講演情報
[P17-10]日本海沿岸の確率論的な津波ハザード評価に向けた特性化波源断層モデル群の設定:兵庫県北方沖~北海道北西沖
*村田 耕一1、藤原 広行2、中村 洋光2、平田 賢治2、土肥 裕史2、森川 信之2、松山 尚典1、根本 信1、張 学磊1、木村 洋1 (1. 応用地質株式会社、2. 防災科学技術研究所)
1.はじめに
日本海沿岸では、1983年日本海中部地震 (M7.7)、1993年北海道南西沖地震 (M7.8)、2024年能登半島地震 (M7.6) などの海域活断層を震源とする地震が繰り返し発生し、津波による被害が生じている。以前に我々は、日本海南西部の海域活断層のみを対象とした確率論的な津波ハザード評価 (PTHA)の試算結果を報告した(村田・ほか、JpGU2025)。日本海南西部以外の海域活断層も含めた日本海沿岸のPTHAに向けて、本発表では、兵庫県北方沖~北海道北西沖における波源断層モデル群の設定方法及び津波伝播遡上計算結果について報告する。
2.波源断層モデル群の設定に用いたデータ
基本的な活断層のデータとして、地震本部による「海域活断層の長期評価」がされている海域については、下記の1)のデータを用いた。長期評価の対象範囲外の海域については、2)~5)を用いた。これらに示された活断層を重複がないように整理して震源をあらかじめ特定できると考えられる地震(「震源特定型の地震」と呼ぶ)の波源断層モデル群を作成した。
・地震本部による「海域活断層の長期評価」
1) 日本海側の海域活断層の長期評価―兵庫県北方沖~新潟県上越地方沖―(令和6年8月版)(令和6年)
・長期評価以外の海域断層のデータ
2)「海域における断層情報総合評価プロジェクト」(平成25年度~令和元年度)報告書
3)「日本海地震・津波調査プロジェクト」(平成25年度~令和元年度)報告書
4)泉紀明・西澤あずさ・堀内大嗣・木戸ゆかり・中田 高・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘(2014):3秒グリッド DEM から作成した日本海東縁部の3D 海底地形、海洋情報部研究報告、51.
5)岡村行信 (2019):日本海における活断層の分布と今後の課題、地震 第 2 輯、71、185-199.
また、兵庫県北方沖~北海道北西沖及び隠岐諸島北方沖の海域に、震源をあらかじめ特定しにくい地震(「震源不特定型の地震」と呼ぶ)を設定した。
3.地震グループの設定
地震グループとして、以下の2種類を設定した。
・震源特定型の地震(「震源特定型」):2章で収集したデータに基づき走向・傾斜・地震規模等を設定した地震。
・震源不特定型の地震(「震源不特定型」):兵庫県北方沖~北海道北西沖及び隠岐諸島北方沖の海域に一定の走向・傾斜で波源断層モデルを敷き詰めることで設定した地震。地震規模はMw6.9で一定とした。
4.波源断層モデル群の構築
各断層は区間ごとに1枚の矩形断層とし、断層パラメータは以下のとおり設定した。
・断層端点:参照した文献に示されている位置を使用した。「震源不特定型」は緯度経度それぞれ0.2度間隔で対象範囲に敷き詰めて配置した。
・断層の上端深さ:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも海底下0kmとした。
・断層の傾斜角:「震源特定型」は文献記載の値を使用した。長期評価対象の断層の傾斜角は、「長期評価」の記載に応じて「ほぼ垂直」は90度、「高角」は60度、「中角」は45度、「低角」は30度とした。「震源不特定型」の傾斜角は、設定範囲に応じて一律で45度ないし90度とした。・断層の走向:「震源特定型」は文献記載の値を使用した。「震源不特定型」の走向は、対応する領域に存在する短い活断層を含む海域活断層の平均を使用した。
・すべり角:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、垂直な活断層は「長期評価」で示された横ずれ/縦ずれ比の中央値(4.5)に相当する12.5度を設定し、傾斜した活断層は一律で90度(逆断層)とした。
・断層幅:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、まず地震発生層の厚さ及び断層の傾斜角から求まる値を「基本値」として設定し、「基本値」+5kmを波源断層モデル群の断層幅として設定した。
・断層長さ:文献で長さが示されている活断層ではその値を波源断層モデルの断層長さとして設定した。「震源不特定型」の断層長さは、地震規模Mw6.9の場合に入倉・三宅(2001)のスケーリング則から求まる断層面積を傾斜角45度ないし90度の時の断層幅の「基本値」で割った値を設定した。
