講演情報

[LS4]尿中マイクロRNAを基盤としたマルチキャンサー早期検出プラットフォームの構築と臨床実装
マイシグナル・スキャン®の医療機関事例と現在地
〜衛生検査所の効率的な品質管理体制と早期発見に向けた社会実装〜

*水沼 未雅1、森 美希1 (1. Craif株式会社)
尿中マイクロRNAを基盤としたマルチキャンサー早期検出プラットフォームの構築と臨床実装

がんの早期発見は依然として日本のがん医療における最大の課題の一つであり、非侵襲的かつ高精度なスクリーニング手法の確立が求められている。Craif株式会社および名古屋大学では、尿中マイクロRNAを用いた多がん種早期検出プラットフォームの構築に取り組んでおり、その技術的基盤・臨床的有用性・社会実装の現状について報告する。
尿中マイクロRNAは、細胞外小胞(EV)に内包され体内循環を経て尿中に安定的に存在するため、全身の微小な病変を反映しうる。Craifでは、網羅的miRNA解析と機械学習を組み合わせたAIモデルを開発し、複数がん種を同時にリスク判定する「マイシグナル・スキャン®」を実現した。
膵がんに関しては、462例(膵がん患者153例、非がん309例)の尿を用いた臨床研究を実施し、開発した膵がん検出アルゴリズムは独立検証群においてAUC=0.963、早期ステージで感度80.8%を示した。従来のCA19-9感度(41.3%)を上回り、尿中miRNAベースのアッセイの高い検出性能が確認された。現在、本アッセイを基盤とする医療機器プログラムの多施設共同ピボタル試験を実施中であり、2026年の承認申請を目指している。
一方、北海道岩内町では、がん検診受診率の低い地域住民100名を対象に前向き観察研究を実施した結果、21名がいずれかのがん種でリスクありと判定され、精密検査により大腸ポリープ、胃ピロリ感染、IPMN疑い、そして肺がんAISなどが実際に検出された。尿中miRNA検査が、従来検診を受けづらい層にも受容されやすい非侵襲的スクリーニングとして機能することが示唆された。
本講演では、尿中マイクロRNAの生物学的知見、臨床性能、地域医療での実装事例を統合的に紹介し、マルチキャンサー早期検出の社会実装に向けた課題を展望する。


マイシグナル・スキャン®の医療機関事例と現在地
〜衛生検査所の効率的な品質管理体制と早期発見に向けた社会実装〜

Craif株式会社では、尿中マイクロRNA解析技術を用いたがんリスク検査「マイシグナル・スキャン®」を全国約1,900の医療機関で展開している。本講演では、本検査の社会実装を支える衛生検査所の体制と、医療現場での活用事例を中心に報告する。
当社は、衛生検査所としての厳格な品質管理体制を維持しつつ、自動化設備および社内デジタルトランスフォーメーション(DX)基盤の整備により、衛生検査所としての登録以来監査時の指摘事項ゼロを連続して達成し続けている。この成果は、単なる検査工程の効率化にとどまらず、将来的な国内検査インフラの高度化や人的リソースの最適化にも資する取り組みとして位置づけられる。
また、医療機関での導入を通じて、胃がんや腎腫瘍などの早期発見につながる事例が複数報告されており、“目に見えない段階での変化を捉える”尿マイクロRNA解析の臨床的有用性が示唆されつつある。これらの実臨床事例を基に、検査数の拡大に合わせたフォローアップ体制の構築が重要となる。
本セミナーでは、医療機関事業部による地域連携の取り組みを含め、早期発見と適切な診断・治療接続を支援する体制整備の現状と今後の展望を紹介する。これらを通じて、Craif社の理念である「人々が天寿を全うする社会の実現」に向けた検査の果たす役割を考察したい。