講演情報

[S15-15]S-net観測データを取り入れた有限断層インバージョン: 2021年福島県沖地震の震源過程

*岩村 虹希1、浅野 公之2 (1. 京都大学大学院理学研究科、2. 京都大学防災研究所)
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S-netは、日本海溝から千島海溝域にかけて設置された地震津波観測網である。2016年にS-netの運用が開始されて以降、同領域内で規模の大きな地震が複数発生し、それらの震源過程の解析も行われているが(e.g., Kobayashi et al., 2023)、S-netの地震波形記録を用いて純粋に有限断層インバージョンを行った結果は報告されていない。海域で発生した地震の震源過程を陸上の観測点のデータのみで解析する場合、観測点が片側に偏るという問題点があるが、S-netのデータを併用することで、観測点分布が改善され、解析の信頼性が向上することが期待できる。そこで本研究では、2021年2月13日に発生した福島県沖地震(M7.3)を対象に、S-netで観測された地震記録を含めた有限断層インバージョンを実施し、その結果を陸上の観測点のみを用いた場合の結果と比較してS-net観測波形データを用いた解析の有用性や実用性を検討した。
解析にはK-NET5地点、KiK-net7地点、S-net16地点のデータを使用した。S-net観測点のデータはTakagi et al. (2019)で得られた回転行列を基に東、北、鉛直成分に変換した。K-NET、KiK-net、変換後のS-netの加速度記録を積分して速度波形を得た後、バンドパスフィルタ(0.05〜0.5 Hz)をかけて、10 Hzにリサンプリングした。S波到達の2秒前から28秒後までの30秒間を使用した。
インバージョンは、マルチタイムウインドウ線型波形インバージョン法(Hartzell and Heaton 1983; Olson and Apsel 1982)を用いた。グリーン関数は、地震本部の全国1次地下構造モデル(Koketsu et al. 2012)を参照して、各観測点で1次元速度構造モデルを作成し、離散化波数法(Bouchon 1981)と反射・透過行列法(Kennett and Kerry 1979)を用いて計算した。
断層モデルはF-netのモーメントテンソル逆解析の結果を基に決定し、走向方向24 km、幅32 kmの平面断層を設定した。破壊開始点は気象庁一元化処理震源カタログに基づいた。空間の離散化のために、断層面を4 km×4 kmの小断層に分割した。時間的な離散化のために、各小断層の震源時間関数はスムーズドランプ関数を基底関数とし、0.8秒おきに4つ並べることで表現した。安定的な結果を得るためにSekiguchi et al. (2000)の平滑化制約を与え、平滑化の強さはABIC (Akaike 1980)を基に決定した。インバージョンは非負制約条件付き線形最小二乗法(Lawson and Hanson 1974)を用いて解いた。
陸域のK-NETとKiK-netのデータのみを用いた解析結果では、最適な破壊速度は2.6 km/sとなった。平均すべり量は1.4 m、最大すべり量は3.8 mだった。地震モーメントは6.7×1019 Nmだった。破壊は約15秒続き、破壊開始2.5秒から12.5秒にかけて断層面中南部で大きなすべりが見られた。観測波形と合成波形は概ね一致した。K-NET、KiK-netおよびS-netのデータを用いた解析結果では、最適な破壊速度は2.5 km/sとなり、陸域のデータのみの結果と大きく変わらなかった。平均すべり量は1.6 m、最大すべり量は4.2 mだった。地震モーメントは8.2×1019 Nmだった。破壊は約15秒続き、破壊開始5秒から10秒にかけて断層面中南部で大きなすべりが見られた。観測波形と合成波形は陸上観測点においては概ね一致したが、S-net観測点においては一致が良好ではなかった。二つの解析結果は時空間的に概ね一致したが、大きなすべりが発生する領域が細部で異なった。また、既往研究と比較すると、破壊速度や破壊の時空間パターンは概ね整合的であったが、平均すべり量や最大すべり量は1.5~2倍程度大きい値となった。
今後は、インバージョンの解析条件の検討とともに、S-net観測点における波形の不一致の原因や、すべり量の値の差異の原因を検証する。

謝辞:国立研究開発法人防災科学技術研究所のK-NET、KiK-net、S-netの強震波形記録を使用しました。地震観測網の維持管理に関わられる皆様に感謝申し上げます。