講演情報
[S16-01]地中はぎとり波を用いたスペクトルインバージョン解析に基づく地盤減衰評価の試み
*桐田 史生1、渡部 豪1、中西 龍二1、鈴木 晴彦2 (1. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、2. 応用地質株式会社)
1.はじめに
統計的グリーン関数法等による地震動評価においては、敷地の地震動特性を表す地盤構造モデルが用いられ、その地盤構造モデルには地震動の大きさに影響を与えるパラメータとして地盤減衰がある。この地盤減衰の評価方法として地震記録による地盤同定解析があるが、ここではスペクトルインバージョン解析で得られる地震動特性を用いる方法を試みた。
通常のスペクトルインバージョン解析は地表の地震記録を用いるが、原子力施設の設計に用いる地震動(基準地震動)が地中の解放基盤表面(Vs=700m/s以上)で評価することや、地表に比べて地中の記録は外乱が少ないと考えられることから、地中のはぎとり波を用いたスペクトルインバージョン解析により地震基盤以浅及び以深における地盤減衰の評価を実施した。
2.地盤減衰の評価方法概要
日本原子力研究開発機構(以下、「機構」という。)の敷地(茨城県内の「原子力科学研究所」、「核燃料サイクル工学研究所」(東海村)、「大洗原子力工学研究所」(大洗町))並びに敷地周辺にある防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KiK-net)等で得られた地震記録及び地震記録から算出したはぎとり波を用いて、片岡ほか(2006)1)を参考にしたスペクトルインバージョン解析により、震源特性、伝播経路特性、サイト増幅特性を評価した。地震基盤(Vs=3,000m/s程度)以深の地盤減衰は伝播経路特性のQ値より評価し、地震基盤以浅の地盤減衰はサイト増幅特性をターゲットとした山中・石田(1995)2)による遺伝的アルゴリズムによる機構敷地の地盤構造モデルの地盤同定解析より評価した。本検討の概念図を図1に示す。
3.スペクトルインバージョン解析に用いた地震動
機構の敷地並びに敷地周辺のK-NET、KiK-net等で得られた地震観測記録について、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震以降の地盤の状況を評価するため、2011年4月から2022年12月までに発生した地震に着目し、地盤の非線形化が進んでいないと予想されるMj3.5~6.0(中規模地震)かつ地表の最大加速度100cm/s2以内、鉛直下方から地震動が伝播する震源深さ30~100kmの地震を用いた。さらに、地震分布の偏りによる影響を抑えるために、緯度方向及び経度方向0.1度、深さ方向5kmのグリッドを設定し、グリッド内で最もMjが大きい地震を用いた。この方法にて選定され、解析に用いた地震は330個である。本検討に用いた地震観測点と震央位置を図2に示す。
4.地盤減衰の評価結果
(1) 地震基盤以深の地盤減衰
スペクトルインバージョン解析で得られた伝播経路特性のQ値を図3に示す。地表の地震記録を用いた場合と地中はぎとり波を用いた場合に大きな差は見られず、また図に併記した茨城県周辺で実施された既往研究の結果と整合的な結果が得られた。スペクトルインバージョン解析においてはKiK-net観測点のうち地震基盤相当の地点を拘束条件としているため、地震基盤以深の評価結果に地中はぎとり波を用いた影響が出なかったと考えられる。
(2) 地震基盤以浅の地盤減衰
スペクトルインバージョン解析で得られた敷地のサイト増幅特性をターゲットとし、敷地の地盤構造モデルの地盤同定解析により地盤減衰を評価した結果を図4に示す。過年度に実施した地表の地震記録を用いた検討結果に比べ、比較的高振動の領域でQ値が小さく評価された。これは、地中のはぎとり波を用いることで、地表の地震記録に含まれる周辺建物からの反射波や埋戻土の地盤状況等による影響が少なくなったことが要因と考えられる。地中はぎとり波を活用することで、地震動評価の条件に合わせた適切な地盤減衰を評価できる可能性があると思われる。
5.まとめ
スペクトルインバージョン解析で得られる地震動特性に基づく地盤減衰評価を試みた。
その結果、地震基盤以深の地盤減衰は地表及び地中はぎとり波のどちらの地震記録を用いても概ね同程度で、既往研究と整合的な評価結果となった。
一方、地震基盤以浅の地盤減衰は、地中はぎとり波を用いた方が特に高振動数側の地盤減衰が大きく評価された。これは地表の地震記録に含まれる周辺建物からの反射波や埋戻土の地盤状況等による影響が低減したことが要因と考えられる。
今後は敷地の地震基盤相当に大深度の地震計を設置し、得られる地震記録を用いた地盤同定解析や、地震計設置時のボーリング調査で実施できるQ値測定の結果と比較する等して、今回の検討結果の妥当性確認及び敷地の地盤減衰の精度向上を図っていく。
謝辞
本研究では、防災科学技術研究所が公開している強震観測網(K-NET及びKiK-net)の地震観測記録を活用させていただきました。ここに記して感謝いたします。
参考文献
1) 片岡正次郎・佐藤智美・松本俊輔・日下部毅明(2006):短周期レベルをパラメータとした地震動強さの距離減衰式,土木学会論文集A,Vol.62,No.4,pp.740-757.
