講演情報
[P22-09]首都圏の地震観測網におけるPhaseNetWCの挙動調査:MeSO-netを活用した地震波トモグラフィーに向けて
*大石 一路1、雨澤 勇太2、中島 淳一1 (1. 東京科学大学、2. 産業技術総合研究所)
首都圏の地震観測網におけるPhaseNetWCの挙動調査:MeSO-netを活用した地震波トモグラフィーに向けて
はじめに
首都圏では、今後30年以内に70%の確率でM7クラスの地震が起こると想定されている。このような地震が発生すれば甚大な被害が予想されるため、防災及び減災の観点から地下構造を詳細に理解することは重要である。地下構造を調べる地震学的な方法としては地震波トモグラフィーがあり、Nakajima et al(2009)などでは、基盤観測網を用いた首都圏の地震波トモグラフィーが行われ、フィリピン海プレートの東端に極端な低速度異常があることなどが明らかになった。2007年に首都圏地震観測網MeSO-netの運用が開始され、首都圏の地震観測点密度が飛躍的に向上した。MeSO-netの観測波形記録を用いることで、波線密度を向上させて地震波トモグラフィーを実施することができ、より高解像度な地震波不均質構造が得られることが期待される。しかし、MeSO-netの公開検測値はないため、大量の観測波形記録について走時データを準備する必要がある。そこで、本研究ではMeSO-netを活用した地震波トモグラフィーを実施するための端緒として、地震波検測のための深層学習モデルを首都圏のHi-netおよびMeSO-netの観測波形記録に適用し、モデルの挙動を把握することを目的とする。
方法
本研究ではPhaseNetWC(Naoi et al., 2024)を使用してP波およびS波の検測を行った。PhaseNetWCはPhaseNet(Zhu&Beroza, 2019)のアーキテクチャを基礎に日本周辺で発生した地震の速度波形記録を用いて訓練された直達波検測のための深層学習モデルであり、観測波形記録3成分の入力に対し、P波およびS波到達時刻の1サンプル点ごとの確率値であるスコア(0.0-1.0)を出力する。このスコアに対して閾値を設け、閾値を上回った点でP波・S波が到達したと判断する。まず、PhaseNetWCの検測性能を評価するために、関東地方で2017年以降に発生したM2.5以上の1501地震(深さ100km以浅)、について、Hi-netの観測波形記録にPhaseNetWCを適用して得られた検測値と気象庁検測地を比較した。また、MeSO-netの加速度波形記録へPhaseNetWCを直接適用することが可能かどうかを調べるため、Hi-netの速度波形記録を微分して得られた加速度波形記録にPhaseNetWCを適用して同様の比較を行った。次に、先述の比較に用いた地震から100地震をランダムに選び、それらのMeSO-netにおける観測波形記録に対してPhaseNetWCを適用しMeSO-netで得られた観測波形記録のSN比がPhaseNetWCの検測に及ぼす影響を調べた。SN比はP波の理論到達時刻1秒後から1秒間を信号の時間窓、P波の理論到達時刻5.5秒前から1秒間をノイズの時間窓として求めた。
結果
PhaseNetWCをHi-netの観測波形記録に適用して得られた検測値と気象庁検測値の残差のヒストグラムをPhaseNetWCの出力スコア0.2、0.4、0.6、0.8を閾値としてそれぞれ作成した。その結果、閾値を上げるにしたがって残差平均値は減少し、閾値が0.2のときの残差平均値が0.0336秒、閾値が0.8のときの残差平均値が0.0152秒であった。このことから、PhaseNetWCは首都圏の観測網で得られた観測波形記録に対し、地震波トモグラフィーを行う上で十分な精度で検測可能であることが分かった。また、Hi-netの速度波形と、それを微分して得られた加速度波形記録に対する気象庁検測値とPhaseNetWCの検測値の差についても同様の検討を行った結果、速度波形記録の場合とほとんど差がみられなかった。このことから、PhaseNetWCは加速度波形記録に対しても速度波形記録を入力した場合と同等の検測が可能であることが分かった。ランダムに選んだ100地震についてMeSO-net全観測点のSN比の平均値は約3.3であり、それを下回る観測波形でのPhaseNetWCによる出力スコアの平均が約0.2であるのに対して、SN比が平均値を上回る観測波形記録ではPhaseNetWCによる出力スコアの平均が約0.5となった。このことから、PhaseNetWCの読み取り成績と波形のSN比には正の相関があることが分かった。
今後の展望
