講演情報
[S11-01]南海トラフにおける周期10秒の振動現象
*深尾 良夫1、Kim Taewoon1 (1. 海洋研究開発機構 横浜研究所 海域地震火山部門)
1.序:
南海トラフの海底に設置された水圧計の記録のパワースペクトルには周期100秒、10秒、5秒のピークが常時見られる。これらはInfra-gravity wave, Primary microseisms, Secondary microseismogramsと解釈されそうであるが、南海トラフの10秒ピークの生成源は10秒周期の海洋波浪だけではなさそうである。連続的な海面擾乱であってもパルス的な地震であっても、あるいは通常の地震でも超低周波地震であっても、擾乱を与えると海底レスポンスとしては10秒振動が卓越する構造が海面下にあるのではないか?本研究では、10秒振動現象の生成現場にできるだけ近付いて、単なる「海洋+均質固体地球」では説明しきれない振動現象の実態を明らかにすることを目指す。
2.10秒振動現象の検出:
使用データ:南海トラフ熊野灘はるか沖の海溝急斜面の上部平坦面に設置されたDONET-1(海洋研究開発機構・防災科研)ノードD, Bの8点と 下部平坦面に設置されたノードCの3点、計11点における2024年1年間分の水圧計記録を用いた。先ず1日毎の水圧PSDスペクトル図を作った。Fig.1は4月2日の例で、周期100秒、10秒、5秒に明瞭なピークが見られる。これら3つのピークは日常的に見られ、それぞれocean infra-gravity wave, 1次脈動、2次脈動に対応付けられてきたものである。Fig.2はこの日の適当な100秒間の水圧記録である。記録の前半は5秒振動が卓越し、2次脈動と同定されるが、後半は10秒振動が断然卓越する。もし2次脈動が1次脈動と生成源を同じくするならば、両者の強弱は並行しこのような食い違いは起こらない筈である。後半の10秒振動は超低周波地震の発生に伴うシステムのレスポンスともみなせる。こうした観測に基づいて我々は、10秒振動現象とPrimary microseismsとを同一視せず、先ずは1日毎のデータに基づいて、1日毎に10秒振動源の位置決めを試みた。
3.データ解析及び結果:
10秒ピークをなす振動源を探策するために、遠方場における平面波伝播を前提としたslowness解析と近地場における円筒波近似を前提としたback-projection解析とを組み合わせた。slowness解析は基本的には相関解析法(Nishida et al., 2005,GJI)に依った。4月2日の10秒振動現象に対するslowness解析の結果をFig.3に示す。図には4月中に観測された6件の10秒振動現象のslowness解析結果がまとめて示されている。図によれば、4月2日の10秒振動(→で示した)は、南東方向からアレーに入射し9 km/s の速度でアレーを通過している。このアレー通過速度はRayleigh波としては異様に速く、実際は、振動現象がアレーの近傍で発生したため平面波近似が破綻しているのだと解釈した。そこでslowness解析で得られた観測点間の波形の到達時間遅れだけを用い、各観測点から円筒波を3km/sのスピードで時間遅れ分だけ逆伝播させてみた。この逆伝播によって全ての波面の到達点の集合は震源から出た円筒波面を形成する筈である。現実には各種の誤差があってこのような理想的な波面の再生は望めないが、逆伝播した波面の最大密集帯をもって震源近傍と定義することは可能な筈である。Fig.4に距離減衰まで考慮して求めた震源近傍の位置を示す。Slowness解析でも逆伝播法でも震源がアレーよりもすぐ海側(海溝軸側)に位置する結果に変わりはない。この震源位置から判断して、振動源は1次脈動ではありえない。恐らく小さな超低周波地震であろう。
4.議論
海底水圧変動の10秒振動現象については、連続的励起源としては周期10-20秒の海洋波浪、突発的な励起源としては地震が知られている。前者の場合は、周期10秒は基本的には海洋波浪の周期に支配されるが、後者の場合、周期10秒は基本的には海洋・固体地球の弾性カップリングに支配される。支配的なプロセスが何であるかによって10秒ピークのスペクトル位置は多少変わる。一方、南海トラフの場合は、微小地震や超低周波地震も含めて多様な擾乱源が数多く存在するのに、それらへの応答は10秒帯域に集中するかのように見える。講演では1年間のデータを整理してこの点を定量化する。
