講演情報

[P011]薬学英語学習者の深い学びを促す授業の試み―批判的思考態度と動機づけの観点からの考察―

【発表者】児玉 典子1、藤波 綾1 (1. 神戸薬科大学)
【目的】近年のAIを活用した翻訳ツールの普及により、英語でのコミュニケーションや情報共有が容易になる中、AI翻訳ツールを適切に活用するためには、英文内容の「本質的な理解」が重要である。批判的思考は、Ennis (1987)によって「何を信じ、何を行うかの決定に焦点を当てた合理的で、反省的な思考」と定義され、AIと協働するために必要な能力として注目されている。批判的思考には態度と能力の2つの側面で構成され、批判的思考態度は動機づけ及びその影響要因との関連が示されている。そこで本研究では、学習者の批判的思考を促す薬学英語の授業を実践し、その効果を批判的思考態度と動機づけの観点から考察する。
【方法】実践参加者は薬学英語(2024年度3年次前期開講)を履修する学生322名を対象とし、介入授業を14回(100分/回)行った。分析には、介入前後の調査に参加した学生171名のデータを用いた。調査項目は、批判的思考及び批判的思考を取り入れた英文内容の理解、平山ら(2004)の「批判的思考態度(論理的思考への自覚・探求心・客観性・証拠の重視)」から18項目、湯ら(2019)の「動機づけ調整方略(興味高揚・獲得・義務協調・自己報酬・遂行回避目標セルフトーク・自己効力感高揚)」を参考に予備調査から作成した14項目について、5件法で回答させた。動機づけ調整方略の教示文は「批判的思考を使うことが難しい/無駄と感じて取り組むやる気が出ない時に、あなたはどのようにしてやる気を出し、学習を継続しましたか」とした。
【結果・考察】介入後に約70%の学生から、批判的思考及び批判的思考を取り入れた英文内容の理解が「できた」との回答が得られた。また、介入後に論理的思考への自覚において有意な増加が見られたこと、論理的思考への自覚と英文内容の深い理解との間に正の相関が見られたことから、本介入授業が批判的思考態度と英文内容の深い理解に対してプラス効果を与えた可能性が示された。動機づけでは、興味高揚方略が論理的思考への自覚と最も強い相関を示したことから、学習内容が面白くなるように自分なりの工夫をする学習者ほど、論理的思考への自覚と英文内容を深く理解することにつながった可能性が考えられる。引き続き、動機づけと批判的思考態度の関連を明らかにし、学習者の批判的思考を高めて深い学びにつながる効果的な授業を検討していく。