講演情報
[P15-13]逐次加法的ガウス過程に基づく南海トラフ地震の地震動シミュレーションの代理モデリング
*今井 隆太1、前田 宜浩1 (1. 国立研究開発法人防災科学技術研究所)
本研究は、南海トラフ地震の長周期地震動シミュレーションの計算結果を活用して、任意の仮想震源シナリオに対する地震動の効率的な予測を可能にする方法論を構築することが目的である。なお、本研究の代理モデルの予測対象は地震動指標の空間分布である。
研究背景と手法
南海トラフ地震のハザード・リスク評価には、空間的に分布した大量の地震動シミュレーション結果が必要だが、個々の地震シナリオのシミュレーションには多大な計算資源と時間を要する。そこで既存の複数震源シナリオの地震動シミュレーション結果に基づき、任意に指定された仮想震源シナリオの地震動指標を予測する代理モデルを開発した。GP回帰は決定論的な地震動予測式が得られるだけでなく、不確実さの確率分布からサンプルパスを生成できることから、地震ハザード評価への応用に適していると考えられるため、本研究ではGP回帰を採用した。
データセットと検証
259の震源シナリオと約60,000の観測点から得られた約1,500万の記録のデータセットを使用した。標準GP回帰の演算量問題に対処するため、観測点を大阪府庁、愛知県庁、東京都庁を中心とした3つの地域グループに分割し、各地域で約100観測点に空間的に間引いた。これにより各地域で約30,000記録のデータセットを構築した。震源シナリオの多様性を考慮するため、震源域のマルチホット符号化を入力変数として使用した。震源域を東西方向6区間、南北方向3区間の計18の部分領域に分割し、震源域の形状を18次元バイナリベクトルで表現した。検証では、震源域が同一で破壊開始点が異なる3つの震源シナリオを検証用とし、残り256シナリオで学習したモデルの予測性能を評価した。
逐次加法的GP回帰
非エルゴード的地震動モデルの枠組みに基づき、シミュレーション出力の変動を解釈可能な物理成分(サイト効果、震源効果、それらの相互作用など)に分解する逐次加法的GP回帰を開発した。この手法では、GP回帰を段階的に適用し、各段階で事後分布の平均関数を成分別関数の和として表現する。
具体的には、第1段階で基本成分(グリーン関数相当)、第2段階でサイト依存成分、第3段階で震源依存成分、第4段階で相互作用成分を順次抽出する。各段階で前段階の事後平均を次段階の事前平均とし、残差に対してGP回帰を適用することで、変動要因を体系的に分解する。さらに自動関連性決定(ARD)を採用し、入力次元を効果的に削減して過学習を軽減した。
結果と考察
標準GP回帰では、入力変数の震源依存成分としてマグニチュードのみを用いた参照手法よりもマルチホット表現を用いた提案手法の方が高い予測精度を達成した。また、ARDの導入により過学習が軽減され、予測性能がさらに向上した。逐次加法的GP回帰では、各段階で段階的に予測精度が向上し、特に基本成分と震源依存成分が支配的な寄与を示した。全分散の法則により、逐次的なGP回帰によって誤差分散が徐々に減少することが理論的に説明される。
大阪グループや愛知グループに比べて震源から離れた東京グループの観測点では、サイト依存成分の影響が減少し、震源依存成分や相互作用成分がより重要になることが確認されたが、これは、東京グループ内でのサイト依存成分の違いが小さいことによる可能性もある。これは、説明変数によるモデルの有効性の違いを示している。
結論と展望
本研究で提案した代理モデルは、南海トラフ地震の様々な震源シナリオに対して長周期地震動の満足な予測性能を示した。マルチホット符号化とARDの組み合わせ、逐次加法的GP回帰による変動分解により、予測精度と解釈性の両方を向上させることができた。ただし、説明変数の選び方によっては予測には限界があり、そのような場合の入力変数の定義・選択方法、GPに基づく代理モデルの妥当性範囲について、さらなる検討が必要である。本手法は確率的地震ハザード・リスク評価のための実用的で解釈可能なツールとしての有用性を実証した。
本研究で用いた逐次加法的GP回帰に基づく枠組みは、今後、交互射影の方法論へと拡張可能である。交互射影の方法は、条件付き期待値の直交射影としての特徴付けとvon Neumannの逐次射影定理を組み合わせた反復法であり、収束性について理論的に裏付けられることを確認しており、今後はより実証的な検証を進める予定である。
