講演情報
[S24-01][招待講演]1995年兵庫県南部地震以降の活断層・古地震研究に基づく長期評価の進展と課題
*近藤 久雄1 (1. 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)
1995年兵庫県南部地震発生と甚大な被害は,それまでの活断層・古地震研究と地震発生予測を劇的に変えた.政府の特別な機関として地震調査研究推進本部(以下,地震本部)が設置され,地震調査委員会の下に長期評価部会および活断層分科会が発足した.当初は,全国の98主要活断層帯(長さ20km以上)が基盤的調査観測対象として選定され,活断層および震源断層の位置,地震発生間隔と発生確率,地震の規模等が長期評価として公表されてきた.現在では,短い活断層(長さ20km未満)や沿岸海域の活断層も追加され,「活断層の地域評価」として長期評価が実施されている.さらに長期評価の結果は,強震動評価へも断層形状等の諸元が反映され,地震動予測と発生確率を総合して,全国地震動予測地図へ反映・公表されている.これらの評価結果と公表物は,地震発生前の事前評価として,地方公共団体や関連企業等による利活用,一般住民への普及・啓発等を通じて社会へ広く貢献してきた.日本の活断層・古地震研究とそれに基づく長期評価は,世界的にみてもアメリカと並び最高水準にあり,この30年間で飛躍的な発展を遂げている.本発表では,主に活断層の位置形状,地震発生間隔と発生確率にまつわる進展を概観して紹介するとともに,今後の課題について私見を述べる.
1.活断層・震源断層の位置形状
1980年代以降から1995年まで,「日本の活断層−分布図と資料」(1980)と改訂版(1991)が全国を網羅する活断層の基本的な資料であった.1995年以降は,国土地理院発行の縮尺1/2.5万「都市圏活断層図」などへと詳細化が進んだ.2000年代以降は,「活断層デジタルマップ」を初めとする電子化が進み,地理院地図や産総研・活断層データベース,防災科研J-SHIS等のデータベースでも広く公開されている.地震本部の長期評価では,個別の主要活断層の分布図は未だに基図の縮尺1/20万に留まっている.また,1995年以降には,反射法地震探査等による断層地下形状に関する知見も飛躍的に集積され,地表の活断層と地下の震源断層との関係を詳しく検討可能となっている.さらに近年では,GPS等の測位技術や航空/ドローン/浅海底レーザ計測技術の進展に伴い,数値標高モデルの高精細化が急速に発展しつつある.これらの活断層の位置形状の知見は,活断層の長さを正確に評価するために必要不可欠であり,経験則を介して地震規模や変位量の長期評価に活用されている.
2.地震発生間隔と発生確率
1980年代以降,主にトレンチ調査によって過去の地震発生間隔が推定されてきた.1995年以降,地質調査所(現在,産総研地質調査総合センター)を中心に,全国主要活断層帯の活動履歴調査が網羅的に実施された.2000年以降には,過去の活動間隔と最新活動時期等によって,長期的な地震発生確率を算出することが可能となっている.地震本部設立以降,主要活断層帯の最初の長期評価は1997年公表の糸魚川―静岡構造線断層帯であったが,地震発生確率の算出も同断層帯へ初めて適用された.同断層帯の中北部区間は,依然として最も高い地震発生確率を示す主要活断層帯の1つである.1995年当時から現在までに,調査技術が進展するとともに,放射性炭素同位体年代測定の高精度化も進んだ.1995年当時では1試料あたり±100年程度の誤差であったが,現在では±30年程度まで高精度化が実現されている.さらに2000年代以降,OxCalプログラム等を利用して,個別のイベント発生時期や間隔をベイズ推定による確率密度分布を再計算する手法も国際誌等では定着している.地震本部の評価では,一定の評価基準や手法である必要があるため,個別のイベント年代や発生間隔は1σの年代範囲で統一するに留まっている.
