講演情報

[学校保健体育-A-12]体育授業における他者とのかかわりと「身体的想像力」との関係(哲)

*中野 大希1 (1. 筑波大学大学院)
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本発表の目的は、体育授業における共感についての批判的検討を通して、他者との適切なかかわりにおいて「身体的想像力」が働いていることを示すことである。この試みの背景には、体育授業において他者と適切にかかわることができない児童生徒がいるという現状がある。その現状について、例えば体育心理学領域では共感という概念に着目した議論が展開されてきた。そこでの共感は主に、他者の心の状態を推論し理解することと捉えられている。
 この共感は、他者と適切にかかわるために重要であるが、それができるからといって、必ずしも他者と適切にかかわることができるわけではない。例えば、痛みに共感できる児童生徒は、体育授業において痛がる他者の様子を見て、心の状態を推し量り理解することができる。しかし、そのような児童生徒であっても、意図せずにボールを過度に強い力でパスし、相手に痛みを与えてしまうことがある。
 このことが示唆するように、他者との適切なかかわりは、児童生徒の共感のみによって成り立っているわけではない。そのかかわりは、自らの行おうとしている運動が、いかなる結果をもたらすのかをあらかじめ想像できているからこそ成立すると考えられる。ただし、通常この想像は、自身の運動の結果を頭の中で思い描くような仕方で行われているわけではない。実際に、われわれが適切な力加減でボールをパスできているとき、そのように思い描いてはいないだろう。つまり、前意識的な身体のレベルにおける想像、言い換えると、「身体的想像」とでも呼びうる身体の働きがあると考えられる。本発表では、哲学の一領域である現象学の立場から、この働きを児童生徒一人一人の身体が有している能力として捉え、他者とのかかわりと「身体的想像力」の関係について検討したい。この検討によって、これまでの体育授業において、われわれが必ずしも自覚せずに育んできた事柄を描き出すことを試みる。

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