講演情報

[GP22]心電図装着の補助ソフトウェアの開発

*倉田 陽斗1、長尾 将希1、宿利 淳1 (1. 東京工科大学 医療保健学部 臨床検査学科)
背景
 心電図検査における電極の誤装着は、波形解釈の誤りを招く医療安全上の課題である。海外の報告では、V1・V2が1肋間上に、V5・V6が腋窩寄りに装着される誤りが多く、誤診につながる確率は17~24%であると示された。臨床現場においても、経験の浅い検査者や学生実習時には誤装着のリスクが高いと考えられる。近年では深層学習を用いた電極誤配置の自動検出も試みられており、教育支援や誤装着防止ツールへの応用が注目されている。また心電図教育として、iPadとARアプリケーションを使用した電極装着の技術指導を行う方法も報告されているが、iPadを持ちながら画面越しで電極装着することになり実用性に欠けるのが現状である。

目的
 本研究では、電極装着の正確性を補助する教育支援ソフトウェアを開発し、その有用性を検討した。リアルタイム物体認識に優れるYOLOv11と、ハンズフリー操作が可能なスマートグラスBT-40Sを用いた支援システムを構築した。



方法
 本学学生を対象に、①11名の画像を撮影しAI学習を実施、②9名の被験者に対し肉眼とスマートグラスで電極装着精度を比較、③操作性に関するアンケートを実施、④臨地実習前の学生6名を対象に性能評価を行った。

結果
 臨地実習後の学生では肉眼とスマートグラスで電極位置の差は0.5 cm程度であった。一方で臨地実習前の学生では肉眼、スマートグラスともに装着位置のばらつきが大きかった。装着の時間に有意差は認められなかった。
 アンケートでは約60%の学生が肉眼よりもスマートグラスを使用して心電図装着を行うほうが良いと回答した。「肋間の場所を確認することなく素早く装着できる」や「肋間の判別が困難な相手に対して有効だと感じた」といった回答を得た。

考察
 臨地実習後の学生では電極位置に大きな差はなく、開発したソフトウェアの精度は十分保たれていると考えられる。しかしながら実習前の学生では装着位置のばらつきが大きくなってしまった。原因として、検査者の腕がカメラに映り込み認識マーカーがずれる技術的課題が考えられた。
 本システムは初心者教育において一定の有用性が示唆された。今後はマーカー認識の安定化や誤装着時のアラート機能を追加することで、教育現場での実習支援のみならず、臨床検査技師間の内部精度管理ツールとしての活用が期待される。