた地域連携の展開

【基礎ウイルス学】日本の新型コロナウイルス感染症流行と国立健康危機管理研究機構の設立

座長

南宮 湖 先生(慶應義塾大学医学部感染症学教室)

佐藤 佳 先生(東京大学医科学研究所)

演者

【臨床医学】

高山 義浩 先生(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科)

 【基礎ウイルス学】

脇田 隆字 先生(国立感染症研究所)

抄録

【臨床医学】

「パンデミック禍の地域医療 培われた地域連携の展開」

日本では少子高齢化が進み、地域によっては過疎化に歯止めがかからない状況となっている。現役世代の減少により介護人材の確保も難しくなり、高齢者の暮らしを支える仕組みが限界となりつつある。介護過疎が進む地域では、高齢者の救急搬送が増え、退院調整の遅れによる入院の長期化が、医療をひっ迫の要因となっている。
そうしたなか、新型コロナウイルスによるパンデミックが地域医療を襲った。当初はウイルス性肺炎が多発し、人工呼吸管理など高度な急性期医療が求められる局面も多かった。しかし、オミクロン株への置き換わりとワクチン接種の推進により重症度は低下し、医療の役割は、主として高齢者に対する総合診療/ケアの過密状態へと移行していった。
沖縄県では、高齢者施設の支援、オンライン研修、クリニカルパス策定などを通じて医療と介護の連携強化に取り組んできた。医療機関の機能分担についても、県行政と医療機関、そして医師会が協調しながら進められた。こうした取り組みの重要性にパンデミックは気づかせる効果があった。そして、危機感とともに地域連携には大きな前進があった。
今回のパンデミックにより、医療ニーズの高圧状態となっている日本社会では、健康危機が容易に発生することが明らかとなった。そして、とりわけ痛切に実感させられたのは、医療需要には季節変動があり、年間平均値で考える地域医療構想の必要病床数では、サージキャパシティを支えきれないということであった。
急速な医療需要の増大による医療と介護のひっ迫は、パンデミックや自然災害のみならず、私たちの国で確実に進展している超高齢化の前哨戦となっている。苦しい3年間だったが、これをパンデミックの思い出とすることなく、地域医療のレジリエンスを高めていく足掛かりとしたい。

 

【基礎ウイルス学】

「日本の新型コロナウイルス感染症流行と国立健康危機管理研究機構の設立」

2019年末に武漢市で原因不明肺炎の集団発生があり、その後全世界に流行が拡散した。2020年1月10日に公表されたSARS-CoV-2ゲノム配列に基づき、感染研はウイルス遺伝子検査系を開発し、1月15日に国内初症例を確認した。検査系は全国の地衛研・検疫所に配布され検査体制が構築された。1月下旬から帰国チャーター便対応、また、2月初めには横浜港でクルーズ船の船上隔離対応に追われた。そして、3月下旬には都市部で感染者数が急増し、4月7日には最初の緊急事態宣言が発出された。その後も変異株の出現と感染拡大があり、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による対策が繰り返された。2021年末からはオミクロン株の侵入があり、感染者数は非常に多くなり高齢者の感染による死亡者数が増加した。2023年5月以降、新型コロナウイルス感染症は五類感染症に分類され、全数報告から定点報告疾患となった。新型コロナワクチンの接種が2021年から始まったが、ワクチンの免疫も、自然感染による免疫も経時的に減衰する。さらに、オミクロン株は変異を続け、現在も流行を繰り返している。
新型コロナウイルス感染症流行を経験し、感染研と国立国際医療研究センターを統合して、2025年4月に国立健康危機管理研究機構(JIHS)が設立された。JIHSは感染症をはじめとする健康危機に対して安心できる社会を実現するために、世界トップレベルの感染症対策を牽引する「感染症総合サイエンスセンター」として、基礎、臨床、疫学、公衆衛生にわたるすべての領域研究を統合的に推進し、最先端の医療と公衆衛生対策を提供するとされている。このための四つの機能として、1.情報収集・分析・リスク評価機能、2.研究開発機能、3.臨床機能、4.人材育成・国際協力機能、が期待されている。
JIHSでは、国内外で情報収集活動を行い、その情報を元にした科学的知見およびリスク評価を政府・自治体および関係機関に提供する。同時に感染症の流向状況等について、国民に対して分かりやすい情報を届ける。研究開発においては、新型コロナの治療薬とワクチンの開発が国内で迅速に進まなかったことから、JIHSにおいて基礎から臨床まで一気通貫の開発が期待される。また、感染症流行下において、医療機関は多忙を極めるが、平時から感染症の臨床研究実施体制を支援するために、感染症臨床研究ネットワーク、iCROWN事業が創設された。わが国の感染症対応能力を強化するために、感染症研究と公衆衛生対策に資する人材を継続的に育成していくこと、さらにWHOなどの国際機関との密接な協力関係を構築することもJIHSの重要な役割である。