講演情報
[P14-01]熱移送説による地震誘発は成立しない
*藤井 英隆1、西原 克洋1、林 能成1 (1. 関西大学)
日本は被害地震が多いことから,地震の前兆や予知への関心が高い.特に,インターネット上では地震予知のミームが度々話題になる.このようなミームによって地震への備えが促進されるのであれば科学的根拠や信憑性は重要ではないという主張がある一方で, 根拠があいまいな情報によって恐怖が煽られることで社会活動に悪影響が出る事態も生じている.この問題について,加藤(2023)ではよく知られたミームの1つである「バヌアツの法則」を検証し,明確に否定できることを提示している.本研究では地震の誘発仮説である熱移送説について,ISC震源カタログ(暫定的に2000年から2020年までの21年間とする)を使用して加藤(2023)の手法で検証した.熱移送説とは地質学者の角田史雄氏によって提唱されている仮説で,火山噴火と地震はマントル深部からのプルームによる熱が主たる原因となって発生するというものである.角田・藤(2022)では,マグニチュード 5.5以上の深発地震が1ヶ月の間に5回以上連続発生すると,1年以内に地表付近でマグニチュード 7 以上の地震が発生するという形で地震予知を定量化している.熱移送説には地球科学的,物理学的に多くの疑問点があるが,本研究ではそのメカニズムには深入りせずに,深発地震の連続発生が地表近くの大地震の前兆となるかという性質のみに注目した検証を行った.加藤(2023)で提案された第1の指標はM7以上の地震の発生間隔の変化である.連続する2つのM7以上の地震の間に連続深発地震が起きる場合,地震の誘発があるならば2つ目のM7以上の地震の発生時期は本来の時期よりも早まるはずである.データ解析の結果,連続するM7 以上の2地震の間に連続深発地震が起きなかった区間の平均間隔は31.3日となり,連続深発地震が起きた区間の平均間隔は66.1日であった.連続深発地震をはさんだ区間の方が平均間隔は長くなり,深発地震の連続発生が地表付近の大地震を誘発するという仮説は否定的な結果となった.加藤(2023)によって提案された第2の指標は,トリガーとなる現象から浅い大地震までの発生時間の変化である.今回の場合,連続する2つの地表付近で起きたM7以上の地震の間に連続深発地震が起きていた場合,誘発があるならば連続深発地震から後に起きたM7 以上の地震までの時間が短くなると予想される.これを数式で表すと,連続する2つのM7 以上の地震の発生時刻をそれぞれtn,tn+1,その間に発生したj番目の連続深発地震の発生時刻を tjとした時, R=(tj−tn)/(tn+1−tn)と定義でき,Rの値が1に近づくほど誘発が顕著であったと評価される.この指標を計算した結果,全期間で計算されたRの平均値(Rmean)は0.58であった.またRmeanの統計的な安定性を見るため,ブートストラップ法を用いて100000 個の Rmeanを求めた結果,その分布は0.5を中心とした正規分布で近似できるものとなった.Rの値は1に近い値をとる傾向は見られず,この指標を用いても深発地震の連続発生が浅い大地震を誘発するという傾向は見られなかった.熱移送説による地震誘発の仮説は警報期間が1年間と非常に長いことが特徴である.連続深発地震後の地表付近の地震発生時期に特徴的な時間があるか否かを検証するため,警報期間を1年から段階的に短くした場合の仮説に適合する地震数の変化を計算した.警報期間を1年とした時の総警報日数21年間(7671日)のうち 6771日(全期間の88%)であった.この期間に発生した地表付近のM7 以上の地震は172 回であった.個々の連続深発地震による警報期間を短くすると 期間内に発生した地表付近のM7以上の地震数が比例して減少する結果となった.つまり地表付近のM7 以上の地震は連続深発地震からの経過時間とは無関係に偏りなく発生していることが示された.以上,本研究で試算した3つの指標いずれにおいても,連続深発地震後の地表付近の大地震の発生タイミングに偏りや法則性は見られなかった.熱移送説による地震誘発は成立しない.
