講演情報

[スポーツ文化-B-08]「創られた伝統」としての沖縄空手(人,社)

*笹生 心太1 (1. 東京女子体育大学)
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近年、特に沖縄県内では「空手=沖縄の伝統」というイメージ構築が進んでいる。本発表では、こうした過程について「創られた伝統」の観点から考察する。なお、ホブズボウム&レンジャー『作られた伝統』(紀伊國屋書店、1992年)の訳者が指摘する通り、’invention’は「創造」と訳すべき場合もあれば「捏造」と訳すべき場合もある。本発表では、沖縄空手の伝統が「捏造」されたものと主張するわけではない。沖縄に空手のルーツとみなし得る武術の歴史は確かに存在するが、それは近年まで特に「沖縄の伝統」として意識されていなかった。本発表は、なぜ近年においてことさら「空手=沖縄の伝統」というイメージが構築されねばならなかったのかについて、沖縄空手を巡る諸アクターの戦略という観点から分析を行う。
 1980年、7年後に沖縄で国体が開催されることが決定すると、空手競技に沖縄県代表を送り込む必要が生じた。しかし、沖縄空手は競技ではなく型であるという主張を持つ流派・団体も多く、この計画は簡単に進まなかった。結果、競技空手を志向する団体と、型を重視する団体との分裂が起こった。
 こうした分裂は長く続いたが、2008年に沖縄伝統空手道振興会という統一組織が作られた。この大同団結の際に重要だったのは、空手関係者ではなく沖縄県行政を振興会のトップに据えたことだった。こうして空手は、ただの空手関係者による普及対象ではなく、沖縄県の伝統文化振興政策の文脈の中に位置づけられるようになる。そして、その際には空手の「沖縄らしい」文化としての再定義が必要となり、「空手=沖縄の伝統」というイメージが構築されていった。また、その際には「平和の島」としての沖縄のイメージに整合させるように、空手は「平和の武」としての位置づけを得ることとなった。

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