講演情報

[競技スポーツ-A-35]テニスにおける戦略的リソース配分の有効性の検証(スポーツ統計学)状態遷移モデルを用いた得点率分散戦略

*吉澤 将嗣1、川本 裕大1、竹下 大介1 (1. 東京大学)
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スポーツの指導現場では、「全てのポイントで全力を尽くせ」という言葉をしばしば耳にする。しかし、テニスや卓球、バレーボールなどのポイントセット制のスポーツでは、サッカーや野球のようにポイントが直接勝敗に結びつくわけではない。特にテニスにおいては、従来の研究で全てのポイントが等価ではないことが示されており、特定のスコアがゲームの勝敗に対して相対的に重要であるとされている(Morris, 1977; O'Donoghue, 2001)。Barnett et al.(2006)は、理論モデルを用いて、特定のスコアにおける努力度の変動がゲーム勝率に影響を与える可能性を指摘しているが、実データを用いた議論は十分ではない。本研究の目的は、テニスの試合において、実際のデータを用いてポイント取得確率をスコアごとに変動させる戦略の有効性を検証することである。
 過去12年の四大大会の男女シングルスのデータから、タイブレークを含まず、総取得ポイント差の5%未満のセットを対象とすることで、セットあたりの取得ポイント数が勝者と敗者でほぼ等しい試合のみを分析した。その結果、セット勝者と敗者のスコアごとのポイント取得確率には明確な差が存在した。これらのデータを基にモンテカルロシミュレーションを実施し、全てのスコアでのポイント取得率を50%とする戦略とセット勝者の実データに基づいてスコアごとのポイント取得確率を変動させる戦略での勝率を比較した。シミュレーションの結果、どちらの戦略においても1セットにおける双方のポイント取得数の平均値は等しかった。しかし、ポイント取得確率をスコアごとに変動させる戦略を採用することで、ゲーム勝率が50%から58.65%、セット勝率が50%から73.17%に向上した。これらの結果は、重要なスコアにおいてリソースをより多く配分することが勝率向上に繋がる可能性を示唆している。

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