講演情報

[S23-07]能登半島群発地震の応力降下量の時空間変動

*小菅 正裕1 (1. 弘前大学大学院理工学研究科)
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1. はじめに
 2020年12月に開始した能登半島の群発地震活動はその後も継続し,2021年9月と2022年6月のM5.1とM5.4の地震,2023年5月のM6.5の地震の発生を経て,2014年1月の能登半島地震(M 7.6)の発生へと至った.そのため,群発地震活動が大地震の発生にどのように関係したかを解明することは,地震防災上も極めて重要な課題である.これまでの研究において,地殻変動,地震波速度構造,および震源のマイグレーションの解析などから,下部地殻から供給された流体が群発地震活動を引き起こしたとの解釈がなされている.
 流体と地震発生の関係については多くの研究があり,間隙流体圧の上昇が有効法線応力を低下させて地震発生を促進するとの解釈が主流である.高間隙流体圧下では断層に働く剪断応力が低くても地震が発生する,すなわち低応力降下量の地震が発生することが期待される.能登半島の群発地震に関しては,応力降下量の深さ分布から地殻流体の寄与が示唆されているものの,時間変動に関するデータは十分とは言えない.そこで本研究では能登半島で発生した多数の地震の応力降下量を推定し,上記の規模の大きな地震の発生との関連を示唆する時間変化を見い出したので報告する.

2. 方法とデータ
 応力降下量の推定は,観測点のサイト増幅率の推定,Qの推定,応力降下量の推定の3段階に分けて行なった.解析にはHi-net観測点での水平動の波形記録を用いた.まず,コーダ正規化法によりサイト増幅率の推定を行ない,それを補正したS波スペクトル振幅からQを周波数の関数として求めた.次に,サイト増幅率とQの補正を行なって変位スペクトルを求め,その観測点幾何平均値に対するグリッド・サーチにより,地震モーメントとコーナー周波数を推定した.最後に,それらにBruneのモデルを当てはめて応力降下量を推定した.グリッド・サーチにおいて地震モーメントとコーナー周波数の推定誤差を評価し,それが標準偏差の2倍を超える結果は採用しなかった.
 解析は,能登半島先端部の北緯37.4°以北,東経137.1°以東で発生したM1以上の地震を対象とし,能登半島とその周囲の観測点を用いた.Mの小さな範囲ではMと応力降下量に依存性が見られたので,以下ではM1.5以上の5500個余りの地震についての結果を示す.

3. 応力降下量の時空間変動
 能登半島の群発地震は4つの領域において発生した.先行研究に倣い,それらの領域を活動開始順に南部・西部・北部・東部と呼ぶことにする.各領域において幅広い範囲の応力降下量が得られたが,全領域での中央値は2.82 [MPa]で,日本の内陸で発生した地震の応力降下量としては平均的である.ここでは応力降下量の小さな地震に注目する.最初に活動が始まった南部の領域は,地震数は多くないが低応力降下量の地震の割合は全領域中で最も高く,低応力降下量の地震は震源分布域の深部において発生したことが特徴である.引き続いて2021年から活動が始まった西部では,活動開始からやや遅れて低応力降下量の地震が発生した.地震活動が特に活発であった北部は,低応力降下量の地震の数も多い.この領域では応力降下量の中央値の時間変化が見られ,2021年後半から2022年初めと2022年後半から2023年初めにかけての期間における値が低かった.東部においては規模の大きな地震が頻発し,その余震活動においては応力降下量が相対的に大きい地震が発生した.低応力降下量の地震は,規模の大きな地震が発生する間の期間において数が多かった.
 先行研究において,下部地殻から供給された流体が2022年6月のM5.4の地震と2023年5月のM6.5の地震をトリガーしたことが示唆されている.今回求めた応力降下量の全領域での中央値(単位はMPa)は,2020年12月から2021年9月までが2.81,2021年9月から2022年6月までが1.78,2022年6月から2023年5月までが2.54,2023年5月から12月までが3.18である.すなわち,2022年6月のM5.4の地震発生前の期間が最も低かったことが注目される.

4. おわりに
 以上のように,群発地震活動が開始した南部領域の深部において低応力降下量の地震が発生していたことと,流体にトリガーされたと考えられる2022年6月の地震の発生前の期間に応力降下量の中央値が低い値を示すことは,流体が地震活動に関与したとの解釈に調和的である.なお,低応力降下量の地震のMは相対的に小さいので,その応力降下量が十分な精度で求められているかについては検証が必要である.

謝辞:本研究では気象庁一元化処理の検測値と震源要素,防災科学技術研究所Hi-net観測点の波形データを使用した.以上の機関に謝意を表する.