企画集会
2026年10月11日(日) 9時00分 〜 10時30分
企画集会1:
環境DNAの品質管理 ― マニュアルから認証制度・基準へ ―
企画者:環境DNA学会技術標準化委員会
環境DNA活用の場面が広がり環境DNAを扱うために使用する試薬や機材も多様化するとともに、調査・分析を行う企業の数が増える中、そのデータの信頼性を担保するための品質管理が求められるようになってきた。本企画集会では、これまでの環境DNAを含む分析分野で行われている精度管理の実態 について、海外の事例も交えつつ紹介するとともに、産業界から始まった精度管理の動きを紹介する。また、環境DNAに関わるISOの最新の動きを紹介するとともに、今後こうしたISOが産業界にどのような影響を与えるのか、現状の課題を含めながら紹介する。さらに、これらに対する学会の動きも踏まえながら、今後学会が取り組むべき事項について会場も交えながら討議を行う。
◎講演内容
- 司会
村岡 敬子(国研 土木研究所) - 趣旨説明
源 利文(神戸大学) - 講演1「分析分野の認証制度について(仮)」
山川 央(公益財団法人かずさDNA研究所) -
講演2「環境DNA分析の社会実装を支える精度管理体制の構築と今後の展望」
太田 宗宏(㈱ 建設環境研究所)
環境DNA分析は、生物多様性評価や環境管理分野における有効な手法として活用が拡大しており、本年度からは国土交通省が実施する「河川水辺の国勢調査」にも導入されたことから、社会実装への期待がさらに高まっている。しかしながら、採水、DNA抽出、PCR、シーケンス解析など各工程における手法の違いに起因する分析結果のばらつきが課題となっている。本発表では、一般社団法人日本環境測定分析協会が推進する環境DNA分析の精度管理体制構築に向けた取組について紹介する。特に、外部精度管理調査の実施に向けた検討状況、試行的取組、および品質保証上の課題について報告する。 -
講演3「標準化・ISOの意義と産業界との関係」
保高 徹生(国研 産業技術総合研究所)
ISO(国際標準化機構)は、世界中で製品やサービス等の品質を同じにするための国際規格を作る組織である。ISOでは、様々な規格が取り扱われており、環境DNAについてもISO TC147(Water Quality)のもと、SC5 WG13で議論、規格化が開始されている。本発表では、ISO化のプロセス、標準化の意義とデメリット、産業界に与える影響について概説するとともに、標準化を進める意義について事例を用いて説明する。 -
講演4「環境DNA学会とISO国内審議委員会の設立」
村岡敬子(国研 土木研究所)
現在、環境DNA(ISO)に関する国際規格が相次いで提案されるとともに、複数のISO規格に関する審議が始まっている。環境DNA学会はこれまでISOの国際会議に数名の専門家を派遣してきたが、日本国内の産業界と行政の意見を収集するため、学会内に環境DNAに関する国内ISO審議委員会(WG)が設置された。さらに、このWGの運営には、環境DNAを扱う複数の国立研究機関が支えていくこととなった。環境DNAの国際規格に向けた、これまでにない取り組みについて報告する。 -
講演5「環境DNA分析におけるブランク管理の実践と課題」
今村史子(日本工営㈱))
環境DNAは多くの工程を経るため、品質管理が極めて難しい技術である。当社では支店等の技術拠点が採水・輸送、中央研究所が濾過・分析を担う体制をとっており、各担当者が自らの役割と品質管理のポイントを理解できるよう、勉強会や手順書の整備を進めている。また、独自に各工程でブランクを設定し、分析室や機器のクリーナップ状況の確認に役立ってはいるが、水国マニュアルでのブランクと整合しない事象も多く、その解釈や活用方法に苦慮している。ISOや標準化は重要な基盤である一方、品質の本質はデータをどう読み解き、結果をどう解釈するかにある。業界全体で知見を共有しながら議論を重ね、品質管理技術の向上につなげていきたい。 - 講演6「現場担当者と分析技術者の連携-環境DNAの品質管理の現場から-」
澤樹征司(㈱建設技術研究所)
環境DNAの品質管理や標準化の重要性が高まる中、藻場評価や系統地理学などの萌芽的分野では、現場担当者と分析担当者が連携しつつ様々な試行が続いており、依然として標準化が容易でない場面もみられる。さらに通常の環境調査業務の場合であっても、想定外の分析結果が得られた際、現場担当者は分析担当者に原因究明や結果解釈まで相談し、本来の分析業務の範疇を超えた負荷を強いてしまうことがある。現在の環境DNAの品質管理は、このような現場と分析担当者の連携と矜持で維持している場面も多くみられる。本日は現場を歩く技術者の立場から、利用者と分析者の間をつなぐ翻訳者のニーズについて話題をお届けしたい。 -
講演7「環境DNA分析の品質管理に関する当社の取り組み」
中村匡聡(いであ㈱)
