講演情報

[P027]VUCA時代に対応できる人材育成を目指す生物学教材の開発

【発表者】水谷 征法1、金光 兵衛2、大越 絵実加2,3 (1. 青森大学薬学部、2. 国際医療大学薬学部、3. 国際医療福祉大学大学院薬学研究科)
背景、目的多様性と複雑性が増し続けている予測困難な時代(VUCA時代)において、サイエンス由来のイノベーションが社会構造を大きく変えている。論理的思考力や数値処理能力、データ分析・解析など、科学・数学に関する基礎的な力は重要性が増しているため、理系人材を増やすことが課題となっている。しかしながら、若齢層の科学への興味が薄れていること、加えて薬学部入学者の学力低下から、質の低下が懸念されている。学生の能動的な学修意欲の涵養につながることを期待し、血液溶血と凝固の教材開発を行った。方法 生命維持に不可欠な血液の特徴の習得を目指し、(1)溶血と(2)凝固実験を作成した。(1)溶血実験は0-9%の塩化ナトリウム水溶液を調整し、そこにヒツジの血液を2倍希釈になるよう加え、37℃で1時間静置したのち、室温で一晩静置した。(2)血液凝固実験は生理食塩水で2倍に薄めたヒツジの血液にアラキドン酸あるいは、塩化カルシウム水溶液を加え、37℃で1時間静置したのち、室温で一晩静置した。結果 (1)溶血実験では0.9% 食塩水では溶血しなかったのに対し、0.9%以下の濃度では赤血球より低い浸透圧になるため、赤血球が膨張し、溶血が起こり、0.9%以上では、溶血は見られなかったが粘性が上がった。(2)血液凝固実験では、アラキドン酸、塩化カルシウム共に濃度依存的に血液の凝固が観察された。これらの血液凝固の作用機序が異なることが知られており、発展として、阻害剤を用いて確認する手法も追加できる。アラキドン酸を添加し、血小板の凝集と血液凝固が考えられ、一方で、塩化カルシウムを添加による血液凝固を観察できた。考察 (1)溶血実験では、基礎的な計算によって適切な試薬を調整できることや血液中における浸透圧が赤血球に与える影響の理解を到達目標として構築した。(2)血液凝固実験では、生体内における巧みな制御をとっている血栓傾向や出血時の血液凝固を予測させられた。実験のプロセスは課題の設定から始まり、実験の実施、結果を処理し考察するプロセスを経るため、問題解決能力を身につけるのに有効な手段である。科学の問題解決能力そのものが、実社会での課題解決のプロセスそのものであるため、Society 5.0時代、DX、そして感染症という先の読めないVUCA時代において、科学力を基盤とした問題解決能力を身につけるとこが重要である。