2) 山中浩明・石田寛(1995):遺伝的アルゴリズムによる位相速度の逆解析,日本建築学会構造系論文集,No.468,pp.9-17.
統計的グリーン関数法等による地震動評価においては、敷地の地震動特性を表す地盤構造モデルが用いられ、その地盤構造モデルには地震動の大きさに影響を与えるパラメータとして地盤減衰がある。この地盤減衰の評価方法として地震記録による地盤同定解析があるが、ここではスペクトルインバージョン解析で得られる地震動特性を用いる方法を試みた。
通常のスペクトルインバージョン解析は地表の地震記録を用いるが、原子力施設の設計に用いる地震動(基準地震動)が地中の解放基盤表面(Vs=700m/s以上)で評価することや、地表に比べて地中の記録は外乱が少ないと考えられることから、地中のはぎとり波を用いたスペクトルインバージョン解析により地震基盤以浅及び以深における地盤減衰の評価を実施した。
2.地盤減衰の評価方法概要
日本原子力研究開発機構(以下、「機構」という。)の敷地(茨城県内の「原子力科学研究所」、「核燃料サイクル工学研究所」(東海村)、「大洗原子力工学研究所」(大洗町))並びに敷地周辺にある防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KiK-net)等で得られた地震記録及び地震記録から算出したはぎとり波を用いて、片岡ほか(2006)1)を参考にしたスペクトルインバージョン解析により、震源特性、伝播経路特性、サイト増幅特性を評価した。地震基盤(Vs=3,000m/s程度)以深の地盤減衰は伝播経路特性のQ値より評価し、地震基盤以浅の地盤減衰はサイト増幅特性をターゲットとした山中・石田(1995)2)による遺伝的アルゴリズムによる機構敷地の地盤構造モデルの地盤同定解析より評価した。本検討の概念図を図1に示す。
3.スペクトルインバージョン解析に用いた地震動
機構の敷地並びに敷地周辺のK-NET、KiK-net等で得られた地震観測記録について、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震以降の地盤の状況を評価するため、2011年4月から2022年12月までに発生した地震に着目し、地盤の非線形化が進んでいないと予想されるMj3.5~6.0(中規模地震)かつ地表の最大加速度100cm/s2以内、鉛直下方から地震動が伝播する震源深さ30~100kmの地震を用いた。さらに、地震分布の偏りによる影響を抑えるために、緯度方向及び経度方向0.1度、深さ方向5kmのグリッドを設定し、グリッド内で最もMjが大きい地震を用いた。この方法にて選定され、解析に用いた地震は330個である。本検討に用いた地震観測点と震央位置を図2に示す。
4.地盤減衰の評価結果
(1) 地震基盤以深の地盤減衰
スペクトルインバージョン解析で得られた伝播経路特性のQ値を図3に示す。地表の地震記録を用いた場合と地中はぎとり波を用いた場合に大きな差は見られず、また図に併記した茨城県周辺で実施された既往研究の結果と整合的な結果が得られた。スペクトルインバージョン解析においてはKiK-net観測点のうち地震基盤相当の地点を拘束条件としているため、地震基盤以深の評価結果に地中はぎとり波を用いた影響が出なかったと考えられる。
(2) 地震基盤以浅の地盤減衰
スペクトルインバージョン解析で得られた敷地のサイト増幅特性をターゲットとし、敷地の地盤構造モデルの地盤同定解析により地盤減衰を評価した結果を図4に示す。過年度に実施した地表の地震記録を用いた検討結果に比べ、比較的高振動の領域でQ値が小さく評価された。これは、地中のはぎとり波を用いることで、地表の地震記録に含まれる周辺建物からの反射波や埋戻土の地盤状況等による影響が少なくなったことが要因と考えられる。地中はぎとり波を活用することで、地震動評価の条件に合わせた適切な地盤減衰を評価できる可能性があると思われる。
5.まとめ
スペクトルインバージョン解析で得られる地震動特性に基づく地盤減衰評価を試みた。
その結果、地震基盤以深の地盤減衰は地表及び地中はぎとり波のどちらの地震記録を用いても概ね同程度で、既往研究と整合的な評価結果となった。
一方、地震基盤以浅の地盤減衰は、地中はぎとり波を用いた方が特に高振動数側の地盤減衰が大きく評価された。これは地表の地震記録に含まれる周辺建物からの反射波や埋戻土の地盤状況等による影響が低減したことが要因と考えられる。
今後は敷地の地震基盤相当に大深度の地震計を設置し、得られる地震記録を用いた地盤同定解析や、地震計設置時のボーリング調査で実施できるQ値測定の結果と比較する等して、今回の検討結果の妥当性確認及び敷地の地盤減衰の精度向上を図っていく。
謝辞
本研究では、防災科学技術研究所が公開している強震観測網(K-NET及びKiK-net)の地震観測記録を活用させていただきました。ここに記して感謝いたします。
参考文献
1) 片岡正次郎・佐藤智美・松本俊輔・日下部毅明(2006):短周期レベルをパラメータとした地震動強さの距離減衰式,土木学会論文集A,Vol.62,No.4,pp.740-757.
2) 山中浩明・石田寛(1995):遺伝的アルゴリズムによる位相速度の逆解析,日本建築学会構造系論文集,No.468,pp.9-17.