南海トラフの海底に設置された水圧計の記録のパワースペクトルには周期100秒、10秒、5秒のピークが常時見られる。これらはInfra-gravity wave, Primary microseisms, Secondary microseismogramsと解釈されそうであるが、南海トラフの10秒ピークの生成源は10秒周期の海洋波浪だけではなさそうである。連続的な海面擾乱であってもパルス的な地震であっても、あるいは通常の地震でも超低周波地震であっても、擾乱を与えると海底レスポンスとしては10秒振動が卓越する構造が海面下にあるのではないか?本研究では、10秒振動現象の生成現場にできるだけ近付いて、単なる「海洋+均質固体地球」では説明しきれない振動現象の実態を明らかにすることを目指す。
2.10秒振動現象の検出:
使用データ:南海トラフ熊野灘はるか沖の海溝急斜面の上部平坦面に設置されたDONET-1(海洋研究開発機構・防災科研)ノードD, Bの8点と 下部平坦面に設置されたノードCの3点、計11点における2024年1年間分の水圧計記録を用いた。先ず1日毎の水圧PSDスペクトル図を作った。Fig.1は4月2日の例で、周期100秒、10秒、5秒に明瞭なピークが見られる。これら3つのピークは日常的に見られ、それぞれocean infra-gravity wave, 1次脈動、2次脈動に対応付けられてきたものである。Fig.2はこの日の適当な100秒間の水圧記録である。記録の前半は5秒振動が卓越し、2次脈動と同定されるが、後半は10秒振動が断然卓越する。もし2次脈動が1次脈動と生成源を同じくするならば、両者の強弱は並行しこのような食い違いは起こらない筈である。後半の10秒振動は超低周波地震の発生に伴うシステムのレスポンスともみなせる。こうした観測に基づいて我々は、10秒振動現象とPrimary microseismsとを同一視せず、先ずは1日毎のデータに基づいて、1日毎に10秒振動源の位置決めを試みた。
3.データ解析及び結果:
10秒ピークをなす振動源を探策するために、遠方場における平面波伝播を前提としたslowness解析と近地場における円筒波近似を前提としたback-projection解析とを組み合わせた。slowness解析は基本的には相関解析法(Nishida et al., 2005,GJI)に依った。4月2日の10秒振動現象に対するslowness解析の結果をFig.3に示す。図には4月中に観測された6件の10秒振動現象のslowness解析結果がまとめて示されている。図によれば、4月2日の10秒振動(→で示した)は、南東方向からアレーに入射し9 km/s の速度でアレーを通過している。このアレー通過速度はRayleigh波としては異様に速く、実際は、振動現象がアレーの近傍で発生したため平面波近似が破綻しているのだと解釈した。そこでslowness解析で得られた観測点間の波形の到達時間遅れだけを用い、各観測点から円筒波を3km/sのスピードで時間遅れ分だけ逆伝播させてみた。この逆伝播によって全ての波面の到達点の集合は震源から出た円筒波面を形成する筈である。現実には各種の誤差があってこのような理想的な波面の再生は望めないが、逆伝播した波面の最大密集帯をもって震源近傍と定義することは可能な筈である。Fig.4に距離減衰まで考慮して求めた震源近傍の位置を示す。Slowness解析でも逆伝播法でも震源がアレーよりもすぐ海側(海溝軸側)に位置する結果に変わりはない。この震源位置から判断して、振動源は1次脈動ではありえない。恐らく小さな超低周波地震であろう。
4.議論
海底水圧変動の10秒振動現象については、連続的励起源としては周期10-20秒の海洋波浪、突発的な励起源としては地震が知られている。前者の場合は、周期10秒は基本的には海洋波浪の周期に支配されるが、後者の場合、周期10秒は基本的には海洋・固体地球の弾性カップリングに支配される。支配的なプロセスが何であるかによって10秒ピークのスペクトル位置は多少変わる。一方、南海トラフの場合は、微小地震や超低周波地震も含めて多様な擾乱源が数多く存在するのに、それらへの応答は10秒帯域に集中するかのように見える。講演では1年間のデータを整理してこの点を定量化する。

