実行委員長挨拶
令和7年度 土木学会全国大会を迎えて
「気候変動時代の土木イノベーション〜カーボンニュートラルとレジリエンスで創る持続可能な社会〜」

- 垣下 禎裕KAKISHITA Yoshihiro
- 令和7年度土木学会全国大会実行委員会
- 委員長
- (国土交通省 九州地方整備局長)
令和7年度土木学会全国大会を、火の国・熊本の地で開催できますことを、大変光栄に思います。今大会は、九州では8年ぶり、そして熊本では実に24年ぶりの開催となります。
九州は四方を海に囲まれ、東アジアの中心に位置するという地理的特性から、古来より人・物・情報の交流拠点として発展してきました。今日においても、その恵まれた立地を生かして、アジアとの連携を視野に入れた持続可能な成長が期待されています。
開催地である熊本は、平成28年の熊本地震から9年を迎え、また令和2年には球磨川流域において豪雨災害が発生するなど、近年も自然災害に幾度となく見舞われてきました。しかし、地域住民の皆さまのたゆまぬ努力と、土木技術者をはじめとする多くの関係者の支援によって、復旧・復興は着実に進んでいます。本大会のポスター写真である阿蘇大橋や熊本城の復旧工事に象徴されるように、熊本はまさに“レジリエンス”を体現しています。
熊本地震では多くの災害関連死が発生し、電力や通信、水道といったライフラインの途絶が、都市生活と人命に深刻な影響を及ぼしました。さらに、近年頻発する記録的豪雨や猛暑、土砂災害など、気候変動の影響は地域社会のあらゆる側面に及んでおり、社会インフラの在り方自体が大きな転換点にあることを私たちに突きつけています。昨年を振り返ると、令和6年には能登半島地震によって厳しい冬の中での避難生活が長期化する中、豪雨災害に再び発生し、また南海トラフ地震に関する初の臨時情報も発表されるなど、わが国はいつどこで大規模災害が発生してもおかしくない状況にあります。
気候変動が進む現代において、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の取り組みと、災害に対し「レジリエンス(強靱性)」のある社会を構築することは、持続可能な社会の実現に不可欠です。エネルギーの地産地消や再生可能エネルギーの導入、自然共生型のインフラ整備といった、カーボンニュートラルとレジリエンスを両立させる土木の革新は、ますます重要性を増しています。土木分野のイノベーションにより、インフラの整備・マネジメントにおけるカーボンニュートラルやレジリエンス強化に向けた取り組みを加速し、次世代に安全・安心で豊かな社会を引き継ぐための方策を探求していく必要があります。
近年気候変動の影響による豪雨災害が頻発しており、地域全体で治水対策や防災・減災に関する取り組みの強化が喫緊の課題となっています。また一方で、半導体関連をはじめとした新たな基幹産業の集積が進む中、産業基盤の強化とそれを支えるインフラ整備・物流ネットワークの充実も求められています。地域の持続的な発展の鍵は、こうした自然災害への備えと産業振興の両立にあると言えるでしょう。
本大会では、「気候変動時代の土木イノベーション〜カーボンニュートラルとレジリエンスで創る持続可能な社会〜」というテーマのもと、災害復興の現場で得られた知見や、持続可能な未来に向けた最先端の研究成果を共有し、活発な議論が展開されることを期待しています。
池内幸司土木学会長による基調講演、熊本市現代美術館 館長でもあられる 東京藝術大学 学長 日比野克彦氏による特別講演、そして、「九州から考える土木イノベーション 〜カーボンニュートラルを目指して〜」と題した全体討論会では九州、熊本でご活躍している方を中心に討論していただく予定です。
本大会の会場は、熊本城に近接し都市機能が集積している「熊本城ホール」と、緑豊かなであり旧制第五高等からの歴史を継承する「熊本大学黒髪キャンパス」でありそれぞれ熊本を象徴する会場となっております。雄大な阿蘇の地形、清らかな地下水に代表される熊本の自然環境、そして豊かな歴史文化の薫りを感じながら、皆さまと未来を語り合えることを心より楽しみにしております。
また、今回の年次学術講演会については、過去最大の講演登録を賜り、発表を予定されている皆さまに対して、心より感謝申し上げます。本大会では、従来の口頭発表に加えて初のポスター発表セッションを実施し、発表者間や部門を超えた学術交流を通じて、新たなイノベーションの芽が生まれることを期待しています。
最後になりますが、本大会が、気候変動という世界的課題と向き合う知恵と経験を共有し、地域の強靱化とカーボンニュートラルの実現に向けた新たな一歩となることを祈念し、土木学会全国大会(熊本大会)の開催にあたってのご挨拶とさせていただきます。