講演情報

[S08-09]房総沖スロースリップとそれに伴う群発地震との関係:その3

*安原 一晟1、佐藤 利典2 (1. 千葉大学大学院融合理工学府、2. 千葉大学大学院理学研究院)
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1. はじめに
 スロースリップイベント(SSE)は、通常の地震とは異なり、地震波を放射することなくプレート境界面をゆっくりとすべる現象である。測地学的手法で地殻変動を連続的に観測することで検出され、日本や世界各地でその発生が報告されている。SSEに対するさらなる理解は、プレート境界面における応力の蓄積・解放のメカニズムの解明、さらには地震発生の予測などといった地震学の重要な問題の解明のためにも必要なことであると考えられている。
 房総沖では、数~数十日間の継続期間を持つ短期的SSEが、1996年から2024年までに2~7年程度の周期で計7回発生していることが知られている。この房総沖SSEでは、それに付随して発生する群発地震活動の存在が知られている。
 SSEの発生と群発地震活動には関連があると考えられている。2007年と2011年に発生した房総沖SSEでは、そのすべりと地震活動が時空間的によく相関しており、SSEによって地震活動が誘発された可能性が示唆されている(Hirose et al, GRL, 2014)。安原・佐藤(JpGU, 2024; JpGU, 2025; 地震学会, 2024)では、2002年、2007年、2011年、2014年、2018年に発生した房総沖SSEによる群発地震のΔCFFを求め、流体の移動の可能性を示唆した。
 本発表では、新たに解析を行った2024年のSSEを含めて、房総沖SSEに伴って発生する群発地震の発生要因について考察する。

2. 解析手法
 国土地理院GEONETが公開しているGNSSデータである日々の座標値(F5解)に対してABICインバージョン解析を行い、SSEによるすべりの時空間分布を推定した。求めたすべり分布から、群発地震の震源断層におけるSSEによる応力変化を計算し、その断層のすべりやすさを表す指標であるΔCFFを求めた。応力変化の計算は、防災科研F-netが公開している地震のメカニズム解のうち、SSEの発生期間中とその後1ヶ月間に発生したMw3.5以上の地震(2002年5個、2007年14個、2011年5個、2014年4個、2018年10個、2024年13個)の震源断層について行った。

3. 解析結果
 今回解析を行った2024年のSSEについて求めた各断層のΔCFFのうち、経験的に地震が発生しやすい状態にあるとされる0.01 MPa以上であった断層は8 %(1/13個)であった。また、これまでの解析によって、それぞれのSSEについて求めたΔCFFが0.01 MPa以上であった断層は、2002年で0 %(0/5個)、2007年で約21 %(3/14個)、2011年で20 %(1/5個)、2014年で50 %(2/4個)、2018年で40 %(4/10個)であったことがわかっている。この結果から、それぞれのSSEについて、SSEによる応力変化が直接的に群発地震活動全体を誘発したわけではないことが分かった。そこで、群発地震が発生した断層について、ΔCFFを閾値0.01 MPa以上とするような間隙水圧の変化量を考えた。
 間隙水圧の変化量を計算したところ、SSEの発生期間中にそのすべり領域付近で発生した地震の震源断層では、最大で0.16 MPa程度の増加量が推定された。先行研究において、房総沖SSEが発生する領域では、静岩圧(350~600 MPa)に比べて非常に小さい有効法線応力(10~50 MPa)が推定されている(Kobayashi and Sato, GRL, 2021)ことから高い間隙水圧の存在が示唆されている。また、2002年、2007年、2011年、2014年、2018年のSSEについても、本研究と同様の解析により0.05~0.72 MPa程度の間隙水圧の増加が推定されている。これらのことから、SSEのすべりによってそのすべり領域から群発地震の断層に流体が移動した可能性が考えられる。
 以上より、SSEのすべり領域から断層への流体の移動という間接的な要因を通じて、SSEのすべりによって群発地震が誘発されたと考えられる。

謝辞
解析にあたり、国土地理院GEONETの日々の座標値(F5解)を使用しました。応力の計算には、米国地質調査所のCoulomb 3.4を使用しました。群発地震のメカニズム解は、防災科研F-netのデータを使用しました。本研究は、科研費(23K03541)の補助を受けました。ここに記して感謝申し上げます。