講演情報

[11-1610-1add]保存期CKDの身体活動管理の理論

平木 幸治 (聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーションセンター 参事
日本腎臓リハビリテーション学会 理事)
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1996年 聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション部 入職
2021年 聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーションセンター 主事
慢性腎臓病(CKD)患者に対して、かつては運動制限が推奨されていたが、近年では身体活動や運動が腎機能低下の抑制や心血管疾患、フレイル・サルコペニアの予防に寄与することが示され、その有効性に関するエビデンスが蓄積してきている。
 観察研究では、身体活動量の多い者ほどCKD発症リスクが低く、歩行運動を中心とした活動量の増加が腎機能低下の抑制や生命予後の改善と関連することが報告されている。日本の多施設コホート研究においても、糖尿病・非糖尿病を問わず身体活動量が多い群で腎予後および生存率が良好であり、身体活動量の増加は容量反応関係を示し、週当たりの活動量が増すほどCKDの発症や進行リスクが低下することが明らかとなっている。さらに、運動療法の介入研究やメタ解析により、その有効性が裏付けられている。腎臓リハビリテーションガイドライン(2018)では、運動介入によりeGFRがわずかに改善することが示されている。その他、運動療法により運動耐容能や身体機能、QOLの改善、心血管リスクや腎機能改善効果があることが複数報告されている。加えて、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCを用いた研究でも、運動介入がeGFR低下抑制や腎機能悪化予防に寄与することが示され、運動療法の腎保護効果はより確かなものとなっている。そのメカニズムとしては、運動は一酸化窒素増加、酸化ストレス軽減、インスリン抵抗性や慢性炎症改善、RAAS活性抑制、血圧コントロールなど、複合的経路を介して腎保護的に作用する。単一要因ではなく、多面的な生理反応の相互作用によって腎機能進行抑制がもたらされる点が特徴である。
 臨床において保存期CKD患者に係わる場面としては重症化予防を目的としたCKD教育入院や外来がある。国内の多施設共同研究では、ステージG3–5のCKD患者に対するチーム医療により、2年間eGFR低下速度が緩やかとなり腎機能低下の抑制効果が持続することが報告されている。特に、そのチームに理学療法士が関与すると死亡や腎代替療法導入リスクが低下し、理学療法士による運動指導が透析予防の一翼を担う可能性が示唆されている。
 以上より、保存期CKD患者に対する身体活動の維持・向上は、腎機能悪化の抑制に寄与する重要な治療戦略であり、今後は腎臓リハビリテーションの普及と標準化を通じ、理学療法士を中心としたチーム医療体制の確立が求められる。

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