講演情報
[P02-04]稠密観測網のアレイ解析による常時震央モニタリングシステムの開発
*小木曽 仁1 (1. 気象研究所)
地震計はいわゆる断層運動による一般的な地震の震動のほか、火山活動に伴う震動、土砂移動に伴う震動、核実験に由来する震動など、自然災害や高度に政治的な事象を含む様々な現象に由来する震動を記録する。これら様々な震動の常時震動源モニタリングは、特に自然災害や政治的な事象といった即時対応が必要とされる現象の監視に大きな意義を持つ。
一般的に、地震の震源推定にはP波やS波等の初動走時が用いられるが、上記のような様々な現象に由来する震動は必ずしも明瞭な初動走時を持つとは限らず、一般的な震源推定手法を適用できるとは限らない。そのような場合において、複数のアレイ観測による到来方向と見かけ速度を用いた震動源推定は有力な手法のひとつである。従来、アレイ観測は主に臨時観測として実施されてきたが、近年の定常観測網の充実に伴い、稠密な定常観測網を用いた複数のアレイ解析が実現可能となった。定常観測網を用いることにより、複数アレイ解析を通した震動源推定を常時実施することができる。本発表では、そのような定常観測網の複数アレイ解析を用いた常時震央モニタリングシステムの開発状況について報告する。システムの目的によって実装方針は大きく異なってくるが、本発表のシステムでは、ある程度規模の大きい(すなわち、多数のアレイで観測される)イベントを取り逃がさないことを目標とし、リアルタイムの解析結果を人間が監視することを想定する。なお、本発表で開発するシステムでは到来方向を用いた震央推定のみ行い、震動源の深さは推定しない。
観測網としては、防災科研F-netの利用を想定する。F-net観測網をAutomated Event Location Using Mesh of Arrays (AELUMA法、de Groot-Hedlin et al., 2018など)のコンセプトに基づいて多数の三角形に分割した。その後、各三角形について近隣の1観測点を追加し、4観測点によるサブアレイ網を構築した。アレイの重心から全観測点への距離が100km以下のアレイのみ選択するが、観測点追加に伴ってこの条件を満たさなくなる場合は3観測点アレイに戻した。3観測点アレイの場合も、重心から各観測点への距離が100km以内という制限を設けている。
本発表で開発するシステムは常時解析を志向しているため、WINシステムのshmdumpコマンドを使用した標準出力を波形入力の形態として想定する。shmdump出力を標準入力を介して読み取り、アレイごとに地震波の到来方向を推定する。そして、複数のアレイ解析によって得られた到来方向から震央を推定する。これらの解析をWINシステムの波形伝送タイミングである1秒ごとに行うことを目標とした。また、本システムではリアルタイム解析の様子を人間が監視することを想定する。これらの目標を実現するため、アレイ解析においてはAELUMA法と同様、アレイ内観測点間の相互相関とラグタイムを用いた到来方向推定を採用することとし、震央推定にあたっては溜渕・他(2014)を参考としたパーティクルフィルタ法を採用した。また、人間による解析状況の監視のため、鶴岡(1997; 2002)による描画ライブラリを用いた波形モニタや地図表示機能も実装した。本システムではFortran言語を使用し、主にWindows上のWSL2で開発を行ったが、Linux上におけるローカル環境やリモート環境でも実行している。パーティクルフィルタの計算処理やLinux上における画面描画が計算時間に大きな影響を持っていたが、これらの問題は解決し、予稿執筆時点では1秒以内ですべての解析を実施することが可能となっている。また、常時伝送されている地震波形を用いたいわゆるオンライン処理も試行しているが、少なくとも1週間程度は異常終了することなく安定的に稼働している。なお、1週間程度というのは解析パラメータ変更のためにシステムを手動で停止させていることによるので、実際はより長期間の稼働が可能であると考えている。
本システムの課題として、適切な解析パラメータの設定の困難さがあげられる。例えば、震央決定に必要なアレイ観測数の下限を少なくすると、より微小なイベントの検知も可能になる一方、必ずしも単一の現象に由来しない震動波形から震央を推定してしまう、いわゆる誤検知も増加する。また、パラメータの設定によっては単一のイベントを複数のイベントに分割してしまう場合もある。適切な解析パラメータは解析者の目的によって変化するものであり単一の正解はないが、今後は、本システムを長期間稼働させることによってイベント検知事例を収集し、目的に応じた適切なパラメータを検討していく。
