講演情報

[GP14]薬剤ディスクの保存条件が抗菌活性に及ぼす影響

*大島 朱音1、伊藤悠馬1、松村充1 (1. 帝京大学医療技術学部臨床検査学科)
【目的】
本研究の目的は、薬剤ディスクの保存条件(温度・湿度)が抗菌活性に及ぼす影響を評価し、保存方法と活性劣化の関連を明らかにすることである。特に、記載された消費期限の遵守のみでは臨床検査の精度保証として十分でない可能性がある点に注目し、保存条件の違いによっては期限内であっても正確な薬剤感受性試験結果が得られないリスクを検討する。

【方法】
供試菌株は Escherichia coli ATCC 25922 とした。使用薬剤ディスクは、アンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、レボフロキサシン(LVFX)を用いた。保存条件は温度4℃、20℃、35℃とし、湿度は以下の3条件を設定した:低湿度(シリカゲル封入、RH<10%)、中湿度(無処置、RH約40〜60%)、高湿度(飽和食塩水環境、RH約75%)。保存期間は0、1、2、4週間とし、ディスク拡散法により阻止円径を測定し、初期値からの減少率を算出した。各条件で3枚のディスクを同日に測定し、再現性を確認した。

【結果】
ABPCは高温多湿条件で最も顕著に活性が低下した。20℃および35℃の中〜高湿度下では、1週目から阻止円径が14.7 mmから9.0 mmに減少(減少率39%)し、2週目には阻止円が消失した(減少率100%)。低湿度条件でも35℃では4週目に阻止円が消失した。
CTXも同様の傾向を示したが、劣化は緩やかであった。35℃・高湿度条件では、阻止円径が0週34.7 mmから4週目26.7 mmへと減少(減少率23%)したが、完全な消失は認められなかった。一方、LVFXはすべての保存条件において阻止円径の変化はほとんどなく、活性の低下は確認されなかった。全体として、薬剤ディスクの劣化は35℃・高湿度条件で最も促進された。

【考察・まとめ】
β-ラクタム系抗菌薬は高温多湿下で加水分解を受けやすく、特にABPCはβ-ラクタム環構造に由来して劣化が顕著であった。一方、フルオロキノロン系は化学構造が安定しており、温度・湿度の影響をほとんど受けなかった。本結果は薬剤ごとの化学的特性が保存安定性に直結することを示している。薬剤ディスクの活性低下は阻止円径の過小評価を招き、感受性試験の信頼性を損なう可能性がある。したがって、有効期限内であっても保存条件の遵守と定期的な精度管理が不可欠であり、臨床検査技師が正確で信頼性の高い感受性試験結果を臨床へ提供するための基盤となる。