講演情報

[P15-10]マルチモーダル大規模言語モデルを用いた被害写真に基づく震度推定の試み

*久保 久彦1 (1. 防災科学技術研究所)
PDFダウンロードPDFダウンロード
大災害が発生すると、直後にSNSを通じて現地の被害状況を示す写真や動画が大量に発信される。これらの情報を活用し、災害直後の被害把握に役立てようとする試みが数多く行われてきた。近年では、AI技術を活用して現地の写真や動画から地震被害の程度を推定する研究も進んでいる(瀬﨑・松岡 2019、戸澤・他 2021、東・藤原 2025)。本研究では、被害程度ではなく震度を推定することに焦点を当てる。気象庁震度階級は震度0から震度7までの10段階で表され、現在は計測震度計による観測記録に基づき算出されている。もともと(1996年3月以前)は体感や被害状況などに基づき震度が決定されており、現在も気象庁震度階級関連解説表として震度と体感や被害状況などとの対応関係が整理されている。この解説表は、被害状況から震度を逆算するうえで有用な指針となりうる。日本における現在の震度計測は気象庁・地方公共団体・防災科学技術研究所の観測点ごとに実施されており、点群のデータセットとなっている。防災科学技術研究所J-RISQ地震速報はこの情報を活用し、空間補間と地盤増幅の補正を行うことで250mメッシュごとの震度を面的に推定しているが、観測点が存在しない地域、特に震源断層近傍においては推定精度が低下する傾向がある。本研究のアプローチは、SNS情報を新たなデータ源として活用し、面的震度推定の検証および補完に資するものとして位置づけられる。SNS情報は個々の精度が低くとも、大量の情報を集約することで信頼性の高い震度マップ生成につながると考えている。
 先行研究では専用のAIモデルの構築を図られていたが、本研究では大規模言語モデル(LLM)を活用し、被害写真から震度を推定する手法を検討する。発展著しいLLMの特徴の一つとして文字情報以外の情報も取り扱うことができるというマルチモーダル性があり、今回の試みはこの特性を活かしたものである。汎用性が高まっている最近のLLMであれば、追加学習を行わなくても一定の成果が期待できる。また推定結果だけでなく、その根拠を出力することで、推定に関する説明性の向上も図ることができる。LLMにはChatGPTのGPT-5を使用し、被害写真をアップロードすると、読み取れる被害状況・推定される震度階級・その根拠や注意点を出力するようにプロンプト設計した。入力データとなる被害写真は、①個人が保有する被害写真、②防災科学技術研究所のE-ディフェンス実験データアーカイブ(ASEBI)で公開されている実験写真、③Webや論文で公開され、撮影場所がある程度特定できる写真、を収集した。実際の震度階級は近傍の震度観測点における記録もしくはJ-RISQによる面的震度分布を参照した。
 暫定的であるが、140枚程度の被害写真に適用した結果を報告する。多くの場合では、LLMは写真から被害状況を適切に把握し、気象庁震度階級解説表に基づいた震度階級を推定することができた。また、その推定根拠についても妥当と判断できるものが多かった。推定された震度階級が実際の震度階級と一致するケースも見られたが、実際よりも1~2段階小さい結果となることが多かった。これについては、①写真に写っている被害が解説表において実際よりも小さい震度に対応するものであった、②LLMへのプロンプトを通して過度な推測を避けるようにしたため、被害に対応する震度階級で最も小さいものが選ばれやすかった、③震度7は広範囲にわたる複数の被害に対応するが、一枚の写真だけでは面的な被害を把握することが難しいため、震度7と推定されることが少なかった、ということが理由として挙げられる。また神社や寺院などの伝統的建造物を除き、建物の耐震性(築年数)を外観のみから判断することが困難で、建物被害と震度階級の関係を適切に対応づけることが難しいという課題も見られた。なお地震に伴う火災被害や津波被害を被害写真から認識することもできていた。今後はデータ収集および適用をさらに進め、定量的な評価につなげたいと考えている。
 謝辞:防災科学技術研究所の内山庄一郎主任専門研究員から被害写真を提供いただきました。防災科学技術研究所「E-ディフェンス実験データアーカイブ(ASEBI)」(データDOI: 10.17598/nied.0020)より課題名「E202104 室内空間・機能を対象とした地震災害軽減および被害判定のためのE-ディフェンス実験」の実験データを使用しました。石川県のホームページおよび令和6年能登半島地震アーカイブ、京都大学防災研究所の境有紀教授のホームページ、宇都宮大学の中澤駿佑助教のホームページに掲載された写真を使用しました。記して感謝申し上げます。