謝辞:本研究は文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として行われた。
研究背景と手法
南海トラフ地震のハザード・リスク評価には、空間的に分布した大量の地震動シミュレーション結果が必要だが、個々の地震シナリオのシミュレーションには多大な計算資源と時間を要する。そこで既存の複数震源シナリオの地震動シミュレーション結果に基づき、任意に指定された仮想震源シナリオの地震動指標を予測する代理モデルを開発した。GP回帰は決定論的な地震動予測式が得られるだけでなく、不確実さの確率分布からサンプルパスを生成できることから、地震ハザード評価への応用に適していると考えられるため、本研究ではGP回帰を採用した。
データセットと検証
259の震源シナリオと約60,000の観測点から得られた約1,500万の記録のデータセットを使用した。標準GP回帰の演算量問題に対処するため、観測点を大阪府庁、愛知県庁、東京都庁を中心とした3つの地域グループに分割し、各地域で約100観測点に空間的に間引いた。これにより各地域で約30,000記録のデータセットを構築した。震源シナリオの多様性を考慮するため、震源域のマルチホット符号化を入力変数として使用した。震源域を東西方向6区間、南北方向3区間の計18の部分領域に分割し、震源域の形状を18次元バイナリベクトルで表現した。検証では、震源域が同一で破壊開始点が異なる3つの震源シナリオを検証用とし、残り256シナリオで学習したモデルの予測性能を評価した。
逐次加法的GP回帰
非エルゴード的地震動モデルの枠組みに基づき、シミュレーション出力の変動を解釈可能な物理成分(サイト効果、震源効果、それらの相互作用など)に分解する逐次加法的GP回帰を開発した。この手法では、GP回帰を段階的に適用し、各段階で事後分布の平均関数を成分別関数の和として表現する。
具体的には、第1段階で基本成分(グリーン関数相当)、第2段階でサイト依存成分、第3段階で震源依存成分、第4段階で相互作用成分を順次抽出する。各段階で前段階の事後平均を次段階の事前平均とし、残差に対してGP回帰を適用することで、変動要因を体系的に分解する。さらに自動関連性決定(ARD)を採用し、入力次元を効果的に削減して過学習を軽減した。
結果と考察
標準GP回帰では、入力変数の震源依存成分としてマグニチュードのみを用いた参照手法よりもマルチホット表現を用いた提案手法の方が高い予測精度を達成した。また、ARDの導入により過学習が軽減され、予測性能がさらに向上した。逐次加法的GP回帰では、各段階で段階的に予測精度が向上し、特に基本成分と震源依存成分が支配的な寄与を示した。全分散の法則により、逐次的なGP回帰によって誤差分散が徐々に減少することが理論的に説明される。
大阪グループや愛知グループに比べて震源から離れた東京グループの観測点では、サイト依存成分の影響が減少し、震源依存成分や相互作用成分がより重要になることが確認されたが、これは、東京グループ内でのサイト依存成分の違いが小さいことによる可能性もある。これは、説明変数によるモデルの有効性の違いを示している。
結論と展望
本研究で提案した代理モデルは、南海トラフ地震の様々な震源シナリオに対して長周期地震動の満足な予測性能を示した。マルチホット符号化とARDの組み合わせ、逐次加法的GP回帰による変動分解により、予測精度と解釈性の両方を向上させることができた。ただし、説明変数の選び方によっては予測には限界があり、そのような場合の入力変数の定義・選択方法、GPに基づく代理モデルの妥当性範囲について、さらなる検討が必要である。本手法は確率的地震ハザード・リスク評価のための実用的で解釈可能なツールとしての有用性を実証した。
本研究で用いた逐次加法的GP回帰に基づく枠組みは、今後、交互射影の方法論へと拡張可能である。交互射影の方法は、条件付き期待値の直交射影としての特徴付けとvon Neumannの逐次射影定理を組み合わせた反復法であり、収束性について理論的に裏付けられることを確認しており、今後はより実証的な検証を進める予定である。
謝辞:本研究は文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として行われた。
