講演情報

[P15-08]近地強震記録から推定した2023年トルコ・カフラマンマラシュ地震(Mw7.8)の震源過程

*染井 一寛1、田中 礼司2、入倉 孝次郎3 (1. 株式会社大崎総合研究所、2. 一般財団法人GRI財団、3. 愛知工業大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード
2023年2月6日1時17分(協定世界時)に発生したトルコ・カフラマンマラシュ地震(Mw7.8)は,東アナトリア断層帯南西部(EAF)の約300 kmを震源断層とし,地表変位や強震動を伴う横ずれ断層型の地震であった.震源域周辺には,トルコ共和国首相府防災危機管理庁(AFAD)の強震観測網が整備されており,最大加速度2,000 cm/s2,最大速度200 cm/s程度の大加速度,速度の強震記録を観測された.既往の研究では,測地データ,遠地,近地波形を用いた震源インバージョン解析が実施され,断層面上の不均質すべり分布が複数提案されているが,近地強震記録を用いた検討は必ずしも多くなく,破壊伝播速度や指向性と地震動との関係については議論の余地があると考えられる.また,このような長大断層による大地震は,その発生自体が希少であることから,実地震のデータに基づいた震源モデルから,その震源特性を議論することは,将来発生する同規模の地震の地震動評価の高度化や検証の観点でも重要である.そこで,本報では,近地強震記録を用いた波形インバージョンによる震源過程解析を実施し,断層面上の不均質な破壊過程モデルを推定するとともに,破壊伝播速度の不均質性や,破壊伝播指向性と地震動との関係について議論を行った.
震源インバージョン解析では,余震分布や地表変位情報に基づいて, EAF沿いの幾何形状の異なる5枚の断層面とEAFから分岐し,震源(破壊開始点)を含むSakçagöz-Narlı(NAR)断層を表現する1枚の断層面の合計6枚の断層セグメントを仮定した.インバージョンに使用するグリーン関数は,Güvercin et al. (2022)の1次元地下構造モデルから計算し,その妥当性は,余震(Mw5.4)を用いた地震動シミュレーションを実施することで検証した.このような設定をした後,震源近傍を含む計16地点の近地強震波形記録(速度:0.05-0.2 Hz)からマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン(例えば,Hartzell and Heaton, 1983)によって,すべりの時空間発展の様子や不均質すべりモデルを求めた.なお,上述の断層面は一辺が4.0 kmの正方形の小断層によって分割し,小断層の中心にライズタイム2.0秒の平滑化傾斜関数を1秒間隔で8つのタイムウィンドウで表現した点震源を仮定した.第1タイムウィンドウの破壊伝播速度は2.0 km/sから4.0 km/sまでを0.2 km/s間隔で11ケース試行し,波形残差が最小となった3.2 km/sを採用した.
推定された断層破壊は,最初の25秒間程度は震源を含むNAR断層を北向きに進展し,その後,EAFに乗り移った破壊は,EAF内を北東側,南西側にそれぞれ進展し,全体として約80秒間で破壊が終了した.主要なすべりは,震源時から20-25秒後付近で,EAFの乗り移り地点の北東側浅部を中心に生じるとともに,50秒後付近でEAFの南西側浅部で生じていた.推定された震源過程モデルによって,16地点の観測速度波形は,理論速度波形によって良好に再現できた.特に,EAF南西部の断層沿いの強震観測点で観測された大振幅の速度波形パルスは,EAF南西部の横ずれ破壊が南南西方向にほぼユニラテラルに進行したことによって生じた前方破壊指向性パルスと考えられる.また,宮腰・Petukhin (2005)の方法により断層面上の破壊伝播速度の不均質性を推定したところ,断層面内で速度の速い領域,遅い領域が混在していたが,全体としては,supershear破壊は確認されず,深部の破壊に比べて,浅部の破壊は相対的に遅れて進展していたことがわかった.さらに,推定した不均質すべりモデルから抽出した断層全体面積やアスペリティ面積は,既存の内陸地殻内地震のスケーリング則(Murotani et al., 2015,長嶋・他, 2021)と概ね良い対応,或いは既存のデータのばらつきの範囲内であり,ほぼ平均的な地震であったことが示された.今後,震源近傍のデータの拡充とともに,断層面設定を改良することで,地表変位の再現やSupershear破壊の有無について継続的に検討していきたい.
謝辞:トルコ共和国首相府防災危機管理庁(AFAD)の観測記録を使用しました.