講演情報
[P06-11]N-net沖合システムによる分散型音響センシングデータを用いた常時微動表面波解析: 序報
*福島 駿1,2、篠原 雅尚3,4、青井 真3、武田 哲也3、功刀 卓3、植平 賢司3、望月 将志3、田中 伸一4 (1. 北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター、2. 東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター、3. 防災科学技術研究所、4. 東京大学地震研究所)
海域浅部(深さ10 km以浅)のS波速度構造は,地震波動伝播特性に大きく影響し,間隙水圧にも高い感度を示すため,地質・地震学的研究の解釈や震源決定,深部構造推定の精度向上において重要である.従来,海域では制御地震探査による速度構造推定が一般的であったが,海中の制御震源はP波のみを放射するため,S波速度構造の詳細な空間分布推定は困難であった.近年,海底ケーブルを用いた分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,DAS)観測の発展により,海域でも数m間隔の稠密観測が可能となり,常時微動表面波解析と組み合わせることで,高分解能なS波速度構造推定が可能になりつつある.
日向灘では,防災科研による南海トラフ海底地震津波観測網N-netが敷設されている.本システムの沖合システムでは,串間陸上局舎から約50 kmに予備のファイバが敷設されているため(図A),これを活用することでDAS観測を実施した.本研究では,N-netシステムの予備ファイバを用いてDAS観測を行い,ケーブル直下のS波速度構造の空間変化の推定を目的に常時微動表面波解析を適用した.観測にはOptaSense社製 Quanta X を用い,2024年8月8~31日に軸歪み記録を取得した.観測条件は,観測点間隔10 m,ゲージ長102 m,サンプリング周波数200 Hz,観測範囲100 kmである.N-netでは陸から約50 km地点で光ファイバが折り返しているため,重複区間の記録をスタックして解析に用いた.さらに,距離5 km・オーバーラップ75%で50 km区間をサブアレイに分割し,各サブアレイにおいて全観測点ペア間の相互相関関数を周波数領域でスタックした(Takeo et al., 2014).しかし,得られた相互相関関数はlag time 0 秒に大きな振幅を示し,明瞭な表面波は抽出できなかった(図B).これは,全観測点に同時に記録されるDAS機器ノイズの影響と考えられる.そこで,DASの高稠密性を活かし,時間・空間方向にフーリエ変換を行い,位相速度0.2–4.0 km/sの波を強調する周波数‐波数空間フィルタを適用した後に相互相関関数を計算した(Fukushima et al., 2022).その結果,見かけ速度が無限となる,全観測点に同時に記録されるDAS機器ノイズの除去に成功し,明瞭な表面波を得ることができた(図C).得られた群速度は0.2–0.5 Hzにおいて約0.4–1.0 km/sであり,表面波であると考えられる.次に,各サブアレイに対してSpatial Auto-Correlation(SPAC)法(Nakahara et al., 2021)を適用し,レイリー波と仮定して位相速度を推定した.位相速度の誤差はブートストラップ法により評価した.その結果,0.2–0.5 Hzにおいて誤差0.1 km/s以下で位相速度を推定できた(図D,E).本地域では同周波数帯で基本モードのレイリー波が卓越しており,その位相速度は1.0–2.0 km/s程度であることがわかった.また,サブアレイごとの位相速度分散曲線の形状に大きな差は見られず,本研究対象領域において,水平方向の不均質性が小さいことが示唆される.本成果は,N-netシステムに敷設されているダークファイバを用いたDAS観測において,安定した常時微動表面波解析によるS波速度構造推定が可能であることを示すものであり,今後,本解析で得られた分散曲線を用いてサブアレイごとのS波速度構造を推定し,日向灘の地質構造や間隙水圧分布などの解明へと発展させる予定である.
日向灘では,防災科研による南海トラフ海底地震津波観測網N-netが敷設されている.本システムの沖合システムでは,串間陸上局舎から約50 kmに予備のファイバが敷設されているため(図A),これを活用することでDAS観測を実施した.本研究では,N-netシステムの予備ファイバを用いてDAS観測を行い,ケーブル直下のS波速度構造の空間変化の推定を目的に常時微動表面波解析を適用した.観測にはOptaSense社製 Quanta X を用い,2024年8月8~31日に軸歪み記録を取得した.観測条件は,観測点間隔10 m,ゲージ長102 m,サンプリング周波数200 Hz,観測範囲100 kmである.N-netでは陸から約50 km地点で光ファイバが折り返しているため,重複区間の記録をスタックして解析に用いた.さらに,距離5 km・オーバーラップ75%で50 km区間をサブアレイに分割し,各サブアレイにおいて全観測点ペア間の相互相関関数を周波数領域でスタックした(Takeo et al., 2014).しかし,得られた相互相関関数はlag time 0 秒に大きな振幅を示し,明瞭な表面波は抽出できなかった(図B).これは,全観測点に同時に記録されるDAS機器ノイズの影響と考えられる.そこで,DASの高稠密性を活かし,時間・空間方向にフーリエ変換を行い,位相速度0.2–4.0 km/sの波を強調する周波数‐波数空間フィルタを適用した後に相互相関関数を計算した(Fukushima et al., 2022).その結果,見かけ速度が無限となる,全観測点に同時に記録されるDAS機器ノイズの除去に成功し,明瞭な表面波を得ることができた(図C).得られた群速度は0.2–0.5 Hzにおいて約0.4–1.0 km/sであり,表面波であると考えられる.次に,各サブアレイに対してSpatial Auto-Correlation(SPAC)法(Nakahara et al., 2021)を適用し,レイリー波と仮定して位相速度を推定した.位相速度の誤差はブートストラップ法により評価した.その結果,0.2–0.5 Hzにおいて誤差0.1 km/s以下で位相速度を推定できた(図D,E).本地域では同周波数帯で基本モードのレイリー波が卓越しており,その位相速度は1.0–2.0 km/s程度であることがわかった.また,サブアレイごとの位相速度分散曲線の形状に大きな差は見られず,本研究対象領域において,水平方向の不均質性が小さいことが示唆される.本成果は,N-netシステムに敷設されているダークファイバを用いたDAS観測において,安定した常時微動表面波解析によるS波速度構造推定が可能であることを示すものであり,今後,本解析で得られた分散曲線を用いてサブアレイごとのS波速度構造を推定し,日向灘の地質構造や間隙水圧分布などの解明へと発展させる予定である.

