講演情報

[P15-17]震源域周辺の強震観測記録を用いたP波PLUM法の検証

*林元 直樹1、小寺 祐貴2 (1. 東京大学地震研究所、2. 気象研究所)
PDFダウンロードPDFダウンロード
地震動即時予測の方法は,1観測点におけるP波とS波の速度差を利用するオンサイト手法と,複数観測点を用いて地震動の伝播とデータ伝送の速度差を利用するネットワーク手法とに大別される.現在の緊急地震速報はこれらの組み合わせによって成り立っており,具体には,震源とマグニチュード(M)に基づく予測手法と,揺れから揺れを直接予測する手法とを併用している.震源とMに基づく手法では,ある観測点でP波を検知した時点からIPF法(溜渕・他(2014))により震源を直ちに推定し,P波部分の振幅に適用するP波M式(明田川・他(2010))も併用してM推定を行うことで,主要動到達前であってもP波部分から迅速な予測を可能としている.一方で,揺れから揺れを直接予測するPLUM法(Kodera et al. (2018))においては,P波かS波かは区別せず,ある観測点で強い揺れを観測した時点でその観測点周辺領域に対して予測を行うものであり,原理上はいわゆるネットワーク手法による予測である.

このPLUM法にP波部分の振幅からの予測を活用する考え方として,Kodera (2018)による,P波識別に基づくオンサイトでの震度予測とそのPLUM法への適用がある(P波PLUM法).P filter (例えば,Ross and Ben-Zion, 2014) によって識別できたP波区間に対して,上下動成分のみから計算したリアルタイム震度(以後,上下動リアルタイム震度)を一定値嵩上げすることで,その地点のリアルタイム震度を先行して予測し,これをPLUM法に用いるものである.小寺(2024)ではさらに,P波区間の識別を省略し,上下動リアルタイム震度そのものを連続的にモニタリングする方法も提案している.

本発表では,大きな震度を観測した地震を例として,P波PLUM法の可能性の検証のため,特に震源域周辺での上下動リアルタイム震度の特徴の把握を行った.震源域周辺でのデータとしては,気象庁観測点,地方公共団体の震度計,およびK-NET/KiK-netの強震観測記録を用いた.加速度地震波形に対して,功刀・他(2013)によるリアルタイム演算手法を用いて,3成分合成の通常のリアルタイム震度に加えて,上下動加速度波形のみを用いた上下動リアルタイム震度を算出し,Kodera (2018)同様に定数値1.0(Yamamoto et al. (2008)によるS波とP波との震度差)をこれに加えることで予測震度とし(以下,上下動予測震度),震度差や震度閾値超過タイミングについてリアルタイム震度との特徴の比較を行った.

典型的な例として,P波区間では上下動成分が卓越することから,リアルタイム震度と上下動リアルタイム震度との差がほとんど生じず,結果として上下動予測震度はリアルタイム震度に対して最大で+1.0嵩上げして推定される.対して,S波の到達時以降では上下動予測震度とリアルタイム震度とが概ね一致して推移することが多い.これにより,特にP波区間においては上下動予測震度によってより早くに揺れの大きさを予測することが可能になる.

平成28年(2016年)熊本地震(2016年4月16日,M7.3,最大震度7)では,PLUM法の運用開始前であったが,震源とMに基づく予測により地震波検知後約3.9秒(一元化震源のOT後約8.6秒)と警報第1報は迅速に発表され,その後Mの成長によって更新された.警報第1報のタイミングでは,震源近傍の観測点のリアルタイム震度は既に震度5弱以上の揺れとなっているが,上下動予測震度では震央から50km以内の観測点においてリアルタイム震度よりも数秒早く震度5弱以上となることが確認できた.

令和6年能登半島地震(2024年1月1日,M7.6,最大震度7)は,M7.6の地震の13秒前にM5.7の地震が発生しており,緊急地震速報はM5.7の地震の揺れで警報の第1報が発表され,M7.6の地震の揺れにより第2報・第3報と警報の領域が更新された事例であった(Yamada et al. (2025)).非常に複雑な初期破壊過程を伴った地震であったが,上下動予測震度では,特に震源から60kmより遠方の観測点において,M5.7のS波到達時間以降であってもM7.6の地震のP波成分によって,リアルタイム震度と比較して上下動予測震度が大きくなり,震度4の発現が早くなる事例がみられた.

以上のように,上下動リアルタイム震度を用いた揺れの予測により,震源域周辺においてPLUM法による予測を迅速化することが可能になると考えられる.

<謝辞>本解析では,気象庁が公開している気象庁観測点および,熊本県・石川県など地方公共団体が整備した震度計の強震波形記録,防災科学技術研究所の強震観測網K-NET/KiK-netの強震波形記録を使用しました.また,気象庁一元化震源データを使用しました.記して感謝申し上げます.