講演情報
[P09-11]紀伊半島下で発生する深部低周波微動の放射エネルギーに基づく短期的SSE検出の試み
*野田 朱美1、藤田 健一1、宮岡 一樹1、中山 和正1 (1. 気象庁 地震火山部)
気象庁では、南海トラフ沿いのプレート境界大地震発生と関連するプレート境界の状態変化の早期把握に向けた観測項目の一つとして、ひずみ及び傾斜データを用いて短期的スロースリップイベント(SSE)の発生状況を監視し、ひずみ(傾斜)変化が観測された際には変化量からSSEの断層モデルを推定してきた(藤田・他 2023年地震学会)。2011年以降の断層モデルをカタログ化し、規模・発生間隔・継続時間の統計情報を「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」等でのプレート境界状態変化の判断に役立てている。2019年4月以降は全観測点のひずみデータに降水補正を適用し、以前より高精度な短期的SSE検知と断層モデル推定が可能になった。
南海トラフ沿いプレート境界の深部では、微動が短期的SSEと時空間的に同期して発生することが知られ(例えば、Obara & Sekine 2009)、その規模(モーメント、放射エネルギー)は短期的SSEのモーメントと相関関係にあることが指摘されている(Hiramatsu et al. 2008; Daiku et al. 2018; Noda et al. 2025 JpGU)。本研究では、紀伊半島下で発生する深部微動の観測情報に基づき、短期的SSEの検知および規模の予測を試みる。地震動データを用いて深部微動を過去に遡って解析することで、短期的SSEの長期的な発生状況を均質に把握できると期待される。これにより、ひずみ・傾斜データによるSSEカタログを補完し、短期的SSEの統計情報の充実を目指す。
まず、防災科学技術研究所 Hi-netデータ(2011年1月~2024年12月)からエンベロープ相関法(Obara 2002)により推定した微動源に対し、地震波振幅の幾何減衰と内部減衰を補正して放射エネルギーを求めた。そして深部微動発生領域を活動状況により5つに分割し、各領域での1時間ごとのエネルギー放射レートを計算した。次に、ひずみ・傾斜データによるSSEカタログを用いて、2019年4月以降の各時間のエネルギー放射レートデータを「SSE発生中」と「それ以外」に分類し、「SSE発生中」を予測するエネルギー放射レートの閾値を決定した。具体的には、Precision-Recall曲線を用いて短期的SSE発生の予測性能を評価し、特にRecall を重視してF2-scoreが最大となる閾値を領域ごとに選択した。エネルギー放射レートが閾値を超える期間をSSE発生期間と見なして、微動に基づくSSEカタログ(Tremor-based SSEカタログ)を領域ごとに作成した。以降、区別のためにひずみ・傾斜データによるカタログをGeodetic SSE カタログと呼ぶ。最後にTremor-based SSEカタログの各イベント期間中の放射エネルギーの総和に対し、深部微動の放射エネルギーとGeodetic SSEのモーメントの相関関係(Noda et al. 2025 JpGU)を適用して、Tremor-based SSEのモーメントを推定した。
閾値の選択に用いた2019年4月~2024年12月の期間では、Tremor-based SSEカタログのうちMw5.5以上のイベントはGeodetic SSE カタログと概ね対応した。この期間は、ひずみデータ解析において全観測点の降水補正が実施された期間に該当する。それ以前の2011年1月~2019年3月の深部微動データから求めたTremor-based SSEカタログには、Geodetic SSE カタログに掲載されていないMw5.5以上のイベントが新たに数個追加された。この中には降水によるデータ擾乱のためひずみデータを解析に利用できなかった期間が含まれており、深部微動データによる短期的SSE推定がひずみ・傾斜データを補う情報として有効に機能することを確認できた。
謝辞:短期的SSEの解析には気象庁・静岡県のひずみ計、産業技術総合研究所のひずみ・傾斜計データを使用した。深部低周波微動の解析には防災科学技術研究所のHi-netデータを使用した。記して感謝いたします。
南海トラフ沿いプレート境界の深部では、微動が短期的SSEと時空間的に同期して発生することが知られ(例えば、Obara & Sekine 2009)、その規模(モーメント、放射エネルギー)は短期的SSEのモーメントと相関関係にあることが指摘されている(Hiramatsu et al. 2008; Daiku et al. 2018; Noda et al. 2025 JpGU)。本研究では、紀伊半島下で発生する深部微動の観測情報に基づき、短期的SSEの検知および規模の予測を試みる。地震動データを用いて深部微動を過去に遡って解析することで、短期的SSEの長期的な発生状況を均質に把握できると期待される。これにより、ひずみ・傾斜データによるSSEカタログを補完し、短期的SSEの統計情報の充実を目指す。
まず、防災科学技術研究所 Hi-netデータ(2011年1月~2024年12月)からエンベロープ相関法(Obara 2002)により推定した微動源に対し、地震波振幅の幾何減衰と内部減衰を補正して放射エネルギーを求めた。そして深部微動発生領域を活動状況により5つに分割し、各領域での1時間ごとのエネルギー放射レートを計算した。次に、ひずみ・傾斜データによるSSEカタログを用いて、2019年4月以降の各時間のエネルギー放射レートデータを「SSE発生中」と「それ以外」に分類し、「SSE発生中」を予測するエネルギー放射レートの閾値を決定した。具体的には、Precision-Recall曲線を用いて短期的SSE発生の予測性能を評価し、特にRecall を重視してF2-scoreが最大となる閾値を領域ごとに選択した。エネルギー放射レートが閾値を超える期間をSSE発生期間と見なして、微動に基づくSSEカタログ(Tremor-based SSEカタログ)を領域ごとに作成した。以降、区別のためにひずみ・傾斜データによるカタログをGeodetic SSE カタログと呼ぶ。最後にTremor-based SSEカタログの各イベント期間中の放射エネルギーの総和に対し、深部微動の放射エネルギーとGeodetic SSEのモーメントの相関関係(Noda et al. 2025 JpGU)を適用して、Tremor-based SSEのモーメントを推定した。
閾値の選択に用いた2019年4月~2024年12月の期間では、Tremor-based SSEカタログのうちMw5.5以上のイベントはGeodetic SSE カタログと概ね対応した。この期間は、ひずみデータ解析において全観測点の降水補正が実施された期間に該当する。それ以前の2011年1月~2019年3月の深部微動データから求めたTremor-based SSEカタログには、Geodetic SSE カタログに掲載されていないMw5.5以上のイベントが新たに数個追加された。この中には降水によるデータ擾乱のためひずみデータを解析に利用できなかった期間が含まれており、深部微動データによる短期的SSE推定がひずみ・傾斜データを補う情報として有効に機能することを確認できた。
謝辞:短期的SSEの解析には気象庁・静岡県のひずみ計、産業技術総合研究所のひずみ・傾斜計データを使用した。深部低周波微動の解析には防災科学技術研究所のHi-netデータを使用した。記して感謝いたします。
