講演情報
[S15-18]大地震での地震動振幅の飽和を考慮した気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードの関係式
*引間 和人1 (1. 東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 技術開発部 環境・エネルギーエリア)
【はじめに】
最近は,地震の規模としては,震源物理を反映した地震モーメント(M0)やモーメントマグニチュード(MW)が使われることが多いが,国内では気象庁マグニチュード(MJMA)の歴史が長く,現在も地震の規模としてカタログにも記載されている.また,工学分野の地震動評価では,MJMAに基づく地震動評価式もいまだに実用されている.そのため,MWまたはM0とMJMAの関係も必要である.これまで,例えば,佐藤(1989)や武村(1990)などでは,海溝地震(プレート地震)と内陸地震でMJMAとlogM0との線形関係が求められている.一方,福島・田中(1991)では震源スペクトルを考慮した上でMの2次の項を考慮した関係を提案している.最近でも,川瀬・他(2025, JpGU)では,内陸地震の震源パラメータのスケーリングを考慮して,新たな関係式が提案されている.
これらの検討を前提にしつつ,MJMAが観測地震動を元に決定され,2011年東北地方太平洋沖地震では実際にMJMAの飽和が確認されたことなどを考慮し,大規模地震まで適用可能なMW-MJMAの関係式を検討した結果を報告する.
【モデルの検討】
福島・田中(1991)では,震源スペクトルとしてω-2モデルを想定し,M0が大きくなるとMJMAの決定周期付近での地震動の振幅増加が減少するために,MJMAが線形では増加しなくなることを指摘している.これに対し,本研究では,震源スペクトルとして,単純なω-2モデルではなく,2つのコーナー周波数を有するモデルを仮定する.そのうちの1つは断層サイズに依存するもの(TL)で,もう1つはすべり時間関数(ライズタイム)に依存するもの(TS)とする.
内陸地震のスケーリングとしてはレシピで考慮されている3ステージモデルが知られており,長大な断層ではすべり量が一定値となる.また,Hikima and Shimmura(2020)[H&S]では,応力降下量が一定値を仮定した上で,同様に長大断層ではすべり量が一定値となる関係式を提案している.ここで,H&Sのスケーリングは内陸地殻内地震に限定したものではなく,飽和する断層幅が大きいとすればプレート地震でも適用可能である.M0が大きい場合にすべり量が一定値になれば,ライズタイムは数~10数秒程度が上限となる.一方,断層サイズに依存するコーナー周波数は断層サイズと破壊様式や破壊伝播速度との関係で決まるが,M0が大きくなると破壊継続時間は数10秒以上になり,ライズタイムから生じるコーナー周波数との差は大きくなる.また,プレート地震と内陸地殻内地震では大断層の場合,同じM0でも断層のアスペクト比が異なるため,スペクトル形状が異なることが想定される.これらの関係について,いくつかの仮定のもとH&Sのスケーリングを使いパラメータを設定し,震源スペクトルの形状を示したものがFig.1である.同じ地震規模では内陸地殻内地震のほうがより長周期側にTLを有する.また,M0の変化に伴う振幅の変化を見るとM0が小さな場合はほぼ等間隔で振幅が増大するが,M0が大きな場合は振幅の増加が小さくなる.特に,MJMAの主要な決定周期であるT=5~6秒では,MWが大きくなると振幅がほぼ一定値となり,MJMAが飽和することが想定される.また,プレート地震と内陸地殻内地震を比較すると,内陸地震の方が相対的に小さな地震規模で振幅が飽和することが想定される.
【データに基づくMW-MJMAの関係式】
本検討では,佐藤(1989)の断層パラメータに加え,その後収集された震源インバージョンによるパラメータ(地震予知総合研究振興会, 2005),SRCMODを元に整理したパラメータ(新村・引間, 2023),気象庁による震源過程解析結果,さらに最近の震源解析結果を収集・整理した.各地震のMWはM0から換算し,MJMAは現時点で気象庁が公表している値を採用した.なお,2011年東北地方太平洋沖地震のMJMAは8.4,MWは9.0とした.
仮定する関数形としては,前述のとおり規模が小さい範囲ではMWとMJMAが線形関係にある一方で大規模地震では一定値に飽和するように,以下を設定した.
MJMA=MC/{1+(MC/MW)2n}(1/2n)+dM
上記の式を収集したデータにフィッティングするように各係数を決定した.その際,プレート地震と内陸地震とを分けて検討した.なお,佐藤(1989)の条件を若干変更し深さ70km以深の地震を深発地震とし,ここでのフィッティングには使用していない.また,歴史地震のMはここで考えている観測地震動に基づくMJMAとは性格が異なると考えて,フィッティングには用いなかった.データとのフィッティングをFig.2に,得られた関係式を以下に示す.
プレート地震 :MJMA=8.68/{1+(8.68/MW)10}(1/10)+0.09
内陸地殻内地震:MJMA=7.78/{1+(7.78/MW)20}(1/20)+0.28
内陸地殻内地震はプレート地震よりも小さな規模でMJMAが一定値に漸近する.また,内陸地震のほうが飽和値に急激に遷移する(nの値が大きい)が,これらは,前述の震源スペクトルでの検討と整合している.また,MW 7程度以下の地震では,同じMWであっても内陸地震のMJMAが0.2程度大きく評価される.この原因として,武村(1990)などが指摘するように,浅部で発生する地殻内地震では表面波の励起が大きいことなどが考えられる.
