講演情報

[GP8]学内環境におけるアクネ菌の検出と分布状況

*伊藤 有希1、迫西 大輔1、都築 弘汰1、古川 郁2、栗原 由利子2 (1. 東京工科大学 医療保健学部 臨床検査学科 2.東京工科大学大学院 医療技術研究科 臨床検査学専攻)
【はじめに】
ヒトの活動によっておこる皮膚片の落下や飛沫などは、それらに含まれる微生物により室内環境を汚染する。この汚染は無菌環境が求められる手術室などで医療関連感染のリスクとなる。ヒト皮膚の常在菌である Cutibacterium acnes(アクネ菌)は、日和見感染、特に肩の人工関節周囲感染症の起因菌としても知られている。先行研究では環境からのアクネ菌DNAの検出報告はあるが、生菌の分布実態は不明であった。本研究では生活環境から培養法にてアクネ菌の検出を行い、分布状況から生菌による汚染実態を明らかにすることを目的とした。
【方法】
 学内の環境表面計110箇所からスワブ法にて表面の細菌を採取した。採取検体をGAM寒天培地にて嫌気培養後、グラム染色およびPCR法にてアクネ菌の同定・検出を行った。また落下細菌法を用いて、空気中からのアクネ菌検出を試みた。スワブ法によるアクネ菌の採取率を確認するため、菌数既知のアクネ菌液をプラスチックシャーレに播き、一定時間後にスワブで回収・培養を行いコロニー数から回収率を算出した。
【結果】
採取を行った110箇所のうち42箇所からアクネ菌を培養でき、全体の検出率は38%であった。また、空気中からの検出では落下細菌法に用いた10枚の寒天培地から計2個のアクネ菌のコロニーが検出された。これはOmelianskyの式で換算すると空気中10 m³当たりに約2個のアクネ菌が含まれると推定された。さらに、回収率は最大で1.87%、最小で0.0088%であった。
【考察】
検出率が38 %であったことから、アクネ菌が生活環境の様々な場所に生存しており、ヒトの活動が環境の細菌汚染を引き起こす可能性が示唆された。医療現場に限らず、宇宙開発において地球外環境の汚染菌として通性嫌気性菌が問題視されていることからも、多様な現場での細菌汚染対策が重要であると考えられる。
スワブ法における回収率は菌の濃度および菌株と関連している傾向にあった。 アクネ菌の血清型により回収率が異なったことから、血清型の違いが環境中における生存や採取効率に関与する可能性が示唆された。
【結語】
アクネ菌は多様な環境表面上に生存し、採取対象により検出率が変化することが明らかとなった。今後は汚染からの経過時間や表面素材なども含めて検討していく。