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[P25-04]バックプロジェクション法と波形インバージョンから読み解く2025年Mw 8.8 カムチャツカ半島地震の震源過程

*柴田 律也1、久保 久彦1、鈴木 亘1 (1. 国立研究開発法人防災科学技術研究所)
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2025年7月29日23時24分頃 (UTC)に発生したカムチャツカ半島の地震は、米国地質調査所 (USGS)のW-phase モーメントテンソル解 (Duputel et al., 2012)で、マグニチュードが8.8の低角の逆断層型地震であった。この地震は、太平洋プレートが北アメリカプレートに沈み込むプレート境界上で発生した。この領域では、1900年以降マグニチュードが8を超える地震が4個発生するなど地震活動が活発な領域であり (Johnson and Satake, 1999)、特に規模が大きな地震として1952年に発生したMw 9.0の地震が挙げられる。本研究では、2025年のカムチャツカ半島地震の震源過程を推定し、断層すべりの特徴を調べるとともに、過去の巨大地震との空間的関係について考察した。
最初に、バックプロジェクション法 (例えばIshii et al., 2005)によって、破壊フロントの位置と震源継続時間を推定した。解析では、地震学研究所連合 (IRIS)が統合して提供している地震観測波形のうち、震央距離98度以内の広帯域であるHHZ、BHZ成分をもつ観測点1272点を使用した。震源はUSGSによる北緯52.551度、東経160.259度、深さ35.0 kmとしている。速度波形は20 Hzにリサンプリングしたのち、0.005〜0.5 Hzのバンドパスフィルタをかけた。バックプロジェクション法では波形相関が重要であるため、全波形間における相互相関係数を計算した。具体的には、1次元速度構造であるIASP91 (Kennett and Engdahl, 1991)に基づいて計算された理論走時 (Crotwell et al., 1999)から-40〜40秒の範囲で、すべての波形ペアの相互相関係数を計算した。続いて、得られた相互相関係数が0.7を超える波形ペアのうち、最もカバレージがよくなる組み合わせを選び、バックプロジェクション解析に用いることとした。なお、S/N比が5以下の観測点は除外している。結果として、62観測点が抽出された。バックプロジェクション法では、深さ35.0 kmかつ、緯度方向に震央から-5度〜5度の範囲、経度方向に震央から-4〜2.5度の範囲で0.2度ごとに、走時を相互相関のラグタイムとともに補正して波形をスタックすることでその強度を調べた。スタックにおいてはN乗根スタック法 (例えばHonda and Aoi, 2009)を用い、Nは4とした。結果、断層破壊はユニラテラルに南南西に向かって伝播し、主なエネルギー放射は190秒程度で終了していることがわかった。約500 kmを190秒程度で伝播していることから、平均的な破壊伝播速度は2.6 km/s程度であることがわかる。
続いて、波形インバージョンによって詳細な断層すべり分布を推定した。この波形インバージョンにおいては、震源断層近傍で発生した似たメカニズムの波形をグリーン関数として活用する経験的グリーン関数 (EGF; Hartzell, 1978)を用いた。また、Shibata and Aso (2025)に従いEGFイベントと各小断層の放射パターンの補正も行なった。EGFイベントとしては、2025年7月20日6時49分頃 (UTC)に発生したMww 7.4の地震を選択した。本解析においては、EGFの波形のS/N比が5を超えるIRISが公開するHHZ, BHZ成分を持つ波形のみを活用した。また、アジマスを20度ごとに区切った場合に観測点数が5を超える場合は、観測点数が5程度になるようにランダムに観測点を選択した。速度波形は0.008〜0.08 Hzのバンドパスフィルタを適用したのち、0.5 Hzにリサンプリングされた。インバージョンには理論P波走時から-2〜248秒のタイムウィンドウを用いた。断層形状は、プレート境界の形状と破壊フロント南西に向かって伝播していることを考慮して走向を218度、傾斜を20度とし、走向・傾斜方向の長さがそれぞれ510 km、150 kmとなる矩形断層とした。震源はバックプロジェクションと同様である。波形インバージョンでは、マルチタイムウィンドウ法 (Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)を適用した。空間方向には30 km×30 kmの小断層を走向方向に16個、傾斜方向に5個並べた。時間方向の基底関数は、EGFのモーメントレート関数が20秒幅の三角形関数と仮定して、3個ハーフオーバラップさせながら並べることで、各小断層の震源時間関数を表現した。各小断層における破壊開始を許容する時刻は仮想の破壊フロントが2.75 km/sで伝播した場合のフロントの到達時刻とした。インバージョンには、非負の拘束 (Lawson and Hanson, 1974)と時空間のスムージング (Ide and Takeo, 1996)を適用した。これにより、すべり方向は45〜135度に制約される。
波形インバージョンの結果、10 m程度のすべりが断層浅部である海溝沿いに、南南西に約300 kmにわたって広がっていた。また、断層深部でも10 m程度のすべりが見られる領域が存在した。一方、震源周辺は全体としてすべりは小さかった。推定されたモーメントマグニチュードは8.9であり、震源継続時間は約190秒であった。2025年の地震の震源断層は、1952年のMw 9.0の地震の主破壊域の近傍であるが、津波波形インバージョンの結果によると1952年の地震は海溝付近ではあまりすべりを生じさせておらず、より深い領域で断層すべりを生じさせていたようである (Johnson and Satake, 1999)。また、海溝付近ではマグニチュード7を超える地震が1900年以降生じていないことから、この領域においては長年にわたって応力が蓄積されていた可能性がある。