謝辞
本発表では防災科研F-net (https://doi.org/10.17598/NIED.0005)の観測波形を使用しました。
一般的に、地震の震源推定にはP波やS波等の初動走時が用いられるが、上記のような様々な現象に由来する震動は必ずしも明瞭な初動走時を持つとは限らず、一般的な震源推定手法を適用できるとは限らない。そのような場合において、複数のアレイ観測による到来方向と見かけ速度を用いた震動源推定は有力な手法のひとつである。従来、アレイ観測は主に臨時観測として実施されてきたが、近年の定常観測網の充実に伴い、稠密な定常観測網を用いた複数のアレイ解析が実現可能となった。定常観測網を用いることにより、複数アレイ解析を通した震動源推定を常時実施することができる。本発表では、そのような定常観測網の複数アレイ解析を用いた常時震央モニタリングシステムの開発状況について報告する。システムの目的によって実装方針は大きく異なってくるが、本発表のシステムでは、ある程度規模の大きい(すなわち、多数のアレイで観測される)イベントを取り逃がさないことを目標とし、リアルタイムの解析結果を人間が監視することを想定する。なお、本発表で開発するシステムでは到来方向を用いた震央推定のみ行い、震動源の深さは推定しない。
観測網としては、防災科研F-netの利用を想定する。F-net観測網をAutomated Event Location Using Mesh of Arrays (AELUMA法、de Groot-Hedlin et al., 2018など)のコンセプトに基づいて多数の三角形に分割した。その後、各三角形について近隣の1観測点を追加し、4観測点によるサブアレイ網を構築した。アレイの重心から全観測点への距離が100km以下のアレイのみ選択するが、観測点追加に伴ってこの条件を満たさなくなる場合は3観測点アレイに戻した。3観測点アレイの場合も、重心から各観測点への距離が100km以内という制限を設けている。
本発表で開発するシステムは常時解析を志向しているため、WINシステムのshmdumpコマンドを使用した標準出力を波形入力の形態として想定する。shmdump出力を標準入力を介して読み取り、アレイごとに地震波の到来方向を推定する。そして、複数のアレイ解析によって得られた到来方向から震央を推定する。これらの解析をWINシステムの波形伝送タイミングである1秒ごとに行うことを目標とした。また、本システムではリアルタイム解析の様子を人間が監視することを想定する。これらの目標を実現するため、アレイ解析においてはAELUMA法と同様、アレイ内観測点間の相互相関とラグタイムを用いた到来方向推定を採用することとし、震央推定にあたっては溜渕・他(2014)を参考としたパーティクルフィルタ法を採用した。また、人間による解析状況の監視のため、鶴岡(1997; 2002)による描画ライブラリを用いた波形モニタや地図表示機能も実装した。本システムではFortran言語を使用し、主にWindows上のWSL2で開発を行ったが、Linux上におけるローカル環境やリモート環境でも実行している。パーティクルフィルタの計算処理やLinux上における画面描画が計算時間に大きな影響を持っていたが、これらの問題は解決し、予稿執筆時点では1秒以内ですべての解析を実施することが可能となっている。また、常時伝送されている地震波形を用いたいわゆるオンライン処理も試行しているが、少なくとも1週間程度は異常終了することなく安定的に稼働している。なお、1週間程度というのは解析パラメータ変更のためにシステムを手動で停止させていることによるので、実際はより長期間の稼働が可能であると考えている。
本システムの課題として、適切な解析パラメータの設定の困難さがあげられる。例えば、震央決定に必要なアレイ観測数の下限を少なくすると、より微小なイベントの検知も可能になる一方、必ずしも単一の現象に由来しない震動波形から震央を推定してしまう、いわゆる誤検知も増加する。また、パラメータの設定によっては単一のイベントを複数のイベントに分割してしまう場合もある。適切な解析パラメータは解析者の目的によって変化するものであり単一の正解はないが、今後は、本システムを長期間稼働させることによってイベント検知事例を収集し、目的に応じた適切なパラメータを検討していく。
謝辞
本発表では防災科研F-net (https://doi.org/10.17598/NIED.0005)の観測波形を使用しました。
