講演情報

[S17-05]陰陽格子を用いた2025年カムチャツカ地震津波の北極域における数値計算

*中垣 達也1、綿田 辰吾1 (1. 東京大学地震研究所)
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一般的に,津波の数値計算には緯度経度格子が用いられることが多い。一方で,この緯度経度格子は極が特異点となることや,高緯度地域で経度方向のグリッド間隔が狭くなるという特徴がある。例えば,北緯75度では緯度0度の場合と比べて同一経度幅の距離が約1/4となる。そのため,陽解法でおこなう数値計算の安定条件であるCFL条件を満たすために時間刻み幅を小さく取る必要があり,計算効率が悪化してしまう。また,極を含んだ数値計算を行うことができず,この領域において数値計算を行うためには極の周辺を数値計算から除外するなどの扱いをする必要がある。しかし,大気波動場のように極を回避することができない計算では問題が生じてしまう。この問題に対処するための手法として,気象学分野では様々な球面離散化手法が試みられてきた。この空間離散化手法の例として,Icosahedral格子やFibonacci grid,Cubed Sphere格子のように非構造格子を用いて地球表面を覆う格子系や,Composite gridやYin-Yang格子のように複数の格子を組み合わせて地球面を表現するキメラ格子などがあげられる。ただし,非構造格子は津波数値計算で一般的である有限差分法を用いた伝播計算に対して適用することが困難である。
本研究では,Yin-Yang格子を用いた全球での津波および大気波動場の数値計算コードの開発を行っている。Yin-Yang格子はキメラ格子の一種で,図のように緯度経度格子の低緯度地域を2枚組み合わせたものである。Yin(陰)格子は一般的な緯度経度格子のうち経度±135度緯度±45度の領域のみを用いたもの(図(a))であり,同一の領域を90度回転させ極域を覆うように設定したもの(図(b))がYang(陽)格子である。Yin-Yang格子は極域を切り出した低緯度領域の格子で覆うことで極における特異性を回避している。そのため,極を含んだ領域においてもそのまま数値計算が可能となる。また,YinおよびYang格子はあくまで緯度経度格子の低緯度地域を切り出して組み合わせたものであるため,従来の緯度経度格子を用いた津波数値計算コードの流用がある程度可能である。さらに,最もグリッド間の距離が小さくなる高緯度領域においてもその値は赤道における距離の約0.7倍程度で済む。そのため,従来の緯度経度格子を用いた場合と比較してCFL条件を満たすために必要な時間刻み幅の制約が緩和されることで計算効率の悪化が避けられるという利点がある。これらの理由により,計算領域に極域を含んだ津波や大気波動場の数値計算を行う場合,空間離散化手法としてYin-Yang格子を採用することは利点があると考えられる。
2025年7月30日(日本時)に発生したカムチャツカ地震において,ベーリング海沿岸のNomeおよび北極海沿岸のPrudhoe Bay(図(c))では,地震発生後に海面の擾乱が検潮記録で捉えられている。本発表では,この極域に近い2観測点における記録に対して,USGSの有限断層モデルから計算される初期波高分布(図(c))に対して開発中のYin-Yang格子を用いた全球津波・大気波動場数値計算コードを用いたシミュレーションを行い,極域を含む津波数値計算例としてその結果を報告する。