講演情報
[S03-07]内部潮汐による音速変動がGNSS-A測位に与える影響
*石川 直史1、横田 裕輔2、渡邉 俊一3、増永 英治4 (1. 海上保安大学校、2. 東京大学生産技術研究所、3. 海上保安庁海洋情報部、4. 茨城大学地球・地域環境共創機構)
GNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)による海底測位は、GNSSで位置測定する測量船(海上局)と海底に設置した音響トランスポンダー(海底局)との間で音響測距を行い、海底局の位置座標をcm精度で測定するものである。この測位技術は沈み込み帯におけるプレート境界の震源域直上の海底における精密な地殻変動を捉えることを可能にし、プレート境界の固着状態の把握に重要な役割を果たしている。
GNSS-Aの音響測距部分における主要な誤差要因は、海水の水温・塩分の変動に起因する音速の変動である。地震学的に必要なcm精度での地殻変動の測定のためには、音速変動を高精度に把握する必要があり、音速変動の適切なモデル化が解析手法の開発における重要な課題となっている。現在、海上保安庁の定常解析で使用しているGNSS-A解析用のフリーソフトウェア”GARPOS”(Watanabe et al., 2020)では、空間的な変動を海上局位置(Xs)と海底局位置(Xb)に対する単純な一次関数(∝g1•Xs+g1•Xb)としてモデリングしている。このモデルでは、空間的に傾斜している音速場の傾斜の大きさと向きが2つのベクトル係数(g1, g2)で表現される。特に、2つの係数が同符号になるときは、音速構造が1層の傾斜場で近似できる状態に対応しており、これまでの南海トラフ周辺海域における実観測データの解析から黒潮による傾斜場とある程度整合的な結果が得られている(例えば、Yokota et al., 2024 GJI)。
一方で、(g1, g2)が異符号となる場合もあり、その場合は傾斜方向が逆向きの層が複数重なる複雑な構造となっていることが示唆される。さらに、黒潮による時間的に安定した傾斜場に重畳する形で、より短い周期で変動する傾斜状態が推定される例も多い。こうした複雑な状況を生み出す原因として潮汐起因の内部波(内部潮汐)が考えられる。実際に、実観測データから推定される傾斜パターンが、理論的に計算した内部潮汐のモード解から推定される状態とある程度整合的になるケースがあることが分かってきた(Yokota et al., 2025 PEPS)。
こうしたことから、内部潮汐がGNSS-A測位に与える影響を評価することは、音速変動モデルの高度化、ひいては地殻変動検出の高精度化に向けた重要な課題となる。しかしながら、実観測データには音速変動以外にも多種・多様な誤差要因が重畳しているため、個別の誤差要因の評価が難しいという問題がある。そこで、純粋に内部潮汐のみの影響を調査するため、仮想的な理想系による数値シミュレーションを行った。ここでは、理論的に計算した内部潮汐のモード解(海面と海底を固定した固定端の振動モード)をもとに海水中の音速場を設定し、その場における音波の走時を計算する。計算された走時に適当な誤差を与え、様々な解析条件で音速変動と海底局位置の推定を行い、モデルパラメータの振る舞いや測位精度を検証した。
内部潮汐による音速の変動は、海底局の推定位置を設定した真値から10~20cm以上ずらしてしまうが、適切な音速変動モデルの適用によりずれは1~2cm以下まで低減する。内部潮汐は観測領域(数km)に比べ波長が長い(数十km)ため、GARPOSのような1次式の線形空間傾斜モデルでよく推定できているものの、振動モードが高次になるほど波長が短くなるため、(g1, g2)が異符号となる状態も傾斜方向が異なる複数の層が存在する高次の振動モードで再現されることが分かった。また、進行波として時間変化する内部潮汐の影響による音速変動パラメータの時間変化もこれまでの実データの結果に近い振る舞いがある程度再現される。今後、数値シミュレーションの結果と実データの推定結果との比較によって、より正確な海洋場の解釈とそれによる音速変動モデルの高度化に繋げていきたい。