3.今後の課題
このように,1995年から現在までのわずか30年で活断層・古地震研究とデータ取得,それらに基づく長期評価は,急速かつ飛躍的に進展した.評価手法の細部は,兵庫県南部地震以降に被害地震が生じる度に,新たな知見を踏まえて改善されつつある.現時点での大きな課題としては,以下の通りである.1)陸域連動型地震の問題.長大な活断層帯で生じる連動型地震については,ポアソン過程による連動確率の算出手法が提案されるに留まっており未評価である.2)地震発生確率が不明な活断層の問題.未だに諸元が不足する活断層が存在し,新たな調査技術を導入して評価の不均質を是正する必要がある.3)海溝型地震と内陸活断層地震の関係.南海トラフの巨大地震前後に内陸地震が頻発する可能性が指摘されているが,具体的な候補断層や発生可能性は不明である.4)海陸境界付近の活断層の問題.2024年能登半島地震のような震源断層が全国にどの程度存在するかをまず検討する必要がある.
1.活断層・震源断層の位置形状
1980年代以降から1995年まで,「日本の活断層−分布図と資料」(1980)と改訂版(1991)が全国を網羅する活断層の基本的な資料であった.1995年以降は,国土地理院発行の縮尺1/2.5万「都市圏活断層図」などへと詳細化が進んだ.2000年代以降は,「活断層デジタルマップ」を初めとする電子化が進み,地理院地図や産総研・活断層データベース,防災科研J-SHIS等のデータベースでも広く公開されている.地震本部の長期評価では,個別の主要活断層の分布図は未だに基図の縮尺1/20万に留まっている.また,1995年以降には,反射法地震探査等による断層地下形状に関する知見も飛躍的に集積され,地表の活断層と地下の震源断層との関係を詳しく検討可能となっている.さらに近年では,GPS等の測位技術や航空/ドローン/浅海底レーザ計測技術の進展に伴い,数値標高モデルの高精細化が急速に発展しつつある.これらの活断層の位置形状の知見は,活断層の長さを正確に評価するために必要不可欠であり,経験則を介して地震規模や変位量の長期評価に活用されている.
2.地震発生間隔と発生確率
1980年代以降,主にトレンチ調査によって過去の地震発生間隔が推定されてきた.1995年以降,地質調査所(現在,産総研地質調査総合センター)を中心に,全国主要活断層帯の活動履歴調査が網羅的に実施された.2000年以降には,過去の活動間隔と最新活動時期等によって,長期的な地震発生確率を算出することが可能となっている.地震本部設立以降,主要活断層帯の最初の長期評価は1997年公表の糸魚川―静岡構造線断層帯であったが,地震発生確率の算出も同断層帯へ初めて適用された.同断層帯の中北部区間は,依然として最も高い地震発生確率を示す主要活断層帯の1つである.1995年当時から現在までに,調査技術が進展するとともに,放射性炭素同位体年代測定の高精度化も進んだ.1995年当時では1試料あたり±100年程度の誤差であったが,現在では±30年程度まで高精度化が実現されている.さらに2000年代以降,OxCalプログラム等を利用して,個別のイベント発生時期や間隔をベイズ推定による確率密度分布を再計算する手法も国際誌等では定着している.地震本部の評価では,一定の評価基準や手法である必要があるため,個別のイベント年代や発生間隔は1σの年代範囲で統一するに留まっている.
3.今後の課題
このように,1995年から現在までのわずか30年で活断層・古地震研究とデータ取得,それらに基づく長期評価は,急速かつ飛躍的に進展した.評価手法の細部は,兵庫県南部地震以降に被害地震が生じる度に,新たな知見を踏まえて改善されつつある.現時点での大きな課題としては,以下の通りである.1)陸域連動型地震の問題.長大な活断層帯で生じる連動型地震については,ポアソン過程による連動確率の算出手法が提案されるに留まっており未評価である.2)地震発生確率が不明な活断層の問題.未だに諸元が不足する活断層が存在し,新たな調査技術を導入して評価の不均質を是正する必要がある.3)海溝型地震と内陸活断層地震の関係.南海トラフの巨大地震前後に内陸地震が頻発する可能性が指摘されているが,具体的な候補断層や発生可能性は不明である.4)海陸境界付近の活断層の問題.2024年能登半島地震のような震源断層が全国にどの程度存在するかをまず検討する必要がある.