環境DNA分析の品質管理において、当社が重視するのはコンタミネーション(試料間の交差汚染)とヒューマンエラーの防止である。これまでの取り組みの中で対策効果が高いと考えている、イオナイザーによる静電気除去、オゾンによる除染、分注ロボットによる自動化の三つについて、その概要を紹介する。 - 総合討論
| 座長 | 源 利文(神戸大学) |
| コメンテーター | 山中 裕樹(龍谷大学)、山川 央(公益財団法人かずさDNA研究所)、太田 宗宏(㈱ 建設環境研究所)、保高 徹生(国研 産業技術総合研究所)、中村 匡聡(いであ㈱) |
2026年10月12日(月) 9時00分 〜 10 時30分
企画集会2:
Decision-Ready Biodiversity Information ― 自然情報社会をどう実現するか ―
企画者:近藤 倫生(東北大学)
環境DNAは、生物多様性を「観測する技術」から、社会の意思決定を支える情報基盤へと発展することが期待されつつある。そのためには、観測データが蓄積されるだけでは十分ではなく、行政、企業、地域社会が活用できるDecision-Ready Biodiversity Informationへと高めることが重要である。近年、ANEMONEはジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)との連携による自然価値評価や、BIOME・LIME3との連携による自然情報の可視化・評価・社会実装を進めている。本企画集会では、これらの実践を題材に、自然情報を社会価値へと変換し、行政・企業・地域社会の意思決定へつなぐために必要な仕組みや連携を議論する。そして、環境DNAを核とした自然情報社会の実現に向けた道筋を展望する。
◎講演内容
- 講演1「環境DNA観測からネイチャーインテリジェンスへ」
近藤倫生(東北大学)
環境DNAは、生物多様性を効率的に観測する技術として発展してきた。一方、ネイチャーポジティブの実現には、観測データを蓄積するだけでなく、行政、企業、地域社会の意思決定を支える「自然情報」へと変換することが求められる。本講演では、ANEMONEを例に、標準化された生物多様性観測を基盤として、観測データをDecision-Ready Biodiversity Informationへ発展させる考え方を紹介する。そして、観測から可視化・評価・社会実装へとつながる「Nature Intelligence」の構想を提案し、自然情報社会実現に向けた情報基盤の将来像を展望する。 -
講演2「自然情報を「見える」から「使える」へ ―生物多様性データを意思決定につなぐ―」
藤木庄五郎(株式会社バイオーム)
市民科学は、専門調査だけでは捉えにくい広域・高頻度・継続的な生物情報を収集できる可能性をもつ。一方、データを社会の意思決定に活かすには、種同定の精度向上、位置等の偏りへの対応、既存データとの統合、解析・可視化を通じて、信頼できる「使える情報」へ変換する必要がある。本発表では、生物判定AIを備えたアプリ「Biome」による市民参加型データ収集と、そのデータを企業・自治体における意思決定につなげる取り組みを紹介する。また、市民科学データ、ANEMONE、LIME3をダッシュボード上で統合し、観測・評価・意思決定を一体的につなぎ、市民の観察を、社会で使える生物多様性情報へ転換する道筋を展望する。 - 講演3「自然情報をライフサイクル影響評価に組み込む」
伊坪徳宏(早稲田大学)
環境DNAをはじめとする自然観測技術の進展により、生物の分布や生態系の変化を高い解像度で把握できるようになった。企業や政策の意思決定に活用するには、観測された自然情報を事業活動やサプライチェーンと結び付け、影響を定量化する枠組みの構築と活用が期待される。本講演では、気候変動、土地利用、水消費等による生物多様性・生態系サービスへの影響をライフサイクル思考で評価するネイチャーフットプリントを紹介する。BRIDGEプロジェクトの成果を踏まえ、環境DNA等の観測情報を評価モデルの高度化、ホットスポット特定、企業・金融・政策の意思決定へつなぐ可能性と課題を論じる。 - 講演4「自然情報から社会価値・事業価値へ」
桑江朝比呂(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合/港湾空港技術研究所)
ブルーカーボンクレジット制度の実践を事例として、自然情報を社会価値や経済価値へと変換するための考え方と課題を紹介する。自然は時空間的に大きく変動するため、真のネイチャーポジティブな成果、すなわち自然への人為介入効果を評価するには、Before–After Control–Impact(BACI)といった介入なし(ベースライン)との比較が不可欠であることを説明する。さらに、環境DNAを含む多様な自然情報を活用し、生物多様性や生態系サービスを定量化・可視化し、地域社会や、企業の意思決定に利用可能な指標へ変換する枠組みを示す。