《謝辞》本検討では佐藤(1989),地震予知総合研究振興会(2005)による収集データ,気象庁による震源過程解析結果などを使用させて頂きました.
最近は,地震の規模としては,震源物理を反映した地震モーメント(M0)やモーメントマグニチュード(MW)が使われることが多いが,国内では気象庁マグニチュード(MJMA)の歴史が長く,現在も地震の規模としてカタログにも記載されている.また,工学分野の地震動評価では,MJMAに基づく地震動評価式もいまだに実用されている.そのため,MWまたはM0とMJMAの関係も必要である.これまで,例えば,佐藤(1989)や武村(1990)などでは,海溝地震(プレート地震)と内陸地震でMJMAとlogM0との線形関係が求められている.一方,福島・田中(1991)では震源スペクトルを考慮した上でMの2次の項を考慮した関係を提案している.最近でも,川瀬・他(2025, JpGU)では,内陸地震の震源パラメータのスケーリングを考慮して,新たな関係式が提案されている.
これらの検討を前提にしつつ,MJMAが観測地震動を元に決定され,2011年東北地方太平洋沖地震では実際にMJMAの飽和が確認されたことなどを考慮し,大規模地震まで適用可能なMW-MJMAの関係式を検討した結果を報告する.
【モデルの検討】
福島・田中(1991)では,震源スペクトルとしてω-2モデルを想定し,M0が大きくなるとMJMAの決定周期付近での地震動の振幅増加が減少するために,MJMAが線形では増加しなくなることを指摘している.これに対し,本研究では,震源スペクトルとして,単純なω-2モデルではなく,2つのコーナー周波数を有するモデルを仮定する.そのうちの1つは断層サイズに依存するもの(TL)で,もう1つはすべり時間関数(ライズタイム)に依存するもの(TS)とする.
内陸地震のスケーリングとしてはレシピで考慮されている3ステージモデルが知られており,長大な断層ではすべり量が一定値となる.また,Hikima and Shimmura(2020)[H&S]では,応力降下量が一定値を仮定した上で,同様に長大断層ではすべり量が一定値となる関係式を提案している.ここで,H&Sのスケーリングは内陸地殻内地震に限定したものではなく,飽和する断層幅が大きいとすればプレート地震でも適用可能である.M0が大きい場合にすべり量が一定値になれば,ライズタイムは数~10数秒程度が上限となる.一方,断層サイズに依存するコーナー周波数は断層サイズと破壊様式や破壊伝播速度との関係で決まるが,M0が大きくなると破壊継続時間は数10秒以上になり,ライズタイムから生じるコーナー周波数との差は大きくなる.また,プレート地震と内陸地殻内地震では大断層の場合,同じM0でも断層のアスペクト比が異なるため,スペクトル形状が異なることが想定される.これらの関係について,いくつかの仮定のもとH&Sのスケーリングを使いパラメータを設定し,震源スペクトルの形状を示したものがFig.1である.同じ地震規模では内陸地殻内地震のほうがより長周期側にTLを有する.また,M0の変化に伴う振幅の変化を見るとM0が小さな場合はほぼ等間隔で振幅が増大するが,M0が大きな場合は振幅の増加が小さくなる.特に,MJMAの主要な決定周期であるT=5~6秒では,MWが大きくなると振幅がほぼ一定値となり,MJMAが飽和することが想定される.また,プレート地震と内陸地殻内地震を比較すると,内陸地震の方が相対的に小さな地震規模で振幅が飽和することが想定される.
【データに基づくMW-MJMAの関係式】
本検討では,佐藤(1989)の断層パラメータに加え,その後収集された震源インバージョンによるパラメータ(地震予知総合研究振興会, 2005),SRCMODを元に整理したパラメータ(新村・引間, 2023),気象庁による震源過程解析結果,さらに最近の震源解析結果を収集・整理した.各地震のMWはM0から換算し,MJMAは現時点で気象庁が公表している値を採用した.なお,2011年東北地方太平洋沖地震のMJMAは8.4,MWは9.0とした.
仮定する関数形としては,前述のとおり規模が小さい範囲ではMWとMJMAが線形関係にある一方で大規模地震では一定値に飽和するように,以下を設定した.
MJMA=MC/{1+(MC/MW)2n}(1/2n)+dM
上記の式を収集したデータにフィッティングするように各係数を決定した.その際,プレート地震と内陸地震とを分けて検討した.なお,佐藤(1989)の条件を若干変更し深さ70km以深の地震を深発地震とし,ここでのフィッティングには使用していない.また,歴史地震のMはここで考えている観測地震動に基づくMJMAとは性格が異なると考えて,フィッティングには用いなかった.データとのフィッティングをFig.2に,得られた関係式を以下に示す.
プレート地震 :MJMA=8.68/{1+(8.68/MW)10}(1/10)+0.09
内陸地殻内地震:MJMA=7.78/{1+(7.78/MW)20}(1/20)+0.28
内陸地殻内地震はプレート地震よりも小さな規模でMJMAが一定値に漸近する.また,内陸地震のほうが飽和値に急激に遷移する(nの値が大きい)が,これらは,前述の震源スペクトルでの検討と整合している.また,MW 7程度以下の地震では,同じMWであっても内陸地震のMJMAが0.2程度大きく評価される.この原因として,武村(1990)などが指摘するように,浅部で発生する地殻内地震では表面波の励起が大きいことなどが考えられる.
《謝辞》本検討では佐藤(1989),地震予知総合研究振興会(2005)による収集データ,気象庁による震源過程解析結果などを使用させて頂きました.

