講演情報

[P01-07]ボアホールDASデータを用いた浅部のQ値の推定に向けて

*中原 恒1 (1. 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)
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はじめに  分布型音響計測(DAS)は,光ファイバーケーブルに沿った軸歪(速度)の時系列を長距離にわたって稠密に測定できることから,地震学分野においてもその利用が広がっている.著者が所属する研究室では,これまで陸上の地表DAS観測を行ってきており,浅部のS波速度構造の推定(例えば矢武・他,2024)や火山周辺で発生する地震の震源決定(Nishimura et al., 2021)等に利用してきた.一方,ボアホールDAS観測は物理探査の分野で早くから行われており(例えば,小林・他,2018;笠原・他,2022,Chang and Nakata, 2022),地震学分野でも近年観測事例が出てきている(例えば,Ma et al., 2024).本研究では,ボアホールDAS観測を想定して,歪波形のスペクトル解析により浅部の実体波のQ値を正しく測定できるかどうか,合成記録を用いて検討した.

原理 合成記録の作成のため,水平成層構造において鉛直下方から平面P波が入射することを仮定し,ボアホールDASにおける軸歪をThomson-Haskell行列により数値的に計算する.その際,Nakahara (2006)による変位に対する定式化を歪に拡張して使用した.DASでは光ファイバーに沿って一定のチャンネル間隔ごとに記録が得られるため,時間方向だけでなく,長さ(ここでは深さ)方向にもフーリエ変換することが可能である.そのおかげで,周波数‐波数(FK)領域でのフィルタリングにより,波動場を上向き進行波と下向き進行波とに分離することができる.各深さで,下向き進行波を上向き進行波でデコンボリューションすると,層境界からの反射波を抽出できる.その中で,特に地表からの反射波を抽出し,そのスペクトル解析を行うことにより,地表からその深さまでの深さ平均Q値を推定することができる.地表反射波を用いる利点は,鉛直入射の場合にはインピーダンスコントラストによる振幅変化の影響をキャンセルできる点にある(例えば,Fukushima et al., 2016).さらに,各深さでの深さ平均Q値を用いて,Q値のトモグラフィーを行い,Q値の深さ変化を推定することも原理的に可能である.

結果・議論 3層構造からなる媒質を仮定し,層厚,P波速度,密度,P波のQ値はそれぞれ次のように与えた.第1層では0.2km, 1km/s, 2.0g/cm3, 10, 第2層では0.3km, 2.5km/s, 2.2g/cm3, 50, 第3層は半無限,4.0km/s, 2.5g/cm3, 200,である.鉛直下方からのP波入射を仮定し,震源時間関数はガウス型関数(特徴的周波数2.25Hz)とした.深さ2.56㎞まで5mおきに観測点(チャンネル)を設定した.合成記録を見ると,鉛直下方からの入射波が,層境界で反射・透過を起こしている様子を確認できる.特に,地表での反射の際に歪の極性が反転すること,境界条件のため地表付近では歪振幅が小さいこと,表層の低速度層に多重反射波がトラップされること,等を確認できる.すべてのチャンネルの記録に対して時空間のFFTを行い,FKフィルタをかけることによって,上向き進行波と下向き進行波を分離した.さらに,下向き進行波を上向き進行波でデコンボリューションした.得られた記録には,各層境界からの1回反射波が認められる.その中で,地表での1回反射波のみに窓関数をかけて抽出し,スペクトル解析を行った.地表からその深さまでのP波の往復走時を使えば,P波のQ値を推定できる.推定には20Hz以下のスペクトルを使用した.その結果,深さ0.2kmまでのチャンネルでは,深さ平均のQ値は概ね10程度となり,第1層に与えたQ値が復元された.それより深いチャンネルではQ値が徐々に大きくなっていくが,最深点付近の深さ2.5㎞でも深さ平均Q値は25程度であった.次に,各チャンネルでの深さ平均Q値をデータとして,トモグラフィーにより深さごとのQ値を推定した.ダンピング付きの最小二乗法により,Q値は第1層で12.8,第2層で45.0,第3層で51.5と推定された.第2層までは与えたものと近いQ値が復元されたが,第3層のQ値は過小評価となった.浅部の低いQ値の影響を強くうけているためと解釈される.そのため,深部のQ値を正しく推定するためには,より深部の境界からの反射波を利用するなどの工夫が必要である.

結論 ボアホールDAS観測を想定して,FKフィルタとデコンボリューションを組み合わせ手法により地表からの1回反射波を抽出し,そのスペクトル解析に基づきP波のQ値を推定する手法を考案し,合成データを用いて適用性を検討した.その結果,浅部のQ値はほぼ正しく推定できるものの,深部のQ値は過小評価となった.今後,深部のQ値を正しく推定する手法を開発するとともに,ノイズの影響や斜め入射の影響について検討する予定である.