講演情報

[S11-02]能登半島地震における輪島市河井町の地震火災(再論):地中ガス由来の「時差型地震動シャンパン効果」によるジオハザード

*榎本 祐嗣1 (1. 信州大学 名誉教授・リサーチコーディネータ)
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2024年1月1日16時10分(日本時間)、北陸地方北部で発生したM7.6の能登半島地震の約1時間後、石川県輪島市河井町において大規模な火災が発生した。消防庁の調査では出火原因の特定には至らなかったが、筆者らは前報(Enomoto et al., 2024)において、輪島市地下の沖積層内で生成されたメタンガスが噴出し、自然発火に至った可能性を指摘した。ただし、本震発生から出火までの約1時間の間に、どのような地下変動が発生して着火に至ったのかについては未解明の点が残されていた。本稿では、火災が覚知された時刻(17時23分)の直前、17時21分30秒に輪島市で観測された局所的な強震動(気象庁震度4)に着目する。この揺れは、輪島市から南西に約28.2 km離れた地点(志賀町付近)を震央とする小規模地震(M3.5)によって引き起こされたものであると推定されるが、震央に近い富来に比べて輪島市では最大加速度が約5.4倍に増幅され、輪島市のみが顕著な揺れを記録した(図1参照)。注目すべきは、この地震波形が通常の断層破壊型地震とは異なり、急峻な立ち上がりと高周波成分の卓越といった特徴を示している点である。これらの特徴は、非地震性または準地震性現象に類似する可能性を示唆する。この異常な地震動が以下のような地下過程によって生じた可能性がある。すなわち、有機物を多く含む沖積層内の地下水に、微生物分解によって生成されたメタン・二酸化炭素などがの地中ガスが高濃度で溶存していた。この地下水が本震以降に繰り返し受けた地震動によって以下のプロセスを経たと推定する:Ⅰ)地下水中の溶存ガスが気泡として急激に成長
II)気泡の浮力により上昇経路が形成され、ガスが粘土層下に滞留・加圧
III)蓄積されたガス圧が臨界に達し、キャップロックである粘土層を破断させ、爆発的な断熱膨張が発生このとき、地中ガスを理想気体と仮定すれば、その断熱膨張による急激なエネルギー放出が、観測された異常地震動のエネルギー源となりうる。この一連の現象は、シャンパンボトルを振った後に開栓すると泡が一気に噴き出す様子と類似しており、かつ本震後に時間差をもって生じることから、筆者はこれを「時差型地震動シャンパン効果(Time-lagged Seismic Champagne Effect)」と名付け、社会的なハザード認識の啓発にも資すると考える。本モデルは、火災直前に観測された異常地震動の特徴を整合的に説明しうるだけでなく、地震によって誘発された地中ガスの移動と噴出が、浅発の地震動の発生、メタン発火やマンホールの浮上、さらには海底からのガス泡放出など、従来見落とされてきた地球科学的リスク(ジオハザード)を引き起こす可能性を示唆するものである。Enomoto, Y., Komatsubara, T. & Kiyashu, S. Ignition of subterranean methane: unveiling a new geohazard in Japan following 2024 Noto Peninsula Earthquake. npj Nat. Hazards 2, 31 (2025). https://doi.org/10.1038/s44304-025-00068-5