本研究では、関東地方のHi-net及び MeSO-netの観測波形記録にPhasenetWCを適用し、モデルの挙動を調査した。今後はMeSO-netの加速度波形記録に対してPhaseNetWCを適用することで得られる検測値を用いて地震波速度トモグラフィーを行うことを予定している。
はじめに
首都圏では、今後30年以内に70%の確率でM7クラスの地震が起こると想定されている。このような地震が発生すれば甚大な被害が予想されるため、防災及び減災の観点から地下構造を詳細に理解することは重要である。地下構造を調べる地震学的な方法としては地震波トモグラフィーがあり、Nakajima et al(2009)などでは、基盤観測網を用いた首都圏の地震波トモグラフィーが行われ、フィリピン海プレートの東端に極端な低速度異常があることなどが明らかになった。2007年に首都圏地震観測網MeSO-netの運用が開始され、首都圏の地震観測点密度が飛躍的に向上した。MeSO-netの観測波形記録を用いることで、波線密度を向上させて地震波トモグラフィーを実施することができ、より高解像度な地震波不均質構造が得られることが期待される。しかし、MeSO-netの公開検測値はないため、大量の観測波形記録について走時データを準備する必要がある。そこで、本研究ではMeSO-netを活用した地震波トモグラフィーを実施するための端緒として、地震波検測のための深層学習モデルを首都圏のHi-netおよびMeSO-netの観測波形記録に適用し、モデルの挙動を把握することを目的とする。
方法
本研究ではPhaseNetWC(Naoi et al., 2024)を使用してP波およびS波の検測を行った。PhaseNetWCはPhaseNet(Zhu&Beroza, 2019)のアーキテクチャを基礎に日本周辺で発生した地震の速度波形記録を用いて訓練された直達波検測のための深層学習モデルであり、観測波形記録3成分の入力に対し、P波およびS波到達時刻の1サンプル点ごとの確率値であるスコア(0.0-1.0)を出力する。このスコアに対して閾値を設け、閾値を上回った点でP波・S波が到達したと判断する。まず、PhaseNetWCの検測性能を評価するために、関東地方で2017年以降に発生したM2.5以上の1501地震(深さ100km以浅)、について、Hi-netの観測波形記録にPhaseNetWCを適用して得られた検測値と気象庁検測地を比較した。また、MeSO-netの加速度波形記録へPhaseNetWCを直接適用することが可能かどうかを調べるため、Hi-netの速度波形記録を微分して得られた加速度波形記録にPhaseNetWCを適用して同様の比較を行った。次に、先述の比較に用いた地震から100地震をランダムに選び、それらのMeSO-netにおける観測波形記録に対してPhaseNetWCを適用しMeSO-netで得られた観測波形記録のSN比がPhaseNetWCの検測に及ぼす影響を調べた。SN比はP波の理論到達時刻1秒後から1秒間を信号の時間窓、P波の理論到達時刻5.5秒前から1秒間をノイズの時間窓として求めた。
結果
PhaseNetWCをHi-netの観測波形記録に適用して得られた検測値と気象庁検測値の残差のヒストグラムをPhaseNetWCの出力スコア0.2、0.4、0.6、0.8を閾値としてそれぞれ作成した。その結果、閾値を上げるにしたがって残差平均値は減少し、閾値が0.2のときの残差平均値が0.0336秒、閾値が0.8のときの残差平均値が0.0152秒であった。このことから、PhaseNetWCは首都圏の観測網で得られた観測波形記録に対し、地震波トモグラフィーを行う上で十分な精度で検測可能であることが分かった。また、Hi-netの速度波形と、それを微分して得られた加速度波形記録に対する気象庁検測値とPhaseNetWCの検測値の差についても同様の検討を行った結果、速度波形記録の場合とほとんど差がみられなかった。このことから、PhaseNetWCは加速度波形記録に対しても速度波形記録を入力した場合と同等の検測が可能であることが分かった。ランダムに選んだ100地震についてMeSO-net全観測点のSN比の平均値は約3.3であり、それを下回る観測波形でのPhaseNetWCによる出力スコアの平均が約0.2であるのに対して、SN比が平均値を上回る観測波形記録ではPhaseNetWCによる出力スコアの平均が約0.5となった。このことから、PhaseNetWCの読み取り成績と波形のSN比には正の相関があることが分かった。
今後の展望
本研究では、関東地方のHi-net及び MeSO-netの観測波形記録にPhasenetWCを適用し、モデルの挙動を調査した。今後はMeSO-netの加速度波形記録に対してPhaseNetWCを適用することで得られる検測値を用いて地震波速度トモグラフィーを行うことを予定している。
