講演情報

[S17-04]Neural Operator による津波シミュレーションの代理モデル

*染矢 真好1,2,3、古村 孝志1 (1. 東京大学 地震研究所、2. 日本学術振興会 特別研究員(DC1)、3. 海洋研究開発機構)
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1.はじめに
津波の数値シミュレーションは、海底の鉛直変位を初期条件として海面波高の時間発展を計算する手続きであり、線形長波方程式などの支配方程式を離散化し、数値的な時間積分を繰り返し行う。しかし、広い計算領域を必要な分解能で計算するためには一般に計算コストが高く、津波の即時予測を行うには課題がある。さらに、観測波形を用いて断層パラメータを推定する逆解析では計算回数が膨大となるため、計算コストの削減が課題となる。
こうした課題を解決するため、本研究ではNeural Operator(NO)(Li et al. 2020, Kovachki et al. 2023)を用いた津波シミュレーションの軽量な代理モデルを構築した。NOとは偏微分方程式などの演算子を学習する新しい機械学習の枠組みであり、多数の津波シミュレーション結果を学習し終えたモデルは、初期条件(海底の鉛直変位)を入力すると、その後の波高の時空間発展を瞬時に出力する、津波シミュレーションの代理モデルとして活用できる(図1)。本発表では、NOモデルの構造と訓練方法、断層すべりの逆解析への応用可能性について議論する。

2.代理モデルの構築
本研究ではU-shaped Neural Operator(U-NO)(Rahman et al. 2022)を採用した。U-NOは、医療分野の画像認識で優れた成果を挙げたU-Netに類似したエンコーダ・デコーダ的構造を持ち、段階的なダウンサンプリング・アップサンプリングとスキップ接続を通じて、局所的な特徴と大域的な構造の両方を抽出する特徴を持つ。また、計算負荷の大きな畳み込み演算は、高速Fourier変換を用いて波数(周波数)空間で効率的に行われる。これらの構成により、津波波動場の様々なスケールの現象を効果的に学習することが期待される。
NOモデルの訓練に必要なデータセットは、津波シミュレーションにより生成した。東北沖の海域を計算領域として設定し、(1)ガウス型の滑らかな波源、(2)断層パラメータ(位置、大きさ、すべり量など)から計算された海底変位に伴う波源、の2種類をランダムに用意した。これらを初期条件とし、JAGURS(Baba et al. 2015)を用いて波高の時空間発展を計算した。得られた波源とこれによる波動場の時空間発展のペアを訓練データセットとした。
訓練済みNOモデルの精度を検証するために、訓練に用いていない波源を入力し、その出力を津波シミュレーションによる正解波動場と比較した。その結果、NOモデルは津波波動場の空間的な広がりを良好に再現し、津波シミュレーションの代理モデルとしての有効性が確認できた。しかしながら、津波波高の波数スペクトルを詳しく調べると、短波長成分の振幅を過小評価する傾向も確認され、その改善が今後の課題である。

3.自動微分を用いた逆解析の試み
NOモデルは機械学習ライブラリPyTorchを用いて構築した。モデルの入力に対する出力の勾配は、PyTorchの自動微分機能を用いて簡単に得られる。この機能を用いることで、観測された津波波形とNOモデルの予測波形のミスフィット関数を最小とする最適な初期波高を、勾配法を用いた収束計算により求めることが可能である。ただし、未知数は格子点数に応じて数万個と大きく劣決定問題となるため、本研究ではラプラシアン正則化による空間平滑化を導入した(図2)。
津波予測や津波源の解析においては、津波の初期波高の推定と同時に、断層パラメータの推定も重要な課題である。そこで本研究では、断層運動に伴う地殻変動を評価するOkadaの式(Okada 1985, 1992)をPyTorch上に実装し、NOモデルと結合することで、断層パラメータを入力として津波の波動場を予測するOkada-NO統合モデルを構築した(図1)。そして、統合モデルに勾配法を適用して断層パラメータの推定を行なった(表1)。津波データを用いた断層パラメータ推定において、一般的には津波波形に非線形に寄与する断層パラメータは、あらかじめCMT解などを参考に妥当な値に固定するか、grid searchにより探索することが多いが、それらを勾配法で探索可能になったことは、大きな利点である。一方で、断層パラメータの非線形性が強いために、局所解への落ち込みや初期値依存の課題も明らかになった。

4.今後の展望
本研究で構築した代理モデルの適用範囲は、学習データセットに対応した東北沖に限られるが、津波伝播の物理法則を学習したNOモデルは、原理的には任意の海底地形と波源に対する津波評価に適用できる可能性がある。こうした汎用的な代理モデルの構築には、NOモデルの構造の改良や短波長成分の適切な評価など、さらなる工夫が必要である。また、今後はより複雑で計算コストの高い分散性津波の方程式などに対応した代理モデルの構築も目指す。

5.謝辞
本研究では、東大情報基盤センターのWisteria-aを利用した。