運営委員長 挨拶

 2025 年度(第74 回)農業農村工学会大会講演会の開催にあたり,大会運営委員会・実行委員会ならびに大会関係者を代表いたしまして一言ご挨拶申し上げます。本大会におきましてもオンサイトならびにオンラインにて沢山の皆さんにご参加いただきました。心より厚く御礼申し上げます。
 開催にあたり過去の記録を調べたところ,宇都宮市を会場に大会講演会が開催されるのは今回が3回目となるようです。初回は1987 年(昭和62 年),2回目は2006 年(平成18 年)そして3 回目が今年2025 年と,違えることなく19 年おきに開催されていることに深い御縁を感じます。1987 年当時の記録はあいにく見つけられませんでしたが,2006 年大会は小生も運営スタッフとして加わっていたこともあり,手元にいくつかの記録が残っておりました。紐解いたところ会期は2006 年8月8 日から11 日の4 日間, 454 件の口頭発表と16 の企画セッションが行われ,大会最終日には三大疎水の1つである那須疎水を巡る現地研修会を開催するなど,全国から沢山の方々にご参会いただき盛況であったことが記されておりました。懐かしい記録に触れたことにより,いくつかの記憶が甦りました。最初に思い出されたのは会場設営にまつわるエピソードです。というのも,ちょうどその頃は発表ツールの変革・移行時期の只中にあり,それまでポピュラーだったOHPで発表される方,PC と液晶プロジェクタを使って発表される方が混在しておりました。運営効率の観点からは発表ツールや機材を指定することのほうがベターとの意見もあったなか,議論を重ね,より多くの発表機会を確保するために各会場にはOHP と液晶プロジェクタの両方を準備いたしました。2025 年の本大会ではOHP こそ準備しておりませんが,多くの会員諸氏の発表機会を確保する観点からオンサイトとオンラインどちらの発表にも対応できるようハイブリット形式といたしました。我々運営スタッフの想いと機材を存分に活用いただき,活発な議論を展開いただければ幸甚です。
 変革と移行といえば,私達を取り巻く環境にも様々な変化が生じたのも2006 年前後のことでした。たとえば国立大学が国立大学法人へ移行したのが2004 年,これに前後する形で進められた大学改組により農業土木系の学科名やコース名が変更されたのも,おおよそこの時期であったように記憶しています。本学会に関係するところでは2005 年に農業土木学会名称検討委員会が設置され,農業土木学会誌は2007 年1月号から「水土の知―農業土木学会誌―」に,学会名も同年6月から(社)農業農村工学会に変更されました。OHP の例に漏れず,それまで馴染んできた方法や名称を変更する際にはともすると躊躇いが伴うことがあります。しかし時代のニーズに柔軟に応えつつ組織の強みや役割を増強していくためには,弛みなくアップデートしていくことも必要なのかもしれません。
 今年は学会創立から96 年,昭和100 年にあたります。100 年前の我が国は第一次世界大戦後の不況と関東大震災による影響が重なり,農業農村は極めて過酷な状況に置かれていたことが資料に記録されています。とくにコメや生糸などの農産物価格は低迷,その一方で肥料などの農業資材価格は高止まり傾向にあり,貧困にあえぐ労働者や生活困窮に陥る農家が少なくなかったようです。貧困と困窮から逃れるため多くの若者が農村から都市へ流出し,農村の労働力不足が顕著になったのもこの時期の特徴とされています。100 年前と現在では時代背景が異なるため単純な比較はできませんが,不安定な世界情勢と自然災害の激甚化が指摘される現代社会において,農業農村の食料・暮らし・環境を支えるインフラのあり方や国土強靭化と多面的機能の発揮,そして都市と農村の経済格差や農村の労働力不足といった課題等に,我々学会員が総力を結集して応えていくことが学会設立当初からの変わらぬ使命といえるのではないでしょうか。
 今年度の大会講演会は,発表件数が過去最大の513 件(口頭発表304 件,ポスター発表71 件,企画セッション21 テーマ84 件,スチューデントセッション54 件)の研究・技術発表と2 件のシンポジウムが行われます。ご参会される皆様にとって充実した4 日間となること,また農業農村工学会の普遍的な価値を確認できる機会となることを祈念して挨拶とさせていただきます。

2025年9月

2025年度(第74回)農業農村工学会大会運営委員会

委員⻑ 田村孝浩(宇都宮大学農学部)