講演情報

[P23-04]山口県阿武火山群周辺で観測された非定常地殻変動

*西村 卓也1、宮澤 理稔1、西川 友章1、長岡 愛理1、宮町 凛太郎1、太田 雄策2、高橋 浩晃3、大園 真子3 (1. 京都大学、2. 東北大学、3. 北海道大学)
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はじめに
 2025年2月から山口県北部で地震活動が活発化し、下部地殻相当の深さ25kmから30km程度で群発地震活動が続いている.地震の規模は最大でM2.3であり,有感となった地震はないが,2024年以前には地震活動が全く観測されていなかった場所・深さにおいて,地震活動で活発化した点は興味深い.7月以降,地震活動は低下したが,本稿執筆時点(8月13日)でも地震活動は散発的ながら継続しており,M0.5以上の地震の発生回数は2169回に達している.地震活動とほぼ同時期から,周囲の国土地理院GEONET観測点やソフトバンク独自基準点において非定常地殻変動が観測されたため.京大防災研では2025年4月28日に地震の震源域の直上にある伏馬山にGNSS観測点を設置した.本発表では,GNSS観測点で観測された非定常地殻変動とその変動源モデルについて報告するとともに,水準測量データから過去にもこの地域で非定常地殻変動が起こっていた可能性とそのメカニズムについて議論する.
GNSSによって観測された2025年の非定常地殻変動 
 本研究では,山口県北部及びその周辺の国土地理院GEONET観測点35点,ソフトバンク独自基準点56点,京都大学観測点1点のGNSSデータを用いた.各観測点の日座標値は,GipsyX Ver 2.3のバイアス整数化精密単独測位法を用いて計算し,2023年1月から2025年1月までの期間で時系列フィッティングを行った1次・年周・半年周成分を観測値から差し引くことで,非定常地殻変動を抽出した.抽出された非定常変動の時系列から2月11-20日から7月22日-8月1日までの変位ベクトルを計算すると,群発地震の震源域を中心に膨張を示す最大約1cmの水平変動と最大約3cmの隆起が見られる(Fig. 1).非定常変動の時間変化は,累積地震回数の時間変化とよく似ており,3月から5月までは変動速度が大きい状態が続いたが,6月以降は鈍化している.次に,半無限弾性体を仮定して,非定常変動から変動源モデルを非線形インバージョン(Matsu’ura and Hasegawa, 1987)により推定した.開口クラックを仮定した場合が地殻変動データへのフィッティングが最も良く,上端深さが約25kmと震源分布と調和的な結果が得られた.開口クラックは南西方向に約30度で傾斜しており,体積変化量は約4×107m3と推定された.期間を前半と後半に分けて,それぞれ変動源を推定すると,両期間とも開口クラックで観測値を説明できるが,前半の変動源モデルの位置に対して後半の位置は10km程度北北西に移動していた.
水準測量による過去の非定常地殻変動と非定常地殻変動の解釈
 2025年に観測された非定常地殻変動で隆起が大きい地域には,国土地理院一等水準測量路線があり(Fig. 1),1892年に最初の測量が行われている.この地域は経年的な上下変動が比較的小さく,2006年までに水準測量が9回繰り返し実施されていることから,2025年に発生した非定常地殻変動と類似の隆起パターンが水準測量データに含まれているかどうか検討した.その結果,1892-1939年の期間と1989-1998/1999年の2つの期間において,山口県北部に2025年と類似した隆起パターンがあることがわかった.隆起量の最大値はそれぞれ約6cmと約3cmである.これらの期間には対応する地震活動は記録されていないが,防災科研Hi-netが構築される以前には,この地域の地震の検出限界以下の微小地震活動があった可能性も考えられる.なお,隆起の時期を特定するために,水準路線に近い萩験潮所と須佐験潮所に潮位データの解析も行ったが,明瞭な時間変化は同定できなかった.
 2月から始まった地震活動と非定常地殻変動は,阿武火山群と呼ばれる単性火山群が存在する地域において発生した.岩石学的な研究により,阿武火山群におけるマグマだまりは深さ25-30km程度に存在すると推定されており(角縁・他, 2000),推定された変動源や地震活動の深さとほぼ一致する.一連の地震活動が深さ40km前後のモホ面付近の深部低周波地震から始まったことや,推定された体積増加量の大きさを考えると,マントルから大量の深部流体が既存のマグマだまり付近の深さまで上昇してきたことにより,マグマだまり周辺の間隙流体圧を上昇させ,地震活動を誘発したと考えられる.
謝辞 本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」 の枠組みを通じて、ソフトバンク株式会社およびALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。国土地理院の電子基準点RINEXデータ、水準測量(LAGSAS)データ、気象庁一元化震源データを使用しました。