講演情報

[T16-O-4]熊本県西部黒瀬川帯における下部白亜系日奈久層の有機炭素同位体層序および酸化還元環境

*川上 高平1、元村 健人1、尾上 哲治1 (1. 九州大学)
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【ハイライト講演】白亜紀の海洋では,酸素の乏しい水塊が広がる海洋無酸素事変が複数回起きていた.本発表では,熊本県の下部白亜系日奈久層について,泥岩の有機炭素同位体比と元素濃度から酸化還元環境を検討する.酸化還元指標に大きな変化がない一方で認められた炭素同位体比変動を,海洋無酸素事変に関連する広域的な環境変化と対比できる可能性を探る発表である.  ※ハイライト講演とは...

キーワード:

白亜紀、熊本、黒瀬川帯、日奈久帯、日奈久層、OAE1a


 白亜紀には,海洋で貧酸素~無酸素水塊が発達する海洋無酸素事変(OAE)が複数回発生しており,その発生原因や環境・生物相への影響について精力的に研究されている.特に前期白亜紀には複数のOAEが知られているが,その研究は主にテチス海周辺域の堆積物に基づいており,当時最大の海洋であったパンサラッサ海縁辺域における記録は限られている.近年,パンサラッサ海北西部で堆積したと考えられる本邦白亜系からも,北海道の蝦夷層群におけるアプチアンのOAE1a(Li et al., 2024)や,福島県の相馬中村層群におけるバランジニアンのWeissert Event(Tomaru et al., 2025)に関する記録が報告されている.しかし,テチス海周辺域に比べると,パンサラッサ海縁辺域における前期白亜紀OAEおよび関連イベントの記録は依然として少ない.そこで,本研究では熊本県西部に分布する黒瀬川帯の下部白亜系正常堆積物からなる日奈久帯日奈久層を対象に主要・微量元素組成および有機炭素同位体分析を行い,前期白亜紀を特徴づけるアプチアンのOAE1aに相当する層準が認められるかを検討した.
熊本県西部の黒瀬川帯には,下部白亜系の海生層が広く分布しており,火成岩・変成岩類の分布を境として,渋利帯,坂本帯,日奈久帯,宮地帯に細分されている(松本・勘米良,1964).このうち,主に下部白亜系正常堆積物から構成される日奈久帯には,暗灰色泥岩が厚く発達する日奈久層が分布する.日奈久層の年代は,松本ほか(1982)によりアプチアンと推定され,その後,田中ほか(2002)により後期アプチアン~前期アルビアンとされた.本研究では,日奈久層分布域の西部~中部にあたる芦北町御立岬から八代市上宮山南方までの東西約22 kmの範囲で地質調査を行い,露頭の連続性が最も良いルートにおいて泥岩試料を採取した.
本研究では日奈久層の基底層から上部層にかけて採取した合計40試料の暗灰色泥岩について,全有機炭素濃度(TOC),有機炭素同位体比(δ13Corg),主要・微量元素濃度を測定した.主要・微量元素濃度については,酸化還元環境に鋭敏なFe,Mn,Vなどの元素濃度をUCCおよびTiO2で規格化し,濃縮係数(Enrichment factor: XEF=(Xsample/Tisample)/(XUCC/TiUCC))を用いて酸化還元環境を検討した.
有機炭素同位体比は,日奈久層の基底層から上部層下部にかけて,約440 mの層序区間で-22.1‰から-24.5‰へと約2.4‰低下している.その上位では-24.8‰~-23.4‰の範囲で推移し,顕著な変動は認められない.TOCは,基底層から中部層最下部にかけての約240 mの区間で, 0.18wt%から0.80wt%へと増加する.一方,その上位では, 0.21~0.70wt%の範囲で変動するものの,下位の地層にみられるような明瞭な増加傾向は確認されない.酸化還元指標については,日奈久層全体を通じて,FeEFが約1.0~2.9,MnEFが約0.2~1.1,VEFが約0.8~1.4の範囲にあり,顕著な変動は認められない.
酸化還元指標(FeEF,MnEF,VEF)に顕著な変化が認められないことから,日奈久層の堆積時における酸化還元環境は,大きく変化しなかったと考えられる.したがって,日奈久層に認められる有機炭素同位体比の低下は,局所的な酸化還元環境の変化のみでは説明が難しく,より広域的な炭素同位体比変動を反映している可能性がある.日奈久層の年代は後期アプチアン~前期アルビアンとされているが,この年代は下部層上部より上位の地層から産出した化石年代に基づいたものであり,基底層の堆積年代は前期アプチアンまでさかのぼる可能性がある.蝦夷層群に記録された前期アプチアンのδ13Corgの変動(Li et al., 2024)では,日奈久層で認められるようなδ13Corgの低下が,下位よりC2,C3,C5,C8 segmentに確認される.日奈久層の年代が前期アプチアンまで及ぶ可能性を考慮すると,日奈久層基底層~上部層に認められるδ13Corgの低下は,蝦夷層群の前期アプチアン記録におけるC8 segmentに対比される可能性がある.

参考文献
Li et al.,2024,Science Advances 10,1-12.
松本・勘米良,1964,5萬分の1地質図幅「日奈久」,1-174.
松本ほか,1982,化石 31,1-26.
田中ほか,2002,御所浦白亜紀資料館報 3,1-10.
Tomaru et al., 2025, Newsletters on Stratigraphy, vol.58/2, 219-238.

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