講演情報

[P120]総合知を創出する教材開発がつなぐ域学連携

【発表者】梨本 皐吉1、池田 伊織1、堀松 星翔2、岸田 皐2、三浦 裕也1,2、大越 絵実加1,2 (1. 国際医療福祉大学薬学部 (日本)、2. 国際医療福祉大学大学院 (日本))
【目的】令和3年4月に内閣府から施行された科学技術・イノベーション基本計画では、人文・社会科学と自然科学を含むあらゆる「知」の融合による「総合知」の必要性が示された。「総合知」とは、異なる領域の知を繋ぎ、自分と他者の持つ知を重ね合わせて総合的に判断する力をもたらす知を意味する。「総合知」を含む多様な知を教育に取り入れることは、社会の変革をもたらしwell-beingの最大化に向けた未来像を描く。中でも「理科教育」に代表される科学的な「見方・考え方」は、多くの課題解決に寄与すると考えられ、未来を担う生徒の行動変容を促せる学習として、文理の枠を超えて注目されている。本研究では、地域と協働し「総合知」を反映する理科教材を作成し、新たな価値を創造できる人材の育成を目指した。

【方法】地域に残る「総合知」素材として(1)自然科学の「知」では市の天然記念物であるザゼンソウ群生地を、(2)人文・社会科学の「知」では750年の歴史を持つ雲巌寺を挙げ、理科教材を開発した。(1)ザゼンソウ(サトイモ科)は湿地を好む植物であり群生地が県の緑地保全地域にも指定されている。この地域基盤を活用し、自然環境保全に意識を向けるためザゼンソウと同じサトイモ科のハンゲを選んだ。ハンゲは局方収載漢方処方の3割に使用されている生薬であり、デンプンを含むことが知られている。これをヨウ素デンプン反応で検出・呈色を観察するプログラムを構築した。また、サトイモ科は仏像の後ろにある飾りに似た仏炎苞という形態を持つ。そこで(2)地域の名刹である雲巌寺に協力を求め、仏炎苞から文化財の歴史的価値に目を向ける内容を組み込んだ。

【結果・考察】本研究では地域と協働し、その資源を活用して「総合知」を習得する理科教材を開発した。自然資源を足掛かりに、理科教材を通して歴史的価値のある文化財を認識する内容を総合知として実装した。学習者は様々な角度から物事を捉え、地域と関わる事で総合的に判断する力を養う。自然科学の分野から総合知の創出を支援していく体制を地域と共に作り上げていく。地域にある自然・文化資源と人的資源は互いに相乗することで社会の変革をもたらし、well-beingの未来を描く。異なる領域を繋ぐ「総合知」教育は、新たな価値の創造や町づくりにつながる人材の創出に貢献する。