講演情報
[T3-O-2](招待講演)スラブ–マントル境界におけるアンチゴライトCPOの形成機構と深部スロー地震発生域の蛇紋岩組織
*永冶 方敬1,2、ウォリス サイモン2、安藤 亮輔2 (1. 早稲田大学、2. 東京大学)
【ハイライト講演】沈み込み帯のスラブ―マントル境界に分布する蛇紋岩は,プレート境界の力学特性を左右する重要な岩石であるが,その変形メカニズムの深度依存性はよくわかっていない.永冶氏は,蛇紋石の結晶配向と変形様式について,野外調査・室内実験・地球物理観測を統合した研究を精力的に展開してきた.本講演では,天然蛇紋岩の微細組織からアンチゴライトCPOの形成機構と深度依存性を読み解き,粒界すべりや溶解・沈殿と深部スロー地震との関係に迫る. ※ハイライト講演とは...
キーワード:
アンチゴライトCPO、変形機構、蛇紋岩組織、スラブ–マントル境界、深部スロー地震
沈み込み帯の前弧マントルウェッジ底部では,スラブ由来流体によるかんらん岩の蛇紋岩化により,アンチゴライトを主要な構成鉱物とする蛇紋岩が広く形成される。このような蛇紋岩の面・線構造及び結晶軸選択配向(CPO)は,プレート境界域の強度,摩擦特性,透水性,地震波速度に関する異方性に強い影響を与えると考えられる。そのため,上記の岩石構造の形成過程とその分布を明らかにすることは,深部スロー地震発生域の力学的性質を理解する上で重要である。特に,蛇紋岩が広く分布すると考えられる暖かい沈み込み帯では,前孤マントルウェッジ底部でのアンチゴライトに富む蛇紋岩と深部スロー地震発生域との関連が指摘・強調されている。アンチゴライトは波を打った板状の結晶構造を有し,変形に伴ってそのCPOおよび形状定向配列(SPO)を発達させる。アンチゴライトCPOでは,多くの場合,c軸が面構造に垂直に集中する一方,この面内でのa軸・b軸分布の違いにより,a軸が線構造に集中するA-type,b軸が集中するB-type,およびa軸・b軸が面構造上でガードル状の分布を示すG-typeなどに分類される。
本研究では,三波川帯のマントルウェッジ起源蛇紋岩に発達するアンチゴライトせん断帯の微細組織解析と先行研究の統合に基づき,プレート境界域におけるアンチゴライトCPOの形成機構と,深部スロー地震発生域の岩石組織との関連を検討する。近年のEBSD解析により,B-typeアンチゴライトCPOは,個々の結晶内塑性変形を主因とせず,粒界すべりと機械的粒子回転によって形成される可能性が示されている(Nagaya & Wallis, 2026)。一方で,高圧下の低空隙率岩石中では,粒界すべりのみで変形を継続することは難しく,粒界すべりを収容する過程(accommodation process)が必要となる。本研究のEBSD粒内方位差解析およびEPMA化学組成解析は,この収容過程として,溶解・沈殿を伴う物質移動,微小割れ目形成,および限定的な転位運動が関与し得ることを示している。特に流体に富むプレート境界域では,溶解・沈殿が,粒子回転を可能にする重要な粒界すべりの収容過程であると考えられる。このような組織発達は,蛇紋岩の摩擦・粘性混合的なレオロジーを生み出す可能性がある(Tulley et al., 2024)。
本研究および既存研究の統合から,アンチゴライトの変形機構と形成されるCPOのタイプの相関と,プレート境界でのCPO発達過程と力学特性について以下を提案する。変形初期には粒界すべりに関連して,アンチゴライト粒子の(001)面が有限歪のXY面に向かって回転し面構造をなすことで,G-type CPOが形成される。その後,ひずみの増加に伴ってb軸が次第にせん断方向に集中していき,B-type CPOへと発展する。アンチゴライトの(001)面上では,b軸方向のすべりが最も低い摩擦係数を示すため(Campione & Capitani, 2013),G-typeからB-typeへの組織発達によって,蛇紋岩の摩擦強度の低下と安定すべりが促進される可能性がある。一方,より高温・深部条件では転位クリープの寄与が増大し,A-type CPOが形成される可能性がある。したがって,プレート境界域では浅部から深部に向かって,G-type,B-type,A-typeへとCPOタイプが変化する深さ依存的な組織分布が想定される。
深部スロー地震の発生域では,脆性的パッチと延性的背景変形が共存する不均質なせん断帯が想定されている(Ando et al., 2012)。アンチゴライトに富む蛇紋岩基質は,溶解・沈殿を伴う粒界すべりにより安定な延性的背景変形を担い得る。一方で,一次的なかんらん石の残存組織に加え,ブルーサイト+アンチゴライトの脱水反応によって形成される二次的なかんらん石などの相対的に強度の高い鉱物相は,局所的な脆性的パッチとして働く可能性がある(Nagaya et al., 2022)。以上より,アンチゴライトCPOの発達,その収容過程,および脱水反応に伴う鉱物組織の変化は,プレート境界域における安定すべりと深部スロー地震を結びつける鍵となる。今後,スラブ–マントル境界における岩石変形様式と深部スロー地震との関係解明には,岩石構造の発達に伴う,脆性的パッチの存在比や粘性係数の変化など(Ando et al., 2023),さらなる構造地質学・岩石学的両アプローチからの探究とスロー地震現象との比較研究が求められる。
引用文献
Ando et al., 2012, JGR, 117, B11308.
Ando et al., 2023, GRL, 50, e2022GL101388.
Campione & Capitani, 2013, Nat Geosci, 6, 847–851.
Nagaya et al., 2022, CMP, 177:87.
Nagaya & Wallis, 2026, PEPS, 13:4.
Tulley et al., 2024, JGR: Solid Earth, 129, e2024JB029053.
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