・平均すべり量:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、断層幅及び断層長さから求まる断層面積から入倉・三宅(2001)のスケーリング則を用いて求まる地震規模に基づき設定した。
・すべり分布:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、すべり不均質を考慮して平均すべり量の2倍のすべり量を持つ大すべり域を設定した。
・大すべり域の面積と形状:「津波レシピ」では、海溝型地震のすべり分布から大すべり域の面積を断層面積の30%、日本海における大規模地震に関する調査検討会では大すべり域の面積を断層面積の20%程度としている。本研究では、この2つのうち大きい方(断層面積の30%)を「震源特定型」・「震源不特定型」両方の大すべり域の面積とした。また、「震源特定型」・「震源不特定型」ともに大すべり域の長さ/幅の比は2:1とした。・大すべり域の位置:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、深さ方向には断層上端に接する浅部側のみに設定した。「震源特定型」では、走向方向には中央および両端の3パターンを、「震源不特定型」では中央の1パターンとして設定した。
以上の設定方法に基づき、「震源特定型」として446モデル(Mw6.4-7.9)、「震源不特定型」として710モデル(Mw6.9)の波源断層モデル群を設定した。
5.津波伝播遡上計算
日本海側(知床岬~五島列島)に最小50mメッシュのネスティング計算領域を設定し、津波伝播遡上計算を実施した。津波伝播遡上計算の結果では、活断層が密集している日本海東縁部の北海道~本州北部にかけての沿岸で特に津波が高い傾向がみられる。また、秋田県沖(1983年日本海中部地震の震源域付近)に設定した波源断層モデル群の計算では隠岐諸島で津波が高くなる現象がみられる。これは1983年日本海中部地震で隠岐諸島に高い津波(最大3m程度)が来襲したことと調和している。北海道北西沖に設定した波源断層モデル群の場合、宗谷海峡付近で3m程度、それより東側のオホーツク海沿岸では最大でも1m未満であった。
6.PTHAに向けて
兵庫県北方沖~北海道北西沖には、現時点で「長期評価」がされていない活断層が密集している。これらの活断層の地震発生確率の設定方法については現在検討中である。本研究では、試験的にすべての活断層の地震発生確率を活動度B級相当と仮定し、平均変位速度を0.25m/千年(奥村・石川, 1998)として地震の発生確率を求め、ハザードカーブを試算した。発表では、この結果と村田・ほか (2025,JpGU)で実施した日本海南西部の海域活断層を対象としたPTHAの結果を統合した試算結果を紹介する。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施した。
キーワード:津波、確率論的津波ハザード評価、日本海、海域活断層
日本海沿岸では、1983年日本海中部地震 (M7.7)、1993年北海道南西沖地震 (M7.8)、2024年能登半島地震 (M7.6) などの海域活断層を震源とする地震が繰り返し発生し、津波による被害が生じている。以前に我々は、日本海南西部の海域活断層のみを対象とした確率論的な津波ハザード評価 (PTHA)の試算結果を報告した(村田・ほか、JpGU2025)。日本海南西部以外の海域活断層も含めた日本海沿岸のPTHAに向けて、本発表では、兵庫県北方沖~北海道北西沖における波源断層モデル群の設定方法及び津波伝播遡上計算結果について報告する。
2.波源断層モデル群の設定に用いたデータ
基本的な活断層のデータとして、地震本部による「海域活断層の長期評価」がされている海域については、下記の1)のデータを用いた。長期評価の対象範囲外の海域については、2)~5)を用いた。これらに示された活断層を重複がないように整理して震源をあらかじめ特定できると考えられる地震(「震源特定型の地震」と呼ぶ)の波源断層モデル群を作成した。
・地震本部による「海域活断層の長期評価」
1) 日本海側の海域活断層の長期評価―兵庫県北方沖~新潟県上越地方沖―(令和6年8月版)(令和6年)
・長期評価以外の海域断層のデータ
2)「海域における断層情報総合評価プロジェクト」(平成25年度~令和元年度)報告書
3)「日本海地震・津波調査プロジェクト」(平成25年度~令和元年度)報告書
4)泉紀明・西澤あずさ・堀内大嗣・木戸ゆかり・中田 高・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘(2014):3秒グリッド DEM から作成した日本海東縁部の3D 海底地形、海洋情報部研究報告、51.
5)岡村行信 (2019):日本海における活断層の分布と今後の課題、地震 第 2 輯、71、185-199.
