講演情報
[G-P-49]徳之島のドリーネ内にみられる埋没土壌の植物珪酸体組成に基づく最終氷期の植生変遷
*林 尚輝1、江口 誠一2、渡邉 稜也3 (1. 鹿児島大学、2. 日本大学、3. 立正大学)
キーワード:
最終氷期、古環境、埋没土壌、第四紀
近年,植物大型化石の再調査や年代の較正が進められ,最終氷期における植生分布が見直されている(Momohara et al., 2026).その結果,最寒冷期(LGM)においては,九州南部でも落葉広葉樹が優勢であり,照葉樹は沿岸部にのみ残存していたと想定されている(百原,2024).一方で,薩南諸島以南の現在の亜熱帯域においては,最終氷期の植生に関する情報が少なく,当時の環境はどのようであったかよく分かっていない.そこで,本研究では鹿児島県徳之島のドリーネ内の埋没土壌について植物珪酸体分析を行い,当地域の最終氷期における植生変遷を明らかにした.
分析試料として,徳之島伊仙町小島のドリーネ内の埋没土壌を鉛直方向に約10~20cm間隔で採取した.ドリーネ内には,ATおよび硫黄鳥島に由来する火山灰がほぼ連続して堆積しており(小林,2013),ATの下位には褐色の埋没土壌が,硫黄鳥島由来テフラの上位には黒褐色の埋没土壌が見られる.黒褐色埋没土壌の中位には,厚さ約20cmの特に黒色味の強い層が認められる.また,この黒色味の強い層下部の試料についてバルクによるAMS年代測定を依頼し,補正年代で23880 cal BP~24330 cal BP(±2σ)の年代値が得られた.
植物珪酸体の抽出方法はOkunaka et al. (2012)に従った.珪酸体の同定は光学顕微鏡400倍下で行い,形態分類はICPN 2.0(ICPT, 2019)に基づき,一部の形態については,近藤(2010)を参考に細分類した.
分析の結果,珪酸体組成の傾向から4つの珪酸体帯(Ⅰ~Ⅳ帯)が設定された.ATの直下部を除くAT下位の褐色土層にあたるⅠ帯では,未分類の機動細胞が最も多く,次いで,ススキ属をはじめとしたヒメアブラススキ連に由来する珪酸体が28%~36%を占めた.ATの直下部~黒褐色土層の下部にあたるⅡ帯では,Ⅰ帯と同様に未分類の機動細胞とヒメアブラススキ連に由来する珪酸体が多数を占めたものの,メダケ属の機動細胞やタケ亜科の機動細胞に由来する珪酸体が増加し,23%~42%を占めるようになった.また,AT,硫黄鳥島由来テフラの上位ではマツ科に由来する珪酸体が見られた.黒色土層からその上位の黒褐色土層にあたるⅢ帯では,さらにメダケ属に由来する機動細胞やタケ亜科に由来する機動細胞が51%~56%に増加,卓越した.また,タケ亜科に由来する短細胞も増加した.Ⅲ帯の上位にあたるⅣ帯では,これらの珪酸体がやや減少し,代わってススキ属に由来する機動細胞珪酸体が増加した.
以上の結果から,当地域周辺の植生は以下のように復元される.MIS3末期には,ススキが優占する環境であった.しかし,ATの噴火直前期からメダケ属をはじめとしたタケ亜科の植物が増加し,特に24,000年前以降はタケ亜科の植物が優占するようになった.このタケ亜科の植物は,珪酸体の形態からリュウキュウチクであった可能性が高い.また,マツ科の珪酸体も連続的に出現したことから,LGMにはリュウキュウチクを主体としマツ科を伴う植生環境が想定される.ただし,クスノキ科に由来する珪酸体も含まれたことから,一部には照葉樹も残っていたことが示唆される.その後,再びススキ属をはじめとするヒメアブラススキ連が増加したと考えられる.
種子島ではATの直下層から照葉樹林が衰退する傾向が見られ(Hayashi and Inoue, 2025),MIS3末期,約30,000年前の姶良カルデラ噴火の直前期に,南九州から薩南諸島一帯において植生の変化が起こっていた可能性がある.一方,LGMにおいては,分析地点の周辺ではメダケ属が優占したことから少なくとも暖温帯ほどの気候下にあり,主に冷温帯に生育するササ属が優占したとされる南九州や種子島とは環境が大きく異なっていた可能性が示唆される.
謝辞
試料採取に当たっては,伊仙町教育委員会の與嶺友紀也氏にご協力いただいた.本研究は科学研究費助成研究課題22K05715および25KJ0267の一部を使用して実施した.
引用文献
Hayashi & Inoue (2025). Quaternary International 725, 109754. International Committee for Phytolith Taxonomy (ICPT) (2019). Annals of Botany 124, 189–199.小林(2013)「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書,141–145.近藤錬三(2010)プラントオパール図譜.387p.百原新(2024)7.3陸上植物.北村ほか(編)シリーズ地球生命史6人類の進化―第四紀―,pp.290–304.Momohara et al. (2026) Quaternary Science Advances, 100315.Okunaka et al. (2012) The Holocene 22, 793–800.
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