講演情報

[P09-02]沈み込み帯における上盤地形と地震規模分布の関係

*齋藤 航太1、井出 哲1 (1. 東京大学)
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沈み込み帯における地震活動の監視は巨大地震の発生リスクを適切に評価する上で重要であり、そのためには沈み込み帯の地震活動を一般化して理解する必要がある。本研究では、前弧領域における地形と、地震統計量であるb値との関連を提示する。

Gutenberg–Richterの法則(GR則)のb値は、ある時間空間的な領域における地震の成長確率の指標となる。低いb値は大地震の頻度が比較的高いことを示しており、スマトラ沖地震や東北沖地震の発生前のb値の低下が報告されている(e.g., Nanjo et al., 2012)。これらのb値の変動は断層の応力状態と深く関連する。低いb値は高い差応力に対応することが実験や観測によって支持されている(e.g., Scholz, 2015)。

沈み込み帯においてはNishikawa & Ide (2014)が沈み込み帯のスラブの年代とb値の正の相関を明らかにし、スラブ浮力とb値の関係を示唆した。しかしスラブ年代とb値の相関は応力を通した間接的な相関の一つに過ぎない。例えば東北沖の沈み込み帯では年代に比してb値が低くさらに2011年にはM9クラスの巨大地震が発生した。 本研究では、スラブ年代を補完する応力指標の一つとして沈み込み帯の陸側における地形情報を想定した。沈み込み帯の陸側、特に火山フロント付近における標高と巨大断層における摩擦の関係性は上盤のウェッジの力学バランスを通して関連付けられる(Dielforder et al., 2020; Lamb, 2005)。

そこで本研究では、上盤部分の標高を全球の地形データを用いて取得し、その地域におけるb値と比較した。Nishikawa & Ide(2014)と同様に、海溝軸に沿って長さが約500km、海洋プレートの沈み込み方向に向かって幅約200kmの長矩形領域によって沈み込み帯を定義し、2000年以降のComCat地震カタログのデータを用いてb値を推定した。標高の評価にはETOPO2022を用い、Slab2によるスラブの推定深度を利用して標高の計算領域を設定した。

結果として、火山フロント付近(プレート境界の深さ60から140km)の最大標高とb値の間に負の相関(r≈-0.4)がみられた。プレート境界の深さを変えて平均標高との関係を比較したところ、深さ50km付近でスラブ年代(|r|≈0.6)と同程度の相関がみられた。加えてスラブ年代と深さ50km付近での標高を説明変数とすることで単体での回帰よりも高い決定係数(R2≈0.45)を得た。特にカムチャッカ半島から東北地方までの領域はスラブ年代に比して前弧領域の標高が高く、同地域における比較的低いb値と整合する。スラブ深度が50kmとなるのは火山弧よりも海溝側の領域であり、プレート境界の固着領域の下限付近として解釈できるかもしれない。標高とb値の因果関係に対する検討が今後の課題であるが、この結果は地震活動に影響する沈み込み帯のテクトニックな特徴を地形から推定できる可能性を示唆している。