講演情報

[P005]自己評価とピア評価の推移にみる学習の構造:コミュニケーション演習の実践から

【発表者】江﨑 誠治1 (1. 大阪大谷大学 薬学部 (日本))
【目的】本研究では、大学初年次のコミュニケーション演習において、グループワーク後に実施された複数回の自己評価・ピア評価の記録をもとに、評価の観点別スコア(発信・傾聴・収束)の変化と構造的な特徴を分析し、学修の定量的な傾向や学びの過程を理解する手がかりを得ることを目的とした。
【方法】セッション1〜4それぞれで、ディスカッション(90分×1〜2回)および発表会を実施し、その後にルーブリックに基づく自己評価・ピア評価を行った。評価観点は「発信(A)」「傾聴(B)」「収束(C)」の3つで、各5段階評価。全評価記録から、観点ごとの自己評価・ピア評価の平均および相関、乖離(自己−ピア)の推移、スコア変化に対する相関分析など、多角的な定量分析を行った。評価結果は集計後速やかに返却し、次回のディスカッションに向けた振り返りも行った。
【結果】セッションを通じてピア評価のスコアは比較的安定しており、他者からの評価の一貫性が見られた。一方、自己評価のばらつきはより大きかった。観点別にみると、自己評価・ピア評価のいずれにおいても「傾聴(B)」のスコアが最も高く、また自己評価とピア評価の乖離も小さかった。このことから、傾聴においては学修者自身の認識と他者からの評価が比較的近く、評価の妥当性が高い可能性が示唆された。
同一セッション内では、各観点における自己評価およびピア評価のスコアは互いに強い相関を示した。しかし、自己評価とピア評価の間の相関は低く、セッション間の比較においても、自己評価どうし、ピア評価どうしの相関はいずれも低かった。
また、自己評価・ピア評価ともに、隣接セッション間の変化は総じて負の相関を示した一方で、初回(セッション1)から最終回(セッション4)にかけての変化量と、初期・後期の変化(1→2、3→4)との間には正の相関がみられ、学習プロセスの一貫性や反復による安定化の傾向がうかがえた。
【考察・結論】今回の演習では、評価活動に対する教員の介入を最小限に抑え、学生主体の評価と内省を促した。その結果、一定の成長が確認された一方で、評価のばらつきや変化の多様性も明らかになった。今後は、個人ごとの成長パターンや振り返りとの関係にも着目し、評価活動に対する教員の関与の在り方について実践的な検討を深めていきたい。