講演情報
[G-P-48]北アルプス白馬岳東方北股入下流域における氷河成堆積物
*畠山 幸司1 (1. 長野市立博物館)
キーワード:
氷河、層序、堆積学、湖沼成堆積物、北アルプス
日本アルプスに分布する最終氷期の氷河地形および氷河堆積物は,日本および東アジアの気候変動を解明する上で極めて重要である.かつて日本アルプスの氷河地形は,五百沢(1966など)の研究を契機としてその分布が著しく拡大して認定された事があった.しかし,近年は各地でそれまで氷河成とされていた地形や堆積物にランドスライドを成因とするものが含まれているとの報告が相次いでおり(Kariya et al.,2011など),高所に分布する典型的な氷河地形を除くと氷河成であるかどうかの見解が定まっていない状況である.一方で,近年は北アルプスにおいて現存氷河が次々と報告されている.確認された現存氷河の最低所は,カクネ里雪渓の1,795mであるが(福井ほか,2018),氷期にはこれよりも低所まで氷河が到達していたことが確実である.本発表では,白馬岳東方北股入下流域に分布する第四系について検討した結果を報告する.北股入沢流域は,小疇ほか(1974)によって氷河の堆石が広く分布すると報告された地域であり,岩蕈山西麓の標高1,050m付近には湖沼成堆積物が堆積面をなして分布している(小疇ほか,1974・中野ほか,2002).湖沼成堆積物は,氷河性ティルを不整合に覆う下位の北股入粘土泥炭層と,これを不整合に覆う上位の岩蕈山含礫粘土層に区分される(畠山,2026).このうち北股入粘土泥炭層は,泥炭層や腐植に富んだ砂~シルト層を主とする,氷河前進期よりも後の比較的温暖な時期の堆積物である.上位層との境界は氷河の浸食作用による不整合となっていて,北股入粘土泥炭層中には氷河の荷重や引きずりによる変形構造が認められる.岩蕈山含礫粘土層は,粘土中に角礫を包含する地層である.塊状粘土中にドロップストーンの巨礫を含むことから,氷河に接した氷河前湖の堆積物と考えられる.粘土層中に挟在する角礫層は分級が良くフォアセット状の層理をなしており,氷河底や氷河中から噴出する強い被圧水流の影響を受けて堆積している.これらの堆積物については,氷河成ではないとする報告がなされていた.Kuroda et al.(2010)は湖沼成堆積物分布域から北股入へ流れる沢沿いの堆積物を調査し,ダイアミクトン中から45,320 yBp の14C年代を示すスギの埋没樹幹が産出したことを報告し,温暖な気候下で生育するスギの産出を根拠として周囲の堆積物が温暖期の地すべり起源であると結論付けた.しかし,本研究ではKuroda et al.(2010)が調査した露頭中に岩蕈山含礫粘土層の粘土がブロック状に含まれていることが確認され,この地すべりの影響が局所的であることが判明したと同時に,岩蕈山含礫粘土層の堆積年代が45,320 yBp以前であることが明らかになった.なお,北股入粘土泥炭層の14C年代については苅谷ほか(2008)の報告があり,48,300 ~ 53,930 yBp もしくはAMS法適用限界(約48Ka)以前とされている.本地域の氷河成堆積物は,最終氷期前半以前に氷河の前進期が2回あったこと,それぞれの前進期に氷河が標高1,000m前後の低所まで到達していたことを示している.
引用文献
福井幸太郎ほか(2018)地理学評論,91 , 43-61.小疇 尚ほか(1974)駿台史学,vol.35,p.1-86.五百沢智也(1966).地理,11(3),24-30.苅谷愛彦ほか(2008)地学雑,117,p.650-660.Kariya, Y. et al.(2011)Geomorphology, 127, 156-165.KURODA, S. et al. (2010)Geographical Reports of Tokyo Metropolitan Univ.,45,11-19.中野 俊ほか(2002)地域地質研究報告(5 万分の1地質図幅),産総研,105 p.畠山幸司(2026)長野市立博物館紀要, 27,(印刷中).
引用文献
福井幸太郎ほか(2018)地理学評論,91 , 43-61.小疇 尚ほか(1974)駿台史学,vol.35,p.1-86.五百沢智也(1966).地理,11(3),24-30.苅谷愛彦ほか(2008)地学雑,117,p.650-660.Kariya, Y. et al.(2011)Geomorphology, 127, 156-165.KURODA, S. et al. (2010)Geographical Reports of Tokyo Metropolitan Univ.,45,11-19.中野 俊ほか(2002)地域地質研究報告(5 万分の1地質図幅),産総研,105 p.畠山幸司(2026)長野市立博物館紀要, 27,(印刷中).
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