また、兵庫県北方沖~北海道北西沖及び隠岐諸島北方沖の海域に、震源をあらかじめ特定しにくい地震(「震源不特定型の地震」と呼ぶ)を設定した。
3.地震グループの設定
地震グループとして、以下の2種類を設定した。
・震源特定型の地震(「震源特定型」):2章で収集したデータに基づき走向・傾斜・地震規模等を設定した地震。
・震源不特定型の地震(「震源不特定型」):兵庫県北方沖~北海道北西沖及び隠岐諸島北方沖の海域に一定の走向・傾斜で波源断層モデルを敷き詰めることで設定した地震。地震規模はMw6.9で一定とした。
4.波源断層モデル群の構築
各断層は区間ごとに1枚の矩形断層とし、断層パラメータは以下のとおり設定した。
・断層端点:参照した文献に示されている位置を使用した。「震源不特定型」は緯度経度それぞれ0.2度間隔で対象範囲に敷き詰めて配置した。
・断層の上端深さ:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも海底下0kmとした。
・断層の傾斜角:「震源特定型」は文献記載の値を使用した。長期評価対象の断層の傾斜角は、「長期評価」の記載に応じて「ほぼ垂直」は90度、「高角」は60度、「中角」は45度、「低角」は30度とした。「震源不特定型」の傾斜角は、設定範囲に応じて一律で45度ないし90度とした。・断層の走向:「震源特定型」は文献記載の値を使用した。「震源不特定型」の走向は、対応する領域に存在する短い活断層を含む海域活断層の平均を使用した。
・すべり角:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、垂直な活断層は「長期評価」で示された横ずれ/縦ずれ比の中央値(4.5)に相当する12.5度を設定し、傾斜した活断層は一律で90度(逆断層)とした。
・断層幅:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、まず地震発生層の厚さ及び断層の傾斜角から求まる値を「基本値」として設定し、「基本値」+5kmを波源断層モデル群の断層幅として設定した。
・断層長さ:文献で長さが示されている活断層ではその値を波源断層モデルの断層長さとして設定した。「震源不特定型」の断層長さは、地震規模Mw6.9の場合に入倉・三宅(2001)のスケーリング則から求まる断層面積を傾斜角45度ないし90度の時の断層幅の「基本値」で割った値を設定した。
・平均すべり量:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、断層幅及び断層長さから求まる断層面積から入倉・三宅(2001)のスケーリング則を用いて求まる地震規模に基づき設定した。
・すべり分布:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、すべり不均質を考慮して平均すべり量の2倍のすべり量を持つ大すべり域を設定した。
・大すべり域の面積と形状:「津波レシピ」では、海溝型地震のすべり分布から大すべり域の面積を断層面積の30%、日本海における大規模地震に関する調査検討会では大すべり域の面積を断層面積の20%程度としている。本研究では、この2つのうち大きい方(断層面積の30%)を「震源特定型」・「震源不特定型」両方の大すべり域の面積とした。また、「震源特定型」・「震源不特定型」ともに大すべり域の長さ/幅の比は2:1とした。・大すべり域の位置:「震源特定型」・「震源不特定型」のいずれも、深さ方向には断層上端に接する浅部側のみに設定した。「震源特定型」では、走向方向には中央および両端の3パターンを、「震源不特定型」では中央の1パターンとして設定した。
以上の設定方法に基づき、「震源特定型」として446モデル(Mw6.4-7.9)、「震源不特定型」として710モデル(Mw6.9)の波源断層モデル群を設定した。
5.津波伝播遡上計算
日本海側(知床岬~五島列島)に最小50mメッシュのネスティング計算領域を設定し、津波伝播遡上計算を実施した。津波伝播遡上計算の結果では、活断層が密集している日本海東縁部の北海道~本州北部にかけての沿岸で特に津波が高い傾向がみられる。また、秋田県沖(1983年日本海中部地震の震源域付近)に設定した波源断層モデル群の計算では隠岐諸島で津波が高くなる現象がみられる。これは1983年日本海中部地震で隠岐諸島に高い津波(最大3m程度)が来襲したことと調和している。北海道北西沖に設定した波源断層モデル群の場合、宗谷海峡付近で3m程度、それより東側のオホーツク海沿岸では最大でも1m未満であった。
6.PTHAに向けて
兵庫県北方沖~北海道北西沖には、現時点で「長期評価」がされていない活断層が密集している。これらの活断層の地震発生確率の設定方法については現在検討中である。本研究では、試験的にすべての活断層の地震発生確率を活動度B級相当と仮定し、平均変位速度を0.25m/千年(奥村・石川, 1998)として地震の発生確率を求め、ハザードカーブを試算した。発表では、この結果と村田・ほか (2025,JpGU)で実施した日本海南西部の海域活断層を対象としたPTHAの結果を統合した試算結果を紹介する。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施した。
キーワード:津波、確率論的津波ハザード評価、日本海、海域活断層