なお、実際の海洋場は単純な振動モードの解ではなく、複数のモードが重ね合った状態となっている。こうした状態は水深や海底地形に影響されるため、より現実的な内部潮汐の影響評価のためには、詳細な海洋モデルによる計算が必要であり、今後の課題である。
GNSS-Aの音響測距部分における主要な誤差要因は、海水の水温・塩分の変動に起因する音速の変動である。地震学的に必要なcm精度での地殻変動の測定のためには、音速変動を高精度に把握する必要があり、音速変動の適切なモデル化が解析手法の開発における重要な課題となっている。現在、海上保安庁の定常解析で使用しているGNSS-A解析用のフリーソフトウェア”GARPOS”(Watanabe et al., 2020)では、空間的な変動を海上局位置(Xs)と海底局位置(Xb)に対する単純な一次関数(∝g1•Xs+g1•Xb)としてモデリングしている。このモデルでは、空間的に傾斜している音速場の傾斜の大きさと向きが2つのベクトル係数(g1, g2)で表現される。特に、2つの係数が同符号になるときは、音速構造が1層の傾斜場で近似できる状態に対応しており、これまでの南海トラフ周辺海域における実観測データの解析から黒潮による傾斜場とある程度整合的な結果が得られている(例えば、Yokota et al., 2024 GJI)。
一方で、(g1, g2)が異符号となる場合もあり、その場合は傾斜方向が逆向きの層が複数重なる複雑な構造となっていることが示唆される。さらに、黒潮による時間的に安定した傾斜場に重畳する形で、より短い周期で変動する傾斜状態が推定される例も多い。こうした複雑な状況を生み出す原因として潮汐起因の内部波(内部潮汐)が考えられる。実際に、実観測データから推定される傾斜パターンが、理論的に計算した内部潮汐のモード解から推定される状態とある程度整合的になるケースがあることが分かってきた(Yokota et al., 2025 PEPS)。
こうしたことから、内部潮汐がGNSS-A測位に与える影響を評価することは、音速変動モデルの高度化、ひいては地殻変動検出の高精度化に向けた重要な課題となる。しかしながら、実観測データには音速変動以外にも多種・多様な誤差要因が重畳しているため、個別の誤差要因の評価が難しいという問題がある。そこで、純粋に内部潮汐のみの影響を調査するため、仮想的な理想系による数値シミュレーションを行った。ここでは、理論的に計算した内部潮汐のモード解(海面と海底を固定した固定端の振動モード)をもとに海水中の音速場を設定し、その場における音波の走時を計算する。計算された走時に適当な誤差を与え、様々な解析条件で音速変動と海底局位置の推定を行い、モデルパラメータの振る舞いや測位精度を検証した。
内部潮汐による音速の変動は、海底局の推定位置を設定した真値から10~20cm以上ずらしてしまうが、適切な音速変動モデルの適用によりずれは1~2cm以下まで低減する。内部潮汐は観測領域(数km)に比べ波長が長い(数十km)ため、GARPOSのような1次式の線形空間傾斜モデルでよく推定できているものの、振動モードが高次になるほど波長が短くなるため、(g1, g2)が異符号となる状態も傾斜方向が異なる複数の層が存在する高次の振動モードで再現されることが分かった。また、進行波として時間変化する内部潮汐の影響による音速変動パラメータの時間変化もこれまでの実データの結果に近い振る舞いがある程度再現される。今後、数値シミュレーションの結果と実データの推定結果との比較によって、より正確な海洋場の解釈とそれによる音速変動モデルの高度化に繋げていきたい。
なお、実際の海洋場は単純な振動モードの解ではなく、複数のモードが重ね合った状態となっている。こうした状態は水深や海底地形に影響されるため、より現実的な内部潮汐の影響評価のためには、詳細な海洋モデルによる計算が必要であり、今後の課題である。
